みちくさの達人
栃木の美酒に出合える酒蔵6選

米の甘みや旨味がふわっと広がる濃醇な酒揃いといわれる栃木の日本酒。仕込みに適した清澄な水が県内各地に湧き出で、300年以上も昔からおいしい地酒が造られてきました。現在は30前後ある蔵元がそれぞれの伝統とこだわりのある酒を醸し、地元の歴史風土にちなんだ銘柄で親しまれています。
今回ご紹介するのは酒蔵の様子を見学できたり、日本酒教室を開催したり、観光気分で訪れて楽しめる6つの蔵元。風格ある建物や石蔵、名水を汲める井戸など、酒蔵ごとに趣が異なりおもしろみがあります。もちろん見学後の試飲もお楽しみのひとつ。生原酒から熟成酒まで、好みに合う栃木らしい地酒を探しに蔵元巡りに出かけてみませんか。

新旧の技を結集した酒と資料館が楽しめる、益子の観光酒蔵

看板銘柄の「燦爛」。純米酒 2,850円、吟醸酒 3,500円(各1,800ml)など
看板銘柄の「燦爛」。純米酒 2,850円、吟醸酒 3,500円(各1,800ml)など

江戸時代から続く造り酒屋から分家し、益子の地で1937年(昭和12年)に創業。現在三代目となる当主は伝統的な酒造りを極める一方、焼酎やリキュール、コスメの開発も手がけ、日本酒の持つ新たな魅力を発信しています。代表銘柄「燦爛(さんらん)」の他、兵庫県産山田錦を使用し袋吊りから滴った酒のみを集めた大吟醸「外池 AUTHENTIC」など味わいもコンセプトも多様な酒がずらり。季節限定品もあり、訪れるたびに新鮮味のある1本に出合えます。どぶろく、イチゴやユズなどのフルーツフレーバーのお酒も評判。国内外のコンテストで多数の受賞経験があり、輸出先の海外ファンも多い人気蔵です。

貯蔵用の蔵を改装した資料館で、酒造工程の写真や道具を見学

3階建て程の高さがあり、大規模な蔵の雰囲気が体感できます
3階建て程の高さがあり、大規模な蔵の雰囲気が体感できます

昔ながらの蔵を活用した「酒蔵資料館」には、年間約7万人が来訪。スタッフの解説を聞きながら、蔵の歴史、創業当時や酒蔵工程の写真とイラスト、昔から使われてきた道具の展示などを見て回れます。併設のカフェで「燦爛(さんらん)」3種類の利き酒ができるのもうれしいポイント(おつまみ付き)。仕込み水にも使われる敷地内の井戸水を、試飲時のやわらぎ水としていただくのも一興です。売店でのお土産購入まで含め、見学は所要約50分。見学後は井戸水で淹れたコーヒーや甘酒ソフトクリームを楽しむのもおすすめです(別料金)。

まろやかなヴィンテージ酒が眠る、国内でも珍しい洞窟貯蔵庫

年間を通して平均10℃前後を保つ静かな洞窟は、酒の熟成に最適な環境
年間を通して平均10℃前後を保つ静かな洞窟は、酒の熟成に最適な環境

JR烏山駅から烏山城跡へ向かう途中に見える、「東力士」の赤い看板が目印。創業は1849年(嘉永2年)で、二代目が大の相撲好きだったことから名付けられた酒銘が、今も続く代表銘柄になっています。果実香あふれる旨口タイプで食中酒にも最適と評判です。
特筆すべきは店舗から少し離れた里山の麓にある、洞窟を利用した貯蔵庫。第二次世界大戦の末頃に戦車製造のため掘られた洞窟で、那須烏山市の近代化遺産に指定されています。洞窟の闇の中、静かに時を経て熟成されるのが「熟露枯(うろこ)」シリーズ。おしゃれなヴィンテージボトル入りで3年、10年、20年ものがあり、美しい琥珀色で甘さを感じるまろやかな熟成感を堪能できます。

案内のタブレットを片手に、探検気分で洞窟の中へ

洞窟内部はひんやりしているので夏でも羽織ものがあると安心
洞窟内部はひんやりしているので夏でも羽織ものがあると安心

洞窟酒蔵(貯蔵庫)は土・日曜日や祝日には一般開放されており、案内用タブレットの自動音声を聞きながら、コースを辿って内部見学ができます。100mのたて抗が3本、60mのよこ抗が5本、総延長600mもある洞窟内に、約10万本の酒が眠る様子を見られるのは他ではできない興味深い体験です。所要時間は約15分。コース内はバリアフリーになっています。洞窟酒蔵の開放日は洞窟内の売店もオープンしており、長期熟成酒の購入が可能です。
店舗と洞窟酒蔵間(約2.4㎞)の往復用に、自転車の無料貸し出しもあります(所要約15~20分。車の場合は約10分)

米を作り酒を醸して350年。地元で愛される華やかで繊細に香る酒

4人の杜氏(とうじ)が従事し、基準値以上の厳しい精米歩合など自社のこだわりを大切にしている
4人の杜氏(とうじ)が従事し、基準値以上の厳しい精米歩合など自社のこだわりを大切にしている

名水の地、佐野市で約350年もの間、時代に合う酒「開華」を造り続けてきた老舗。創業時から一貫して米作りも行い、今も自社水田では酒米「ひとごこち」や飯米「あさひの夢」などの田植えから収穫まで、全て社員が行っています。「開華」はどれを飲んでもおいしいと感じてもらいたいとの強い思いから、1998年以降は特定名称酒(吟醸酒、純米酒、本醸造など)のみを醸造。甘く華やかな香りと磨き抜かれた雑味のない飲み口は一献また一献と杯が進み、幸せな心地へ誘います。木箱入りや受賞酒を集めたセットなど、贈り物に喜ばれる逸品も揃っています。

米蔵を再利用し、写真展示などを行う「ギャラリーホール 酒蔵楽」

約50㎡の空間は地域の文化イベントや音楽会などのスペースとして無料開放することも
約50㎡の空間は地域の文化イベントや音楽会などのスペースとして無料開放することも

酒蔵や母屋は江戸時代後半に建てられたもので築160年以上。酒蔵の一角に開設された「ギャラリーホール 酒蔵楽」は、有形文化財指定の米蔵をモダンな設えにリノベーションしたスペースで、酒造りの様子などを紹介した写真パネルが常設展示してあります。酒蔵内部を詳しく見たい方には例年2月開催の「酒蔵見学会」がおすすめ。蔵人の案内で蔵内部を巡り、搾りたての新酒のテイスティングができる人気企画です。他日でもルートを簡略した蔵見学を事前予約制で受け付けています。
売店には酒の酸化を防ぐ「窒素ガス注入式自動日本酒サーバー」が設置されており、常時8種類の日本酒が飲み比べできます。

手間と時間を惜しまず絞る珠玉の一滴を詰めた生原酒

無濾過で熱処理をしていない、完全に「生」の酒。「生原酒 素顔」(720ml)3,500円
無濾過で熱処理をしていない、完全に「生」の酒。「生原酒 素顔」(720ml)3,500円

1880年(明治13年)創業以来、「佐瀬式」と呼ばれる圧搾法をかたくなまでに守り続けているこだわりの酒造。「佐瀬式」とは、熟練した杜氏(とうじ)や蔵人(くらびと)の手でもろみを一つひとつ袋に詰めて積み上げ、じんわりと圧を加えて搾る方法のこと。とにかく手間暇がかかるため、今は県内でも数軒しか行っていないそうです。労力を重ねて丁寧に搾られた酒は驚くほど雑味がなく、日本酒の真髄に迫る味が堪能できると評判です。人気ナンバーワンの「生原酒 素顔」をはじめ、フルーティーなやさしい吟醸香で淡麗辛口の「大吟醸 素顔」など、酒通もとりこにする1本に出合えます。蔵元直販でしか手に入らないお酒は栃木旅のお土産にぴったりです。

小規模酒造ならではの細かいこだわりや手仕事感が垣間見れる蔵内

仕込み前には蔵人の手で、酒蔵内を隅々まで徹底的に掃除。先人からの教えをそのまま実直に守っている
仕込み前には蔵人の手で、酒蔵内を隅々まで徹底的に掃除。先人からの教えをそのまま実直に守っている

売店のすぐ奥にある酒蔵には「佐瀬式」で使われる槽、にじみ出てきた酒が流入する地下タンクや貯蔵タンクを効率よくまとめて配置。酒造工程が手に取るようにわかります。酒蔵見学は1日4回開催しており、時期によっては搾りたての酒を試飲できることも。
酒の決め手となる仕込み水は、地下16mから汲み上げる日光連山の伏流水。敷地内の井戸から絶えずあふれ出ており、清冽で口あたりまろやかな水を無料で持ち帰ることができます。
お酒の他、「原酒柏盛」を含ませた「酒ケーキ」も販売。しっとりした食感で、常温で2カ月間保存可能です。

昔の日光街道の繁栄を伝え、今も観光客で賑わう純米蔵

酒造りの様子を近くで見られて、レクチャーも面白いと人気の観光スポット
酒造りの様子を近くで見られて、レクチャーも面白いと人気の観光スポット

旧日光街道沿い、道の駅や土産物店などが並ぶ今市エリアにあり、立ち寄りやすいロケーション。敷地内には築100年以上の重厚な建物が連なり、酒蔵内部の見学と「日本酒教室」が楽しめます。日本酒の雑学や選び方のポイント、地酒の話など、お酒好きには面白くてためになる内容。11月~3月は、蔵人(くらびと)が酒を仕込む様子を間近で見られるので、興味のある方はこの時期に訪れるのがおすすめです。見学後は代表銘柄を数種類、テイスティングできます。

冬はマイナス10℃にもなる厳寒の中で仕込む至高の酒

左から「生酛純米酒 尊徳」1,550円、「純米吟醸 日光誉」1,800円 共に720ml
左から「生酛純米酒 尊徳」1,550円、「純米吟醸 日光誉」1,800円 共に720ml

創業は1842年(天保13年)。純米酒こそが本来の地酒であるとの考えから、造る酒の9割が純米酒となっています。自慢の酒の基本となる酒米はできるだけ県産にこだわり、特に「純米吟醸 日光誉」は地元・今市の農家が作る「五百万石」を使用しています。「生酛純米酒 尊徳」は栃木県が開発した酒米「とちぎ酒14」と酵母で仕込んだ渾身の酒。酵母を手作りするなど非常に多くの労力を要するため近代以降はあまり行われなくなった伝統製法「生酛(きもと)造り」を、約100年ぶりに復活させたもので、すっきりした旨味と酸味は食中酒にぴったりです。ラベルには二宮尊徳翁の教え「報徳訓」が記されています。
日本酒の他、焼酎や、日光の天然水100%の甘さ控えめなサイダーも販売しています。

南部杜氏の技と最新技術を融合した新たな日本酒に国内外が注目

従来は温度管理と遮光が基本とされていた醸造工程に、光の力を活かした新発想の技術を採用し特許も取得
従来は温度管理と遮光が基本とされていた醸造工程に、光の力を活かした新発想の技術を採用し特許も取得

軒先に杉玉がある長屋門をくぐると、眼前に歴史ある建物群が広がります。門の他、煙突など4つの建物は国の登録有形文化財。創業者は近江商人にルーツを持ち、「三方良し」の精神を守りつつ地域社会と共に150年間歩んできた酒蔵です。酒造りの基本は南部杜氏(とうじ)の名匠と呼ばれた故・継枝氏の技術。濃醇旨口を軸としたコク深い地酒は、しっかりした味付けが多い栃木県の食と相性が良く、地元の愛飲家から長く支持されてきました。地力のある伝統技術を根底に、酒米をあえて使用せず古代米100%で醸した純米酒、酵母の自然対流を可視化したクリアタンクの醸造酒、光による発酵管理を行うLED色光照射発酵酒などにも挑戦。前衛的な新技術と商品は国内外を驚かせ、日本酒の新たな可能性を掘り起こしています。

試飲内容や人数で選べる3タイプの見学コースを開催

地酒「若盛」や「門外不出」、LED色光照射で発酵させた酒「ILLUMINA(イルミナ)」などの飲み比べを楽しめる
地酒「若盛」や「門外不出」、LED色光照射で発酵させた酒「ILLUMINA(イルミナ)」などの飲み比べを楽しめる

酒蔵見学は地域貢献の一貫として大歓迎。長屋門の先の仕込蔵、釜場、麹室などが見学できます。レギュラー、スペシャル、酒造体験の3コースがあり、蔵見学案内と試飲、ショッピングがセット。スペシャルコースでは大吟醸や限定酒などの試飲もでき(最大6種類、銘柄は時期により不定)、酒造体験は蔵人(くらびと)と一緒に醸造作業が体験できる充実した内容です。
2022年春には、敷地内に精米蔵を改装した「日光街道 小山蒸溜所」が完成。伝統と未来を融合させたインダストリアルな世界観で「夢日光 ウォッカ NIKKO DREAM VODKA」や国産ウィスキーを製造。今後はジンも展開する予定です。

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