自然環境を保護し、
持続可能な観光の仕組みを作る
エコツーリズムリゾート。
エコツーリズムのルーツを辿り、
世界に数多あるリゾートの中から
いくつか実例を紹介し、
星野リゾート流
エコツーリズムリゾートとは何かを
考えました。
山口 由美
旅⾏作家。『アマン伝説 アジアンリゾート誕生秘話』『⽇本旅館進化論 星野リゾートと挑戦者たち』『勝てる⺠泊 ウィズコロナの⼀軒家宿』など著書多数。
⽇本エコツーリズム協会会員。20年以上にわたり、オセアニア、アフリカ、中⽶、北⽶などのエコツーリズムリゾートを取材。スキューバダイバーでもある。
⼤⾃然の中で⾃然と親しみ、⾃然と関わるアクティビティを⽬的とするリゾートのルーツは、北⽶の国⽴公園内のホテル、ヨーロッパの植⺠地があったアフリカのサファリキャンプに起源があると考えられます。従来の海辺や⾼原のリゾートとは異なったのは、⼈を凌駕するような圧倒的なスケールの⾃然がある場所で、共⽣するかたちでそれらが⽣まれたことです。
アワニーホテル|ヨセミテ国立公園
北米の国立公園は、自然を保全しながら観光を成立させる考え方が世界で最初に生まれた場所でした。世界初の国立公園であるイエローストーン、日本人にも馴染みのあるグランドキャニオンやヨセミテなどが例としてあげられます。これらの国立公園には、オールドフェイスフルイン(イエローストーン)、アワニーホテル(ヨセミテ)、エルトバホテル(グランドキャ二オン)といった歴史あるホテルがあります。
マラマラ・ゲーム・リザーブ|南アフリカ
アフリカのサファリキャンプは、ヨーロッパ人による野生動物のハンティングにルーツがあります。スワヒリ語の「旅」を意味する「サファリ」は、狩猟の旅を意味する言葉になりました。後に商業的なサファリキャンプも登場しましたが、1970~80年代頃までは、ほとんどが狩猟を目的としていました。エコツーリズムの考え方が生まれた1990年代になって、銃をカメラに持ち替えたフォトサファリが中心になり、やがてこれらのサファリキャンプはエコツーリズムリゾートとしての方向性を打ち出すようになります。
ディズニー
ウェルダネスロッジ
ディズニー・ウィルダネス・ロッジ|フロリダ
エコツーリズムリゾートのルーツのひとつが北⽶の国⽴公園内にあるホテルですが、これらは、アメリカ⼈にとって、⼈⽣で⼀度は⾏きたい憧れのホテルとして、特別な意味を持っています。設備が特に優れている訳でもなく、⾷事なども簡素なのに、ハイシーズンともなれば、1年以上前から満室。実際、ホテルに泊まると、本当に幸せそうなゲストの表情に出会います。アメリカ⼈の⼼のふるさと的な存在なのです。それを物語るのが、カリフォルニア、フロリダの両ディズニーランドにある「ディズニーズウィルダネスロッジ」です。
7階まで吹き抜けのアトリウムロビー
ロビーや客室のインテリアは、有名な国立公園内ホテル、イエローストーンのオールドフェイスフルインやヨセミテのアワニーホテルへのオマージュを感じさせる雰囲気にまとめてあります。ディズニーランドとは、さまざまな「夢」を具現化した「夢の国」。アメリカ人にとって、夢のひとつが国立公園内のホテルなのです。日本のディズニーオフィシャルホテルにウィルダネスロッジがないのは、そうした文化が日本には根づいていないということなのでしょう。
世界には、エコツーリズムが実践されている地域が数多あり、数多のエコツーリズムリゾートがありますが、実例を紹介します。
ラパリオス ロッジ|コスタリカ
エコツーリズム先進国と呼ばれる国のひとつが中米のコスタリカです。理由として、国土の総面積の4分の1を国立公園や自然保護区が占めること、北米などから意識の高い人たちが集まったことがあげられます。
ラパリオス ロッジ|コスタリカ
なかでも動植物の宝庫であるオサ半島にある「ラパ・リオス」は1990年代中頃、コーネル大学の教授であったクリス・インマン氏らがサステナブルな観光開発の実践例としてプロジェクトを立ち上げた先進例。ホスピタリティの経験のない地元の人たちを雇用して、エコツーリズムリゾートにおける開発のモデルを示しました。エアコンもない、超自然派リゾートですが、世界からコアなエコツーリストがやってきます。
キングフィッシャー ベイ リゾート|フレーザー島
©Kingfisher Bay Resort
オーストラリアやニュージーランドも本格的なエコツーリズムリゾートの多い国です。クイーンズランド州にあるフレイザー島のキングフィッシャーベイリゾートは、島が世界遺産になった年、1992年に開業しました。
キングフィッシャー ベイ リゾート|フレーザー島
©Kingfisher Bay Resort
エコツーリズムの意識の高いオーストラリアでは認定制度もありますが、10年以上認定を受けている、いわば老舗。規模が大きく、さまざまな客室タイプがあり、ファミリーからハネムーン、学校単位の旅行まで客層が広いのも特徴です。世界遺産の登録と同時に発展してきたという点でも、西表島ホテルのベンチマークとなるリゾートでしょう。
ベアフット マンタ アイランド リゾート|フィジー
南太平洋やインド洋のビーチリゾートもエコツーリズムが早くから発展したエリアです。1995年に開業したモルディブのソネバフシは、こうしたコンセプトの先がけになったラグジュアリーリゾートでした。
フィジーは、オーストラリアやニュージーランドの観光客が多く、エコツーリズムリゾートが盛んな国。なかでもユニークなのが、ヤサワ諸島にあるベアフットマンタアイランドです。最大の特徴は、マンタの出現率が高いパス(ダイビング用語で「水路」の意味)に隣接するリゾートのロケーション。野生動物がよく出没する場所に狙ってリゾートを開業することは、アフリカのサファリキャンプでもよくあります。
ベアフット マンタ アイランド リゾート|フィジー
©Barefoot Manta Island
マンタが出没すると、ラリというフィジー伝統の太鼓で知らされます。ゲストはスノーケルを持って大急ぎで海へ。ほとんどのゲストはマンタ狙いで滞在していますから、マンタスノーケリングは必須のアクティビティなのです。
リゾート内の研究施設
リゾートにはマンタと珊瑚の研究者が滞在していて、調査をしながら、ゲスト向けのレクチャーも行っています。専門家の説明を受けることで、知識を深めながらアクティビティを楽しむことが出来るのです。彼らのマインドはピッキオに通じるものがありました。
バンガロー ビーチフロント
客室の設えはカジュアルで、ブッフェスタイルの食事も質実剛健。ダイニングに置かれた黒板にはその日のアクティビティが書いてあります。
星野リゾート流エコツーリズムリゾートは、コアなツーリスト向けの魅力とエコツーリズム初心者に向けた気軽に楽しめる魅力が必要です。
北米やヨーロッパと異なり、日本では、エコツーリズムリゾートのルーツになる歴史的背景がなく、サステナビリティの考え方が一般化したのも最近です。日本人で本格的なエコツーリズムにアンテナを立てるのは、まだごく少数だと思います。しかし、世界のエコツーリストは、先進的なエコツーリズムが実践されている国と同じ本格的なアクティビティや、それにふさわしい滞在の仕方を望みます。本物の自然を体験するためには、多少の危険や不快なことがあっても厭いません。この2つの客層にコミットしていくのが星野リゾート流エコツーリズムリゾートに必要なことだと思います。
イリオモテガイドウォーク マングローブコース
つまり従来の星野リゾートの客層には、気軽に参加できるアクティビティや、楽しく可愛らしいプレゼンテーションでエコツーリズムに入門し、自然に親しんでもらうのです。アジアからのインバウンドにも、この路線は受け入れられるでしょう。
一方、コアなエコツーリスト(主に欧米から)向けには、より本格的なアクティビティや長期滞在プランを構築し、地球の裏側から西表島だけを目指してもらえるような魅力を発信します。
施設全体としては、サステナビリティへの配慮やエコツーリズムリゾートらしさのある内観など、コアなエコツーリストにも受け入れられるスタイルが必要だと思います。
星野リゾート
西表島ホテルの
アクティビティ
秘境ナーラの滝へ
ダイナミック西表島
アドベンチャー
西表石垣国立公園内の美しいマングローブ林が続く仲良川(ナカラ川)と、仲良川上流のジャングルの奥地に在る「ナーラの滝」。これらは、手つかずの自然が残る一級の秘境です。 ジャングルクルーズ、カヤック、トレッキング、滝遊び、生き物観察、マングローブ&亜熱帯植物観察など、西表島の遊びの魅力を凝縮した濃厚なツアーです。
水面に浮かぶ、一夜だけ咲く幻の花を楽しむ
絶景サガリバナクルーズ
夏の限定された期間だけ開催される、水面に浮かぶ一夜限りの花を楽しむ「絶景サガリバナクルーズ」。西表島には6月から7月のある期間にだけ見られる、夜に咲き朝には散るサガリバナと呼ばれる一夜限りの儚い花があり、早朝には川一面が花で埋め尽くされる幻想的な絶景を眺められます。ガイドから説明を聞きながら、水面に浮かぶサガリバナの絨毯の中をクルーズ船で進みます。サンドイッチとコーヒーを片手に、この時期限定の絶景を堪能しながら、朝のゆったりした時間を過ごすことができます。
星野リゾートの
エコツーリズムリゾート
勝手にSDGs
創業当時から環境経営を行なっている星野リゾート。
SDGsの主要課題の一つである海洋プラスチックごみなどによる環境汚染や気候変動、
エネルギー利用に関しての取り組みについてご紹介します。