みちくさの達人
温泉王国「別府」ならでは。多彩な湯巡り&「地獄グルメ」満喫の極楽旅へ

2800以上の源泉があり、いたるところから噴煙が立ち上る湯の街、大分県・別府。多様な泉質と日本一を誇る圧倒的な湧出量により、温泉通の間でも憧れの地として知られています。市街に点在する8地区の温泉は「別府八湯(はっとう)」と呼ばれ、それぞれに個性豊かな泉質や街の趣きを楽しめるのが大きな特徴。工夫に満ちた温熱浴の文化も発達しており、長く培われた歴史を感じながら温泉の新たな魅力にも出合えます。旅の合間には高温蒸気や熱湯が噴出する「地獄」パワーで作った気軽なグルメもぜひ。目で、肌で、香りで、味わいで、と存分に楽しめる温泉天国・別府の奥深い魅力をご紹介します。

別府にある源泉の数は2800以上、湧出量は1分に10万2千ℓ超(※)。どちらも日本一の数値を誇ります。ちなみに全国2位の大分県湯布院温泉を見ると、源泉数は約1000、湧出量は約5万2千ℓで、別府が大きく抜きん出ていることがわかります。さらにすごいのは、単純温泉や塩化物泉、硫黄泉など10種類ある「掲示用泉質」のうち、7種類も別府温泉郷の中で楽しめる点です。質・量ともにこれほど充実している温泉地は他になく、「別府温泉は日本一」と称賛されるのもうなずけます。
※「令和3年度温泉利用状況報告書(総括表)」(大分県ホームページ温泉データ)による

黒破線は断層(A:朝見川断層 K:鉄輪断層 N:無名の伏在断層)、→は熱水の流動方向、●は昔の自然湧出の温泉や地獄、赤の曲線は海面下100m深での地温分布、ピンクの影は熱水と蒸気が共存する範囲 提供:別府温泉地球博物館
黒破線は断層(A:朝見川断層 K:鉄輪断層 N:無名の伏在断層)、→は熱水の流動方向、●は昔の自然湧出の温泉や地獄、赤の曲線は海面下100m深での地温分布、ピンクの影は熱水と蒸気が共存する範囲 提供:別府温泉地球博物館

ところでなぜ、別府温泉郷には7種類もの泉質があるのでしょうか。その秘密を知るため、まずは地質的な特徴をひもといてみましょう。
別府は、活断層が多く分布する「別府―万年山断層帯」に位置し、市西部の鶴見岳・伽藍(がらん)岳から東の別府湾へと広がる扇状地。太古の鶴見岳の火山活動による火砕流や土石流による岩石で形成されています。注目したいのが、鶴見岳方面を基点に扇状地の北と南を走る2つの断層の存在。この断層が熱水の地下流路となっており、昔からある「地獄」(噴気・沸騰泉)や近年の掘削泉も2つの断層の周りに多くみられます。北部の鉄輪(かんなわ)断層沿いには亀川・柴石・鉄輪・明礬(みょうばん)、南部の朝見川断層沿いには浜脇・別府・観海寺・堀田と、「別府八湯」も断層沿いに位置しています。

断層を流れる熱水の源は、鶴見火山群の地下にある塩化物泉型の熱水といわれます。地表から浸透した雨水が熱水と合わさり、地下熱で沸騰したり蒸気が凝結したり、扇状地に堆積した多様な岩石と化学反応することでさまざまな泉質が生じていると考えられます。
また、湧出の状態もさまざまで、山から海へ向かって順に、高温の水蒸気が噴出する「噴気」、熱水が沸騰しながら蒸気とともに噴き出す「沸騰泉」、沸騰点より低い温度で採取される「一般温泉」が分布。このように多様な湧出形態は「湯に浸かる」だけではない豊かな温泉文化を別府にもたらしています。

別府の開湯は古く、8世紀頃に記された「伊予国風土記」には別府温泉についての記述があります。長らくは点在する村や町ごとに独立した温泉場として栄えてきましたが、明治時代以降、交通の発達や町の合併等が進んだことで、大正13年までには代表的な8つの温泉地を総称し「別府八湯」と呼ばれるように。ここでは個性豊かな8つの温泉地の特徴と魅力をご紹介します。

◆浜脇温泉 <泉質例:単純温泉・炭酸水素塩泉>

鉄輪(かんなわ)と並び、別府温泉発祥の地と伝えられる温泉地。別府温泉郷の南側、海岸沿いにあり、浜から温泉が湧き出る様子から「浜わき」という名が生まれたといわれています。江戸時代には港町としても賑わい、明治~大正時代の花街の名残りも。現在は浜から朝見川下流周辺にひなびた共同浴場が点在し、地元の人との交流が楽しめます。市営の多目的温泉保養館「湯都ピア浜脇」は休憩室もあり、ゆっくりと滞在できます。

◆別府温泉 <泉質例:単純温泉・塩化物泉・炭酸水素塩泉>

別府温泉郷の玄関口、JR別府駅を中心に広がりアクセス至便。「別府八湯」の代表格ともいえる温泉地で、中でも街のシンボル「竹瓦温泉」は必見です。丸みのある唐破風造(からはふづくり)の屋根はノスタルジックな風情にあふれ、絶好の記念撮影スポット。中は名物の砂湯と男女で異なる泉質の浴場があり、記憶に残る温浴体験ができます。他、ワンコイン以下の共同浴場から高級旅館の立ち寄り湯まで、バラエティ豊かな施設が揃っています。

◆観海寺温泉 <泉質例:単純温泉・塩化物泉>

鎌倉時代から温泉場として開けたエリア。朝見川上流、標高約200m地帯にあり、別府市街地から別府湾、さらに晴れた日には四国まで望める展望の良さが特徴です。無色透明のやわらかな温泉が楽しめる共同浴場や、珍しいコバルトブルーの湯色の露天風呂を持つ立ち寄り湯などがあります。ケーブルカーや滝の名所にも近く、観光と組み合わせて訪れるのもおすすめです。

◆堀田温泉 <泉質例:単純温泉・炭酸水素塩泉・硫黄泉>

写真提供:別府八湯温泉道
写真提供:別府八湯温泉道

東九州自動車道別府ICからすぐ。観海寺温泉からは鶴見岳方面へ少し上った辺りにあります。のどかな田畑と山岳風景の合間に噴気が上り、豊富な湧出量に恵まれています。江戸時代から湯治場として栄え、湯布院や日田方面を行き来する旅人を温かく癒してきた歴史ある温泉地。週末には地元の人や観光客で賑わう市営の温泉施設では、ふわふわと湯の花が浮かぶ温泉を露天岩風呂で楽しめます。

◆亀川温泉 <泉質例:単純温泉・塩化物泉>

別府中心街からやや離れた、北部海沿いのJR亀川駅周辺。江戸時代には小倉への交通の要所であり、海岸に湧く温泉と砂湯が往来する人々に親しまれてきました。中世の災害で埋没した温泉を明治時代に復興し、再建を重ねてきた「亀陽泉」が有名です。湯船が半地下にあり、脱衣所との間に仕切りがないなどレトロな別府スタイルの共同浴場もあり、温泉ファンの間で密かな人気となっています。

◆鉄輪(かんなわ)温泉 <泉質例:単純温泉・塩化物泉・硫酸塩泉・硫黄泉>

「別府八湯」の中でも特に温泉情緒があふれ、豊かな温熱文化を持つ地区。路地のあちこちから湯煙が上る様子に魅かれるように、散策を楽しむ観光客の姿も多く見かけます。鎌倉時代に「玖倍理(くべり)湯の井」といわれた地獄(噴気・沸騰泉)を僧侶の一遍上人が鎮め、「むし湯」「渋の湯」など今も愛され続ける温泉場を作ったと伝えられています。噴気や地熱を調理に活かす「地獄蒸し」の味を体験できる飲食店も軒を連ねます。

◆柴石(しばせき)温泉 <泉質例:単純温泉・塩化物泉・含鉄泉・酸性泉>

江戸時代に柴の化石が見つかったことが名前の由来と伝えられています。895年(寛平7年)に醍醐天皇が、1044年(寛徳1年)には後冷泉天皇が療養したという由緒のある温泉地です。渓流沿いに立つ市営温泉は「あつ湯」「普通湯」に分かれた別府らしいスタイル。龍巻地獄からの引き湯で酸性泉が楽しめる「長泉寺薬師湯」、酸化鉄や酸化マグネシウムを含んで赤く見える「血の池地獄」に併設された足湯など、個性の強い温泉巡りができます。

◆明礬(みょうばん)温泉 <泉質例:単純温泉・含鉄泉・硫黄泉・酸性泉>

「別府八湯」でもっとも標高が高く、伽藍(がらん)岳(別名:硫黄山)の中腹に位置。江戸時代には明礬や湯の花採取で有名になったエリアです。今もわらぶきの「湯の花小屋」が立ち並ぶ風情ある景観を残し、重要無形民俗文化財指定の湯の花製造の様子を見学できる施設もあります。白濁の硫黄泉、ミルキーブルーの酸性泉、異彩を放つ泥湯など、見た目も香りも印象深い温泉との出合いが待つ温泉地です。

源泉や泉質の多さの他、珍しい方法で温泉パワーを楽しめるのも温泉天国・別府の大きな魅力。明治生まれの詩人・野口雨情は「豊後鉄輪蒸し湯のかえり 肌に石菖(せきしょう)の香が残る」と蒸気で温まる「むし湯」を詠嘆。高温の噴気や地熱を活用した、別府で昔から親しまれている温熱体験をご紹介します。

◆「鉄輪むし湯」の「石菖(せきしょう)蒸し」

鎌倉時代、一遍上人が開いたと伝わるむし湯。約8畳ほどの石室に入り、床に敷き詰められた薬草の上に横たわる独特のスタイルです。薬草は清流沿いにのみ群生する、石菖という菖蒲の仲間。空間を満たす清涼な香りと蒸気が心身を癒し、日本古来のハーブ浴を体験できます。入る際はリラックスできる服を持参するか、レンタルを利用。8~10分を目安に退室し、休憩をしながら浴槽でさっぱりと湯浴みすれば極楽気分に。

敷地内には気軽な「足蒸し」も設置

「鉄輪むし湯」の入り口付近には、蒸気で足を温める「足蒸し」もあり、無料で楽しめます。椅子の前にある蓋を開け、蒸気の中に膝下を入れるとあっという間に体中がポカポカし、汗が出てくるほどの熱気を感じます。別府ならではの珍しい体験として国内外の観光客でいつも賑わっています。足湯のような気軽な気分で、散策途中にトライしてみてはいかがでしょうか。

鉄輪むし湯
  • URLhttps://www.city.beppu.oita.jp/sisetu/shieionsen/detail11.html
  • 住所別府市鉄輪上1組 MAP
  • 営業時間7:30~19:30(最終受付19:00)
  • 定休日第4木曜(祝日の場合は翌日)
  • 入場料むし湯700円(入浴は中学生以上)レンタル浴衣220円 足蒸しは無料
  • TEL0977-67-3880
  • 駐車場市営温泉「熱の湯」の無料駐車場を利用可能
  • メモ「足蒸し」は蒸気状況により利用不可の場合もあり

◆「竹瓦温泉」の「砂湯」

別府駅から徒歩約8分、別府温泉のシンボル的建物。名物の「砂湯」は、入口で借りた浴衣に着替えて砂の上に横たわり、砂をかけてもらうという流れ。温泉で温められた砂は程よい温度でしっとりと重みがあり、得も言われぬ心地よさに誘われます。約10分間の砂湯体験の後は、シャワーで砂を流し、温泉に入って終了。屋内型なので雨の日や冬季にも立ち寄りやすいスポットです。館内には砂湯とは別に男女別の温泉もあります。

竹瓦温泉
  • URLhttps://www.city.beppu.oita.jp/sisetu/shieionsen/detail4.html
  • 住所別府市元町16-23 MAP
  • 営業時間砂湯8:00~22:30(最終受付21:30)普通浴は6:30~22:30
  • 定休日第3水曜(祝日の場合は翌日)
  • 入場料砂湯1,500円(普通浴も含む)普通浴のみは300円
  • TEL0977-23-1585
  • 駐車場なし
  • メモ砂湯は6歳以上入浴可能
    混雑時は受付番号を配布するので時間に余裕を持って訪れるのがおすすめ

◆「夢たまて筥(ばこ)」の「箱蒸し」

鉄輪(かんなわ)エリアに立つ日帰り入浴施設。さまざまな温浴の一環として露天風呂隣に「箱蒸し」が設置されています。「箱蒸し」は鉄輪・明礬(みょうばん)温泉に古くから伝わる和風サウナ。一人ずつ区切られたヒノキの箱を開け、中の椅子に座って蓋を閉めると首から上だけが箱から出ている状態に。足元から満ちる蒸気でしっかり温まり、頭は外に出ているので息苦しさもなく、熱気で髪が痛む心配もないといいことづくめ。開放的な気分での「一人サウナ」はくせになる快適さです。

夢たまて筥(ばこ)

◆別府駅前広場の「手湯」

JR別府駅前広場にあるモニュメントの中。別府原産の別府石を使った土台から、かけ流しの温泉があふれています。泉質はナトリウムー塩化物・硫酸塩泉。しばらく手を浸けていると体全体がほっこりとあたたまり、気分もリフレッシュできます。カラフルに色どられたモニュメントは竹製で、市内各所から湧き出る豊かな温泉をイメージして作られています。

別府駅前広場の手湯
  • 住所大分県別府市駅前町12-13 MAP

入浴や蒸し湯を満喫したら、ゆっくりと散策も楽しみたいもの。街のあちこちでは、別府らしい噴気や温熱を利用した「地獄蒸し」で作る名物おやつが売られています。ほてった体を冷ましながら頬張りたい、人気のグルメをご紹介します。

◆「明礬温泉 岡本屋売店」の「地獄蒸しプリン」

「地獄蒸し®プリン」330円(持ち帰りは324円)。カスタード味とコーヒー味が選べる
「地獄蒸し®プリン」330円(持ち帰りは324円)。カスタード味とコーヒー味が選べる

1988年(昭和63年)から変わらない製法で職人が一つひとつ手作りし、「地獄蒸し」で仕上げた絶品プリン。ほろ苦いカラメルがかかった、濃厚で舌触りのなめらかなプリンはお皿に盛ってその場でいただけます。売店は明礬(みょうばん)温泉で明治時代から旅館を営む岡本屋が手掛けており、看板商品のプリンの他、地獄蒸しのたまごをフィリングにしてたっぷりとはさんだサンドイッチなども。つい色々と食べてみたくなります。

岡本屋売店

◆「海地獄」の「極楽まんじゅう」

「極楽まんじゅう」15個入り600円。入場してすぐ目の前にある売店で販売
「極楽まんじゅう」15個入り600円。入場してすぐ目の前にある売店で販売

別府の数ある「地獄」の中でも、コバルトブルーの泉色が大人気のスポット。硫酸鉄を多く含む酸性の温泉で、湧出温度は約98℃です。高温の噴気を利用した地獄釜で蒸して作るおまんじゅうは、甘さ控えめのこしあんを薄皮で包んだもの。親指大ほどの一口サイズでコロコロした見た目も愉快な感じ。ポンポンと口に運び、あっという間に平らげてしまう楽しいおやつです。この他、海地獄に直接入れて茹でたたまごも評判です。

海地獄

◆「ひょうたん温泉」の「地獄蒸したまご」

「地獄蒸したまご」1個80円。お好みで塩(サービス)をつけて食べてもおいしい
「地獄蒸したまご」1個80円。お好みで塩(サービス)をつけて食べてもおいしい

鉄輪地区にあり、種類豊富な温泉設備が楽しめる日帰り温泉。お目当ての「地獄蒸したまご」は中庭の休憩スペースにあります。100度近い源泉の蒸気で蒸し上げたたまごが大ざるに入って、ひょうたん型の湯口から流れる温泉で温められているのでいつもホカホカ。脇のカゴにお金を入れて購入するシステムもレトロな趣きです。たまご購入のみで立ち寄る場合は、受付でその旨を伝えると中庭に通してもらえます。中庭では飲泉や、蒸気を吸い込む温泉吸入も体験できます。

ひょうたん温泉

別府温泉の中心街に近く、街の賑わいと山海の豊かな景観の双方が楽しめる絶好の地に立つ温泉旅館。館内でも温泉街をイメージした活気あふれる演出に出合えます。昼夜それぞれにドラマティックな表情を見せる客室や足湯からの眺め、別府らしさを凝らした意匠や夕食・朝食の味覚、格別な心地良さに誘う温泉。「日本一」と呼ばれるにふさわしい温泉地の魅力を、余すところなく体感する時間がここにあります。

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