『民泊』に大賛成
がんばれ田邉さん!
田邉泰之
Airbnb Japan 代表取締役。
94年に米国の大学を卒業後、ミズノ、マイクロソフト勤務などを経て、13年にAirbnbのシンガポール法人に入社し、日本法人設立に参加。14年5月のAirbnb Japan設立と同時に代表取締役に就任。02年米ジョージタウン大学院経営学修士(MBA)取得。大阪府出身。
星野
最近、いろんなところに登場されていますから。よくお顔は拝見しています。
田邉
いやお恥ずかしい。
星野
田邉
ありがたいです。
今回の対談はAirbnbのホストのリビングをお借りした。都内でありながら、緑豊かな環境、スタイリッシュでエコな雰囲気溢れる素晴らしいデザインのお宅
星野
まず今日は、この場ではなんでも話したいと思っています。もちろん公式サイトにアップする前に確認していただきますので(笑)。そうじゃないと、私も大変なことになってしまいます(笑)。90年代後半から2000年代前半、公の場所で自分が正しいと思う意見を、まわりを気にせず発言してきました。その当時は相当バッシングされましたけど、最近はもう誰からも何も言われなくなりました。「またあの人言ってるよ」って(笑)。
実は先日、旅館業界の同業者の団体の皆さんがいらして「民泊反対」の活動に参加して欲しいというので、私は反論しました(笑)。
田邉
えっ!
星野
反対の理由の一つが「利用者の安全」ということであったのですが、私は民泊に、たとえそういう課題があったとしても、それは利用者や行政が問題視するなら解りますが、旅館業界が言うのは格好わるいと思うんです。本音は競争がこわいだけで反対しているとすぐに思われてしまう。
同時に私たちはもっと「顧客視点」で発想しなければいけない。なぜ民泊がこれだけ世界で広がりをみせているのか。それはホテルや旅館よりも顧客ニーズに応えている部分があるからなのです。私たちはこの現象をホテルと旅館の変革につなげないといけない。だから民泊の規制緩和に反対するのではなく、既存のホテルや旅館の変革の障害になっている旅行や旅館関連の規制も見直して、新しい顧客ニーズに応える変革が可能な環境を作って欲しいと主張すべきだと思っています。
田邉
ありがとうございます。
弊社のプラットフォームを活用くださっている旅館業の方もすでにいらっしゃいますので、ぜひ、我々としても今後ぜひWin-Winの関係をより深めていきたいと考えております。
星野
私は民泊賛成なのですが、なぜ民泊賛成かと言いますとね。私の体験から言うと、NYCのUberは、イエローキャブの意識を相当変えたと思っています。つまり新しい良いサービス・ライバルの登場は、既存のサービスの大変革につながる。私が留学していた80年代のイエローキャブは汚くて運転は荒っぽくて、英語も通じなくて、料金も安定しなかった。ただ、最近はそうではない。イエローキャブもUberのサービスのごとく、清潔で運転手のサービスも良くなりました。あれはUberがなければああならなかったと思っています。
だから私はAirbnbにもどんどんやってもらいたいのです。競争こそが、ホテル側の変革につながりますから。
*1 | 官民対話 |
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日本経済再生本部の下、「『日本再興戦略』改訂 2015」に基づき、グローバル競争の激化や急速な技術革新により不確実性の高まる時代に日本経済が歩むべき道筋を明らかにし、政府として取り組むべき環境整備の在り方と民間投資の目指すべき方向性を共有するため、未来投資に向けた総理大臣主宰の官民対話。 |
*2 | Uber |
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自動車配車ウェブサイトおよび配車アプリ。一般的なタクシーの配車に加え、一般人が自分の空き時間と自家用車を使って他人を運ぶ仕組みを構築している。また、顧客が運転手を評価すると同時に、運転手も顧客を評価する「相互評価」を実施していることが特徴。 |
星野
田邉さんはどういう経緯でAirbnb日本法人の代表になられたんですか?
田邉
もともとはコンシューマー系のマーケティングをしていまして、コカコーラ、マイクロソフトなどにおりました。その後、huluの立ち上げを経験し、これから何をしようかなと思っていたときに、Airbnb のサイトを見たんですね。それで、これが普及したら旅がもっとエンタテインメント寄りになるのかな、と感じたんです。以前、MTVの立ち上げに関わったこともあり、旅とエンタテインメントの科学反応が起こったら面白いなと興味をもちました。
星野
なるほど。今、アメリカの本社はどこですか。
田邉
サンフランシスコです。
星野
創業者はどういう経歴でこのサービスをスタートしたんですか。
田邉
もともとはアートスクールの同級生だったジョー・ゲビアとブライアン・チェスキーという二人が起業を考えていて、二人で揃ったのはいいけれど、お金がない。翌月の家賃もえなくてどうしようというときに、この部屋をブログで見せて貸そうと。ベッドがないから、ゲスト用にエアーマットレスを膨らませて置いたんですね。それが社名であるAirbnbの語源になりました。そのあと、ネイサン・ブレチャージクが加わり、3人が共同創設者になりました。
過去30年、日本の規制にやりたいことができなくてもどかしさを感じてきた星野。今回の民泊規制に対して、ぜひぜひ田邉さんにがんばってもらいたいと思わず力が…
星野
いい話ですね。ベッド代わりにエアーマットレスを(笑)。
田邉
それもベッドルームではなく、エアマットをリビングに置いたり、キッチンに置いたりして。3人目までを泊めたらしいんです。そういう状況だから、なるべくおもてなしをしなきゃということで、外へ連れていったり案内したりして。泊まる側も泊める側もこれは楽しいよね、ということになって、Webサイトを立ち上げたそうなんです。
星野
Airってインターネットの意味かと思っていたら、エアマットだったんですね。bnbはB&B、つまりベッド&ブレックファーストですか。
田邉
意味としてはそうですが、部屋を貸す側はけっして朝食を提供する必要はなくて。基本的には宿泊場所で。提供されるおもてなしのレベルはディープにやられる方もいれば、置き手紙だけをされる方もいらっしゃいます。それはCtoCでお好きなレベルを提供することになっています。
星野
アメリカでのコアユーザーというのは、Airbnbに対してどういう価値を見出しているんですか?
田邉
Airbnbユーザーの多くは旅慣れた人たちです。平均年収も平均学歴も高めな方々で、旅をするときにはディープにその土地の文化を知りたい。地域の家に泊まると見えてくる景色や滞在時の体験が変わってきますよね。地元の人たちと同じような生活をしたり、文化や人に触れ「旅の化学反応」を求めています。Airbnbに集まる一般の人たちが提供する宿泊場所と生活&文化。それが楽しくて来ていただいているようです。ユーザーは旅慣れていて伝播力がある人たちなので、2013年頃まではまったくマーケティング活動することなく、190カ国以上に広まったのです。
星野
スタートはいつなんですか。
田邉
2008年ですね。
星野
だいぶ前にスタートしていたんですね。私が知ったのは3~4年前です。だいぶ広まりましたよね。どのくらいの成長率なのですか。
田邉
日本市場でいうと去年1年間で、インバウンドの数が5倍くらいになっているんですね。それに合わせるかのように、登録されているお部屋の数も3倍のペースで伸びてきています。
星野
アメリカも同じようなペースですか。
田邉
伸び率は少しスローダウンしてきていますけれども。まだかなり伸びています。
星野
あるカテゴリーの顧客のニーズを捉えてるわけですね。ニーズの根本というのは、旅のヘビーユーザーがもうちょっと文化的にディープな体験を求めているということですか?
田邉
まだまだマスではないですけれども。WEBサービスでもなんでも、創世期のサービスや商品に最初に寄ってきてくれるのは「本当にそのサービスや商品(旅)が好き」な人たちだと思います。それがAirbnbのサービスでは、「旅慣れてディープにカルチャーを知りたい人たち」ということでしょう。
日本のマーケットは世界でもトップクラスの成長率。アジアからの日本への旅行者も買い物だけでなく、体験がメインに移行しつつあるという。ホストが提供する宿泊という文化体験に注目してもらいたいと田邉さん
星野
年齢層はどうですか。
田邉
利用者は若い人からシニアまで。幅広いですね。
星野
若い人寄りのサービスというわけではないのですね。
田邉
はい。特にホストの人は年配の方の伸び率が大きくなっています。年齢や性別よりも似たような特性を持ってる方という感じがあります。もともと私はコンシューマーサービスをやっていますので、なんかのセグメントに切れないかといろいろ調査したのですが、やっぱり性や年齢では切れませんでした。どちらかというと世代を問わず、他の文化に興味をもっていて、コミュニケーション能力が高くてという方々ですね。
星野
確かにそうですね。人の家に泊まって文化を楽しむのですから、コミュニケーションに長けていないといけないでしょうし、好奇心旺盛でそれを楽しめるというのが特性になっていくのでしょうね。
田邉
そうですね。また、旅先での体験は旅先で完結するのではなく、好奇心の次の扉を開き、さらに体験を求めて旅に出たくなりますね。
星野
ここからは世の中的、一般的なAirbnbのイメージというのも含めてお伺いしたいんですけど。
旅のヘビーユーザーは、今まではホテルに泊まっていたと思うんですね。世界中で。アメリカなんかそうだと思うのですが、ヘビーユーザーがAirbnbのようないわゆる“ショートタームレンタル”に移行しているのは、なぜなんでしょう。ホテルの何がダメだったのでしょうか。
田邉
我々はそういうデータは持ち合わせていないので、正確なことは言いづらいですが。感覚的にいいますと、別に移行しているわけではないと思います。
星野
そうですか。ほんとうに?
田邉
もうひとつ選択肢が追加されたというイメージですね。基本的には毎回“ショートタームレンタル”を使っているわけではなくて、使い分けているような気がします。お寺の宿坊を楽しむ時もあれば、旅館に泊まる時も、ホテルに泊まる時もある。
体験を楽しむ宿泊。今回のホスト宅にはアートやデザインを始めとした本が並ぶ本棚が吹き抜け天井まである。普通のホテルではなかなか体験できない空間と文化度の高いホストが魅力的なお宅
ホストのお宅のダイニングには今までのゲストの出身地がマッピングされた世界地図がある。
星野
それはAirbnbの日本代表としての正式コメントですね(笑)。
田邉
いや、そういうわけではなくて、本心で。
星野
うーん。
私はやっぱり、ホテルからある程度の顧客を奪うものだとは思いますよ。たとえば航空業界を例に挙げると、日本にも2012年に国内LCCが誕生したじゃないですか。あれは価格を理由に利用しなかった顧客を相当数、飛行機ユーザーにしたんですよ。大手エアクラフトの顧客を全部は奪わなかったが、LCC利用者の半分は初めて飛行機を使う人たちで、半分は大手が心配したとおり、大手航空会社からスイッチしているのです。そういう意味で、航空業界全体には貢献していると思うんです。
“ショートタームレンタル”も、ある程度ホテルや旅館から顧客を奪うと思うし、だからこそ、旅館やホテルは変革すると思うのです。取られないようにがんばろう、と。
お客様はどのあたりが、ホテルや旅館より民泊がいいと思うんでしょう?
田邉
いえ、先ほどの私の話は表向きの話だけではないですよ。なぜなら都会での旅行で夜遊びしたりしたければ、ホームシェアリングでホスト宅に深夜12時に帰るのは申し訳ないなあという気持ちもあるでしょうし。たとえば、出張のときにフレキシビリティがないときはホテルを選ぶでしょう。
星野
でも選択肢としてね、ホテルしかなかったときはホテルに泊まったわけですから。民泊という新しい選択肢が出てきたとき、ある条件のときはそっちへ宿泊しようということになる。これは何かホテルや旅館が顧客を満足させていないものがあるんだろうと思うんですね。それが、民泊が支持される理由なのだろうと。それは我々サイド、既存宿泊施設が考えなきゃいけないことなのですが。
田邉
宿泊ビジネスだけではないかもしれないんですけど、CtoCの特徴として、ロングテール *3であるということです。マス向けを満たす宿泊ビジネスと、ロングテールはまったく違うものだと思います。Airbnbのホストは1軒1軒違います。やっぱり一人ひとりが思う宿泊先やサービスを思い描いて、それを満たすものを探す、そして見つかれば、ひとつずつが成立する。どちらかというと、マス向けではないものを提供しているだけで、穴を埋めているような感じ。食い合うことはないと思います。
星野
食い合わないというのは公式見解だと思いますけど(笑)。私が業界の方々に伝えているのは、民泊は市場を食い合うことになります。だから既存サービスの切磋琢磨につながっていくんですと。これを否定してはいけないと思っているんですよね。
田邉
そうですね。ただ、旅のスタイルから言うと、単に宿泊したい人たちと宿泊を通して文化体験したい人たちに分かれているのではないかと思うんですよ。
星野
文化体験しつつ宿泊したい人は地域の個性取り込んだ宿泊先に泊まりたいですよね。それはとてもわかります。温泉旅館などは、そちらに近いと思います。
京都ではハイアットリージェンシーに3泊泊まって京都観光した外国人観光客が「星のや京都」に最後の2泊は移動するんですよ。ということは、「星のや京都」の泊まることをディープな日本文化体験と捉えているんですよね。それに似た感じですかね。
「星のや京都」の文化体験アクティビティの中の一つ「朝のお勤め」。旅行者では体験の手配するのが難しい本物の体験を提供している。
田邉
はい。なぜそこは強く言えるかと言いますと、私も星野リゾートのヘビーユーザーでして。先日も北海道の「星野リゾート トマム」に行ってきたばかりですなんです。これはケースバイケースだと思うんですよ。やはり体験、シチュエーション、一人なのか? 家族と一緒なのか? ビジネストリップ?なのかということだと思うんです。
星野
旅行者が条件で使い分けるというのはよくわかるんですけども。民泊は、消費者から支持されているということは否定しちゃいけないと思います。公正な競争こそが宿泊業界全体が顧客志向になり、日本の観光業界の課題を修正していく原動力になっていくと思うのです。競争は否定しないほうがいいですよ。
田邉
相乗効果だと思います。今後、インバウンドもさらに増えていくし、国内旅行市場も増えることで、旅行市場自体も大きくなっているという珍しい状況です。
日本だけというよりはアジア地域全体がボーダレスになってきていますし、どうやって相乗効果を生んで、日本大好きな人を増やすかだろうと。アジア地域へのトラベルの頻度は増えますので、ホームシェアリングでも相乗効果を生んで、旅館やホテルの良さも引き立っていくと思いますよ。
*3 | ロングテール |
---|---|
インターネットを用いた物品販売の手法、または概念の1つであり、販売機会の少ない商品でもアイテム数を幅広く取り揃えること、または対象となる顧客の総数を増やすことで、総体としての売上げを大きくする手法。 |
星野
もうひとつお聞きしたかったのは、ホテル業界の反対とか、民泊規制の動きはアメリカではどうなっているのでしょうか? ニューヨークのホテル業界が猛反対していたりするのですか?
田邉
ホテルもそうなんですが、やっぱり地域によって、旅行者のニーズが違いますし、街としてショートタームレンタルとの共存の方法は違っていますね。日本はユニークな地域でして、都会でも空き家がいっぱいあるとか、単純な食い合いにならない。ニューヨークなどは、不動産物件数が足りなくて、民泊に使用すると単純に家を借りたい人が借りられなくなる、というケースが出てきたりします。その場合、ニューヨーク市と組んで、どうしたらいいかを一緒に考えます。日本は日本でベストな形があると思うんです。
世界各地で不動産市場と社会事情は違い、それによって必要なルールも違う。日本でも日本の社会と市場にあったルールは必要だし、出来上がっていくと、田邉さん。
星野
同じ国でもニューヨークとサンフランシスコは全然違うわけですね。
田邉
はい。それぞれの街でサービスは提供させてもらっていますが、都度話し合いながら、解決していっています。ルールはあったほうがいいと認識していますので。それぞれの都市や国の事情に合わせて、協力をさせていただいております。
星野
どこでも、市や国と協調しながら進んでいる、と。
田邉
またはその方向にあります。
星野
これからという都市もあるんですね。
私はシェアリング・エコノミー *4というのが、今後の宿泊業界の大変革につながると思っていて、変革につながるということは、進化につながると思っているんです。それが世界中で痛みを伴いながらも進んでいるときに、日本だけが国内事情だけを視点において規制を強化してしまったら、日本の進化だけが遅れる。競争力が落ちて総体的な力が弱くなると思うのです。
そういう考えのもとに伺いたいのですが、今、日本は世界のなかで、どのくらいの規制を求められているのですか。
田邉
ルールづくりは今なされているタイミングです。今、日本には民泊供給側は二種類あって、一つは自宅のホームシェア、もう一つは空き家がいっぱいあるので、それを事業として提供している方が出てきています。事業提供については、別のルール作りがなされるべきところだと思っています。今、いい方向にはすすんでいます。
グローバルで伸びている市場のなかで、日本はかなり上位にあります。利用者の数も規模も成長率もかなりトップクラスの市場に成長しつつあります。ゲストの成長率では世界1位です。インバウンド利用も1位。アジアに来られるインバウンドの3人に1人がAirbnbのサービスを利用されています。日本市場はかなり大きな規模になってきているんです。そのなかでルール作りが加速しています。
星野
遅れても、よいルールができればいいですよね。ルールはなんだか厳しくなりそうという懸念はありますか?
田邉
簡単でわかりやすく現実的なルール作りが進むことを期待しております。
星野
海外ではどのようなは制限がかかっているのでしょうか? たとえば、民泊特区の大田区は6泊7日からでないと民泊提供できないようになってますが、ああいうルールは他の国でもあるのですか。
田邉
やはりそれぞれの都市、国ごとにルール制度が作られています。我々は旅館業法ではない新しいルールを望んでいます。進むと思っています。
星野
近隣住民への周知というのもあるんでしょうか?
田邉
はい。日本でも4月の旅館業法の緩和などルール変更があった場合にはホストさんへ周知をしています。ただ、ホームシェアリングは一般の方々が利用されています。ご高齢の方も増えてきていますので、個人にとってわかりやすいルールでなければならないと考えています。
星野
規制緩和が遅れ、日本の宿泊業の変革のスピードを止める。「変わらなくていいんだ」になるのが一番いけないですね。市場を食い合うのはいいんですよ。「今のホテルのどこがダメなのか」を明確にしてあげないと、競争する力が湧いてこない。旅館業界の方々にも私は「おそれるな」と発言しています。自分たちが変わるということが一番の防御なのであって、外からの新興を規制したところで、自分たちの悪い状況が止まるものではないんですよね。
全国統一のルールのなかでも旅館業法をどう扱うかには、関わってこざるを得ないですね。当然問題になってきますよね。
田邉
自宅を貸す場合は旅館業法と別ルールでお願いしたいと提案しています。
星野
海外の場合、自宅を貸す場合と空き家を貸す場合は違うんですか?
田邉
例えばフランス・パリの場合は、生活の本拠として使用している住宅(フランスでは年間8か月以上居住している場所と定義)は短期の賃貸を行うことができる。主たる住宅以外の物件については、自治体に任されていますが、許可されている地域においては市当局の「用途変更」認可を得ることが条件となっています。
星野
要するに2軒目というのは空き家のことなんですね。パリでも、空き家の場合とは違うんですね。
田邉
パリは、実際に賃貸で借りる人に配慮してのことなんです。ですので、日本の場合はまた違うかもしれない。都心部と郊外でも違ってくるのではないでしょうか。
星野
Airbnbのお客様の需要としては、オーナーが住んでいる一部屋を泊まりたいというホームスティ型の需要と、オーナーがその家には住んでいない空き家をまるまる借りて泊まりたい需要はどちらが高いんでしょうか?
田邉
世界的にみて、8割以上のホストさんは、自宅を貸し出しています。貸し出し方としては、自宅を貸すホストさんの中でも、自分が自宅にいないときに自分の家をまるまる貸す、というのが半分よりちょっと多いですね。
星野
私はその空き家に泊まりたいニーズは、実はもっと大きいと思っているんですよ。
田邉
我々の方向性としては、宿泊より体験にシフトしていきます。宿泊はあくまで体験の1つとしての位置づけです。今後どんなビジネスにしていくかはまだわかりませんが。ローカルの人となんらかの接点をもうけることは増やしていきたいです。
星野
それは世界のAirbnbの全体の動きですか。
田邉
はい。
星野
そうなんですね。それはなんでなんだろう。顧客のニーズからきてるでしょうか。
田邉
泊まるというニーズではなくて、少しでも地元と触れ合うということが大事だと思っているんです。
星野
おそらくニーズはまったく違うんだと思いますね。必ず誰かの家に泊まりたい人と、空き家に泊まりたいんだという人は。ディープな文化を体験したいという人は幅広いサービス提供をウエルカムでしょう。空き家に泊まりたい人は価格コンシャスかもしれない。
田邉
それは同じ空き家でも、都市部のマンションと飛騨高山の日本家屋ではまた全然違うでしょうね。
星野
特区と日本全体ではルールは変わっていきそうですか。
田邉
そうですね。
*4 | シェアリングエコノミー |
---|---|
欧米を中心に拡がりつつある新しい概念で、ソーシャルメディアの発達により可能になったモノ、お金、サービス等の交換・共有により成り立つ経済の仕組み。 |
星野
ホテル業界が入ってくるのはひとつ手ではありますね。ウエルカムですか?
田邉
素晴らしい体験を提供されている旅館や民宿のお部屋は、弊社のサイトにはすでに数部屋はあったりします。
シェアリングエコノミーのエコノミーの部分で、不動産、金融、物流の方にお話すると全然違うアイデアが生まれてきます。
別荘をもっと、空いている時期に貸し出せば、別荘を持てる人が増えるという不動産業者さんもいる。あまりにも縛ってしまうと、そこから生まれてくるアイデアを縛ることになりますよね。それは良くないと思います。
星野
確かに、軽井沢の別荘は8月しか稼動していなくて、それ以外誰もいない別荘地が子どもの頃の私たちの遊び場だったんです。軽井沢の別荘は柵を作ってはいけないという条例があるので好き勝手できるんですよ(笑)。
でも今考えると、その11ヶ月に別荘を誰かに貸せるとしたら、水も電気も稼動するし、町内のレストランもスーパーも閑散期が減る。シェアリングエコノミーが与える観光地へのインパクトって大きいですよね。
越後湯沢のリゾートマンションも、一部屋20万円くらいで売っているんです。地方こそ、シェアリングエコノミーやAirbnbをやるべきだと思います。そこは何かアイデアはありますか?
話しは民泊の未来から、定住に頼らない別荘を利用した地方自治体の収入確保などについてまで。
田邉
ご存知とは思いますが、海外ではバケーションレンタル *5という考え方がありまして、*チャネルマネージャー *6というプラットフォームもあるんですけど、まだまだこれから先のこととして考えてはいきたいですね。
星野
別荘を貸すことは、都市計画法というのが問題になるんですよね。用途制限がかかっちゃっていて。別荘で商売をしちゃいけないっていう。本当は地方経済にとってプラスだと思うのですが。
田邉
地方の方とお話しすると、例えば1週間住んでみて、これだったら住めると思ってもらえる人を増やしたいということも聞こえてきます。
星野
別荘があるということは固定資産税を払ってもらっているのですから、まずはそちらを大事にしたほうがいいと思います。Airbnbが来て別荘の稼働率が上がって別荘地の値段が上がる。Airbnbで販売することを想定していいものを建てるだろうし。固定資産税が上がるし、そのほうが絶対に地方自治体にとっていいと思います。
別荘をシェアして使ってもらう、ファンになってもらって、地方納税制度にもっていく。そのほうが短期的にいい収入になると思いますよ。
*5 | バケーションレンタル |
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別荘地域の別荘を貸し出すこと |
*6 | チャネルマネージャー |
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複数のプラットフォームとバケーションレンタルのオーナーなどを自動的につなぐシステムのこと。 |
星野
田邉さんを含むAirbnbの経営陣は、日本の観光業界がどうなっていくかという責任を担っていると思います。それは中途半端な規制に納得しないということです!あんまりディフェンシブに回らず、本来あるべき姿を目指してほしい。そんなことやっていたら日本だけ遅れますよ、と。
田邉
今、日本政府が進めている規制緩和は、我々にとっても非常にうれしい方向で進んでいます。星野さんが思われる理想の形はどんな形ですか。
星野
完全フリーにすることが理想の形です。安全さえも担保する必要はないと思っています。Airbnbのいいところは、貸す側も利用者を評価することができるところです。行儀のいい高い評価の顧客でなければ貸さない、ってうことができる。
田邉
断ることもできますからね。
星野
そうです。マーケットの正しい評価に任せればいいと思ってます。あるいは、c to cの間に安全のための新しいサービスが生まれてくると思います。顧客を評価する第三者機関とか、Airbnbアドバイザーみたいな人が現れて、称号をもらえるとか。自由にさせておけば、借りる側も貸す側も評価される。ある程度のリスクは自分で背負う。それが一番健全だと思います。
田邉
同感です。マーケットプレイスでルールがなくても「断れる」ことがありますから。やりとりのチャットなかでも「違うな」と思うこともあるでしょうし。
星野
Aさんが1ヶ月前に泊まってるけど、この人どう?みたいなことをオーナーどうしが聞けるとか。そういうサービスも含めて出てくる可能性がありますね。
田邉さん、もっとアグレッシブになったほうがいいですよ。
田邉
ここ半年が勝負ですね。
星野
勝負のしどころですよ。うーん。私のほうがAirbnbに向いてるかもな(笑)。ありがとうございました。
構成: 森 綾 撮影: 萩庭桂太