スマホアプリで旅そのものが変わっていく
Vol.3で進化する旅と最新テクノロジーについて
たいへん盛り上がった堀江さんとの対談。
今回は「星のや 竹富島」に来ていただきました。
世界に広がる旅をオモシロく、自由に作れるスマホアプリの可能性についてなど、
興味深い話が盛りだくさんです。
堀江貴文
1972年、福岡県生まれ。SNS株式会社ファウンダー。現在は自身が手掛けるロケットエンジン開発を中心に、スマホアプリ「テリヤキ」「焼肉部」「7gogo」のプロデュースを手掛けるなど幅広い活躍をみせる。ホリエモンドットコムでは『テクノロジーが世界を変える』をテーマに、各界のイノベーター達に堀江自らがインタビュワーとなり取材したものを連載中。同じく毎日更新のブログ、今話題のニュース集めたニュースキュレーションでもワクワクするような情報や独自の見解を発信中!
メールマガジン「堀江貴文のブログでは言えない話」の読者は1万6千人を越える。
@takapon_jp ホリエモンドットコム星野
堀江さんは、竹富島は初めてですか。
堀江
僕は離島が好きで、竹富島にもジェットで来たりしていました。このあたりの離島にも結構行っていて、石垣島や宮古島にも何回か行ったことがあります。
星野
沖縄本島にも行っているんですか。
堀江
頻繁に行くようになったのは会社を辞めてからですが、昔から結構行っていましたよ。初めて沖縄に行ったのは小学生の時です。日本に返還されて間もない頃で「少年の船」という子供達を沖縄に連れて行って、交流する児童プログラムに参加していたんです。その時初めてシークヮーサーを飲んで、感動したことを強烈に覚えてます。あとはパイナップル。僕が小学生の頃って、30年以上前だから、パイナップルって普通は缶詰でしか食べられなかったんですよ。
星野
僕も堀江さんよりちょっと上の世代だから、よくわかります。
堀江
そこで初めて生のパイナップルを食べたんですが、本当においしくて。結局興奮して食べ過ぎちゃって、パイナップルの分解酵素で口の中がガビガビになりました。(笑)
星野
それが沖縄との出会いだったんですね。(笑)
堀江
あとは、二十歳のころ、全国をヒッチハイクで旅してた時期があって、その時も、鹿児島までヒッチハイクして、そこからフェリーで沖縄に行きましたね。伊是名島という所に行きたかったんですよ。『パイナップルツアーズ』という、沖縄出身の監督が3人集まって作ったオムニバス映画があるんですけど、すごく良い映画で、ロケ地に行ってみたかったんですよね。僕、NHKの連続ドラマの『ちゅらさん』も大好きだったんですよ。
星野
『ちゅらさん』のロケ地は小浜島ですよね。星野リゾート系列のリゾナーレがあります。
堀江
ありますね。この間、小浜島に行ったときもガジュマルの木を見たかったんですよ。結局、時間がなかったんですが。
会社を辞めた後、先輩が『ちゅらさん』のDVDボックスを貸してくれて、小浜島のガジュマルの木の下のシーンが感動的なんですよね。
星野
うーん、今の堀江さんの話は、観光を専門にしている僕からすると、すごく参考になります。やっぱり沖縄は、そうやって積極的に情報発信をしてきたから、堀江さんのようなファンが多いんですよね。映画とか、小説の舞台となった場所に行ってみたい、という気持ちが、沖縄を訪れる動機になっている。
堀江
特に沖縄は、そういった聖地巡礼的な感覚で行くことが僕は多いです。
星野
今、若者が旅をしなくなっているらしいんですよ。昔の堀江さんのようにヒッチハイクのような旅をする学生が少なくなっている。特に、日本国内を旅する人が減っているみたいなんです。昔は、鈍行列車で遠くまで行けたじゃないですか。でも、新幹線が出来て、移動するのが高くなってしまった。それが減った理由だとも言われているんですが。
堀江
新幹線は関係ないんじゃないでしょうか。僕が書いた「ゼロ」でヒッチハイクの話を書いたんですけど、それに影響されてヒッチハイクで旅をしたという人がいっぱいいたみたいですし。むしろ今は、若者を旅に出させてくれるような作品、それこそ昔だったら沢木耕太郎さんの「深夜特急」のような、ああいう作品が少なくなっているからかもしれない。
星野
旅に憧れる気持ちが育たないということですか。それはそうかもしれないですね。観光業界の人は、お金のせいにしたがるんですよ。
堀江
お金がなくたって旅はできますよ。むしろ今の方が旅行代はかからなくなっていると思います。
星野
堀江さんは、お金のない学生時代、どんなところに泊まっていたんですか。
堀江
例えば、ヒッチハイクをやっていた頃は、「1ドルハウス」というところに泊まっていましたね。鰻の寝床みたいな作りをした和風のカプセルホテルで、1000円で泊まれたんですよ。1ドル=360円だった時代は、本当に1ドルで泊まれたらしいです。でも、僕はバカだったんで、宿は安いんだけど、地元の飲み屋で飲み過ぎちゃって、1晩で10万円使っちゃったりしてたんですよね。
星野
宿は1000円なのに。(笑)結局どうしたんですか?
堀江
友達がカードで10万円くらい借金して、そのお金で伊是名島まで行きましたね。帰りの旅費は本当にギリギリでした。1ドルハウス以外だと、友達の家や民宿とか。
星野
なるほど。じゃあ、そもそもお金を持ってないから、旅する人が減ってる、というのは必ずしも当たっているわけではないかもしれない。もうひとつ、今はネットがあるから、昔だったら旅行代や飲み代に回っていた分が、ネット代やスマホ代に消えてしまっているというのもよく聞く理由の一つです。
堀江
でも情報代は昔に比べてめちゃくちゃ安くなってると思いますよ。僕らが学生の頃なんて、旅の情報を得るのが本当に大変でしたから。おいしい店とか、地元の人に聞くしかなくて。今は、旅行の口コミサイトなどがいっぱいあるし。
星野
地理情報もそうですよね。いまは、スマホがナビ代わりになってくれるから、ものすごく楽になった。やっぱり旅する環境は今の方が整っているんですよね。むしろ旅をする人は劇的に増えてもいいはずなんですけど。
堀江
僕の印象では、旅行のニーズは増えていると思うんですけどね。
星野
もしかしたら、今の若者は旅に時間をかけたくないのかもしれないですね。昔は、安くいけるなら、移動にいくら時間がかかっても良かったじゃないですか。今の若者はそういう発想ができなくなってしまっていて、旅行するにしても、早く移動できる手段をどうしても求めてしまうのかもしれない。
堀江
でも飛行機にしても、LCCを使えば、すごく安く乗れますよ。
星野
LCCはまだ、人々の間に普及していないのかもしれません。ここにLCCができたのもつい最近、2年前の話ですからね。
もっと日本でLCCが飛んでほしいんですよね。日本には98の空港がありますが、その大半があまり利用されていない状態ですから。
堀江
日本って、航空大国になるポテンシャルを持っていると思いますよ。
星野
近距離の便を増やしてほしいんですよね。東京と、長野の松本空港とか。秋田や山形と、東京を結ぶ便もそうですね。
堀江
そういえば僕、前回の対談で言い忘れたんですが(笑)、尾道のホテルのアドバイザーをやっているんですね。今度そのホテルのマリーナに、日本で初めての水上飛行場ができるんです。
星野
へーえ。そうなんですね。
堀江
僕、広島の尾道というところで選挙に出ましたよね。尾道の造船会社の方が僕らを応援してくれていたんですが、その会社がホテルを保有していたんです。ホテルベラビスタ境ガ浜と言って、崖の上のすごく美しい場所にあるホテルなんですが、10年ほど前にリノベーションして、今、かなり良いホテルになっているんですよ。
星野
そこに、水上飛行場ができる。なるほど。それはいいですね。
堀江
広島や神戸、福岡からセスナで短時間でアクセスが出来るようになると思います。もう、1~2年でできるはずです。
星野
一番いいのは、水上飛行場どうしを結ぶことなんですよ。日本はそれができるポテンシャルがあると思うんです。片方だけ水上にあっても、発着の時間をと着陸料の調整をするのが大変ですから。湖や川は着陸料がいらない。飛ぶのは車輪付きのセスナですよね?
堀江
そうです。
星野
両方水上なら、セスナに車輪がなくてもいいんですよ。水上に着陸するので。実現するには許認可が必要になってくるんですが、物理的には簡単なんです。もし、それが実現できれば、自分の家の前の湖から、一気に尾道のリゾートまで行けるわけですから、これは素晴らしいですよ。
堀江
なるほど。そのリゾートの沖合は瀬戸内海なんで、無人島がいっぱいあるんです。そこの水上空港がいいのは、無人島の前に横付けができることで。無人島でイベントをすることもできます。
星野
素晴らしいですね。
堀江
小浜でもどうですか、水上飛行場をつくるのは。
星野
やりたいですけど、波をどうするかですね。本当は、水上飛行場というのは波があまり無い場所、広い川とか湖の方がいいんです。水上飛行場は、僕が見てきた中では、カナダが一番進んでいます。カナダはかなり自由です。大きな川だと、飛行機が普通に止まっています。自分の家の前の川に自家用の飛行機が止めてあって、魚を釣りに、遠くの湖まで飛行機で行って帰ってくるというように。 日本もカナダのような環境はあるんですが、なかなか規制が厳しいですね。
堀江
でも、今の日本だったらできそうじゃないですか。オリンピックも近いし、それに乗っかって(笑)
星野
飛行機特区を作るとかですかね。(笑)でも、本当に、十和田湖とか猪苗代湖みたいな湖に飛行機が着陸できるようになったら、素晴らしいと思うんですよ。隅田川だって大丈夫です。
堀江
移動手段もそうですが、旅行全般においても、これからは多分、スマホ・アプリの時代になります。アプリを作って情報発信をするのはとても重要だと思うんです。これから星野さんたちには驚異になるようなサービスがアプリの世界、ネットの世界から出てくると思います。「Airbnb」なんかもまさにそうです。「Airbnb」の部屋数って、世界中の旅館/ホテルの全部屋数を越えちゃったんですよ。
星野
それは、どういう仕組みなんですか?
堀江
個人や小さな事業者が、自分の空き部屋を宿泊施設として登録するんです。bnb(ベッドアンドブレックファスト=比較的小規模で、安価な宿泊施設を利用すること。朝食が付いている場合が多い。)が欧米では基本だから「Airbnb」という名前になったんですけど。もう、本当にアプリがよく出来てて、びっくりしますよ。
星野
ちょっと、ダウンロードしてみたいですね。
堀江
今、僕のスマホに入ってるんで、使ってみましょうか。場所を検索すれば、宿泊できるところが出てきます。部屋を貸す方は、自分で登録するんですけれど、保険のシステムもちゃんと準備されているんです。
星野
ということは、事業者でない人も部屋を登録できるということですよね。
堀江
はい。客室状況や部屋のスペックも、食事の有り無しも公開されています。値段は本当に安いですよ。こういうものが僕は、世界の旅行を変えて行くんじゃないかと思っているんですよね。
星野
なるほど。今はこういう世界になっているんですね。LCCもアプリで予約できますしね。
堀江
こないだインドネシア行って来たんですが、インドネシアの飛行機予約アプリは、インドネシアに止まるLCC、10何社分のプランを全部比較して、一括予約ができるというものでした。そういうサービスが今世界中で出てきています。最近出て来た旅行系のサービスでもう一つ面白いのは、旅行のコンシェルジュとかですね。予算と目的地を入力すると、プランを立ててくれるサービスです。
星野
そういった様々な情報や手続きがスマホのアプリに統合される流れというのは、やっぱりアメリカが中心になって起こっているんですか?
堀江
これはもう、世界中で同時に起こっていますね。僕がいまやってる「テリヤキ」ってアプリも、そういった情報をキュレーションするサービスの一つです。僕らが目指しているのは「ミシュラン」なんですよ。なので、ゆくゆくはホテル情報のキュレーションもやろうと思っているんです。このテリヤキのように、ホテルのキュレーターが、全国、あるいは全世界の良いホテルを紹介するというサービスです。
星野
なるほど。店を選ぶ人がいるんですね。
堀江
はい。「テリヤキ」だったら、食の達人達がうまい店を紹介してくれます。星も付けないです。載っているのはうまい店だけ、というサービスなので。今日本では、こういったキュレーションサービスに網羅性がないので、いろんな分野でこういったサービスが増えたら連携もできると思うんです。最近日本にも上陸した、アメリカで最大の口コミサイト「Yelp」のようにね。
星野
今は、本当にそういう口コミサイトが多いですよね。
堀江
でも、そういったサイトに情報が集約されていくと思いますよ。Yelpは、飲食店だけじゃなくて、マッサージとか、あらゆるサービスの情報が載っているんです。それくらいの規模になれば、色々なことがやれるんですが。今、僕が不満なのは、情報を集める手段がgoogle検索くらいしかないことなんですよね。例えば、竹富島の海でジェットスキーやりたいと思った時に、検索するだけじゃなくて、手続きまで一気に出来るサービスを作りたいんです。
アプリ時代がやってきているという堀江さんに国内外の注目アプリを教えてもらう星野
星野
なるほど。堀江さん、着地型観光って知ってます?
堀江
知らないです。
星野
現地に付いてから予定を決める観光のことなんです。日本は逆で、大手旅行代理店が出発前にお客さんの予定を全て決めたがるでしょう。エージェント側としては、その方がマージンが確実に見込めるのですが、今は確実に着地型観光の時代になってきていますよね。やっぱり、旅って、現地に行って急にやりたくなることがありますから。
堀江
僕、完全に着地型ですね。
星野
そうですよね。そういう意味で言うと、日本の旅行業界は、着地型観光への対応が遅れているのかもしれません。
堀江
完全に遅れてます。
星野
じゃあ、何で海外は着地型への対応が進んでいるのかというと、ホテルのコンシェルジュが観光ガイドのような役割をしてくれるからなんです。案内をすると、ちゃんとコンシェルジュにフィーが入る仕組みになっているんですよ。例えば、フロントにホエールウォッチングをしたいと言えば、海外ではコンシェルジュが全て手続きをやってくれるんですね。そうすると、ホエールウォッチングの業者からホテルに、10%位のフィーが入るようになっている。
堀江
日本ではそれやっちゃダメなんですか?
星野
ダメなんです。旅行業者以外の人が旅をアレンジしちゃいけないって決められてるんですね。
堀江
じゃあ旅行業者になればいいんですね。
星野
そうです。でもそのためには免許を取って預託金をいれる必要があるから、小さなホテルやペンションはなかなか業者にはなれない。今の堀江さんの話を聞いていて思ったのは、スマホ・アプリというのは、そうした制度上の障壁にに対して、バイパスになる可能性があるということです。要は、もうコンシェルジュを使う必要もない。ネット上にコンシェルジュがいるわけだから、そこにアクセスすれば、みんな着地型観光を楽しめるようになる。
堀江
そうですね。だから、そういった口コミサイトにみんながアクセスできて、欲しい情報を取って来れるような状況を作れればいいと思うんです。サイトの見方を教えたりとか。
星野
今までは、日本で着地型観光に取り組む地域は少なかったんですよ。結局、売りにくかったんですね。
堀江
でも本当は、現地の観光協会がスマートフォンに対応したウェブサイトを作って、現地の情報を載せるのが一番いいんですけどね。
星野
各地域の観光協会も、自分たちが勧められる場所をリストはしているんですけど、中々それがお客さんに伝わっていない状況はあるのかもしれないですね。
その一方で、予約の手続きまで対応してしまうシステムに僕らがまだ慣れていないというのも大きいんでしょう。
堀江
世界の最先端で何が起こっているかを嗅ぎ付けて、自分たちが今居る業界に取り入れることができれば、絶対にお客さんが満足できるサービスって生み出せると思うんですよね。
星野
あらゆるホテルが最新の技術を取り入れるのもどうかと思っているんです。 結局日常と変わらなくなってしまいますから。
堀江
旅することで、非日常をどう生み出すかという点においては、また別のやり方がありそうですね。さっき言った、旅行のコンシェルジュ的な役割を果たすサイトが増えた方がいいのかもしれません。ついこの間、日本でもそういうサイトが出来たばかりなんです。
星野
そっちの方が可能性はありそうな気がします。
堀江
僕、21世紀はキュレーションの時代になると思うんですよ。特定の分野に精通した達人、優れたキュレーターが勧めるものが、国境を越えて広まっていく時代だと思うんです。
星野
単に、多くのユーザーが情報を発信するだけではなく。
堀江
そうですね。もちろん、ユーザー・ジェネレイテッドなものも大事なんですが、そこで集められた大量の情報を見極める目をもったプロの人の存在と、彼らが提供してくれる情報がこれからは大事になってくると思うんです。
やっぱり外食にしても、旅にしても、非日常を体験するために行くものだと思うんです。埋もれている非日常を体験するには、やっぱり達人というか、キュレーターの存在が必要だと思うんですよね。僕は、幸いにも、周りにそういったキュレーターの方が多くいるので、大体どこに言っても驚かせてもらっています。
お酒が大好きな堀江さん、対談後の夜はラウンジの「島めぐりBAR」で沖縄各島の珍しい泡盛を堪能
星野
そういった体験を堀江さんだけではない、多くの人に味わってもらうサービスが求められているということですね。
構成: 森 綾