魚をテーマにした旅
星野リゾートの代表・星野佳路が毎回ゲストを招いて、旅の効能を探る対談連載。
第7回目のゲストは、みなさんご存知「さかなクン」です。
「マーケティングの天才」と、さかなクンを称する星野。
さかなクンと一緒に魚をテーマにした旅について考えました。
さかなクン
東京海洋大学客員准教授。東京都出身、千葉県館山市在住。子どもたちを中心に、魚や海・自然への興味を引き出し、漁業魚食と環境保全への理解が増すよう、全国規模で講演を行っている。
文筆活動では、2006年に朝日新聞連載の「いじめられている君へ/いじめている君へ」にエッセイ文を寄稿。「さかなクンの東京湾生きもの図鑑」「おしえて!さかなクン」など、著書多数。他、「朝日小学生新聞」でイラストコラムを連載中。環境省・地球いきもの応援団/生物多様性リーダー、文部科学省・日本ユネスコ国内委員会広報大使、農林水産省・お魚大使、JF全国漁業協同組合連合会魚食普及委員、WWF親善大使、WWFジャパン顧問、千葉県館山市ふるさと親善大使、明石たこ大使、など多方面で活動中。2012年には海洋立国推進功労者内閣総理大臣賞を受賞。
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星野
ぜひ会いたいと思っていたんです。僕、さかなクンってマーケティングの天才だと思っているんですよ。
さかなクン
ギョギョ!マーケティングの天才?!
星野
マーケティング用語に「1ワードの法則」というものがあるんですね。売り出したい製品をひと言で説明できることが、最もマーケティングに有効だということです。そして、それが今まで聞いたことのない言葉であれば、なお良い。自分のことを「さかなクン」と命名してしまうのがまず天才的だと思いました。しかも帽子をかぶって、そのネーミングを体現していらっしゃるでしょう。その風貌と名前は必ず、見ている人の心に残ると思います。魚に詳しい人は、あなた以外にもいるかもしれないけれども、あなたのような人は誰もいませんよね。そのアイディアはどこから生まれたんでしょう。昔からそういう奇抜な格好をするのが好きだったんですか? あるいは、小さい頃から目立ちたがり屋だったとか?
さかなクン
いいえ、自分は小さい頃から引っ込み思案でした。絵を描くのが好きで、興味を持ったものは何でも絵にしていたんです。最初に興味をもったのはトラックでした。小学2年生くらいになるとだんだんお魚やタコが好きになって。それからは、ずっとお魚の絵を描いていて、学校にもお魚の図鑑を持ってきて描いていたので、お魚好きということは自然と学校中に伝わっていました。
星野
その頃には、もう「さかなクン」という名前を使っていたんですか?
さかなクン
はい!中学から高校にかけて、友達からそう呼ばれるようになっていました。頭のハコフグは、テレビに出演するようになってからなんです。きっかけは2001年に『どうぶつ奇想天外!』という人気番組に、お魚の解説者として出演した時でした。普段の姿のままで出るよりも覚えていただけるアクセントをつけた方がいいと思い、エビスダイというお魚を描いてアップリケにして帽子にくっつけて、被りテレビに出演しました。ギョ覧いただきました視聴者の方々が面白がってくださったようです。
星野
なるほど。
さかなクン
もっとちゃんと格好を考えようということになったんです。頭のハコフグちゃんのアイデアを思いついたのはその時です。
星野
ああ、そのお魚はフグなんですね。
さかなクン
はい。自分が幼魚(子ども)の頃、福島県の小名浜のお魚屋さんの水槽の中で泳いでいたハコフグを見たんです。同じ水槽の中にいるマダイやブリにぶつかって、ふらふらになりながらも、一生懸命泳いでいる姿に心を打たれたんです。元気をもらったんですね。それで、頭にハコフグがいれば自分も何かにぶつかってギョんばれると!
星野
テレビに出ることに抵抗はなかったんですか?魚の学術的な研究を元からやっていらっしゃいましたよね。
さかなクン
初めはテレビに全く慣れていませんでしたし、そもそもが、とても緊張しているので目が泳いでしまって。でも、事務所の社長から「カメラの奥の何万人もの方の姿を想像して喋るといいよ」とアドバイスをいただきました。「そうなんだ!」と感動して、目の泳ぎがピタッと止まりました。
星野
さかなクンは、そこでテレビの仕事が向いているかもしれないと思ったんですか?
さかなクン
はい。周りの皆様に多くを学ばせていただせていただきました。今はむしろ普段の時の方が緊張するかもしれません。「さかなクン」として活動している方が、元気になります。
星野
なるほど、変身するんですね。キャラクターを演じきるというか。
さかなクン
2006年から憧れの東京海洋大学の客員准教授となる貴重なギョ(機)会をいただき、白衣を着るようになりました。この格好で居るのが一番落ち着くんです。
星野
素晴らしいですね。そこまでマーケティングのセオリーに基づいた行動が取れる人って世の中にほとんどいないんです。すごくマーケティングを良く知っている人か、生まれついての天才か、どちらか。
さかなクン
自分はまったくそういった勉強はしていません…。
星野
すごいなぁ。やっぱり生まれつきなんでしょうね。
星野
魚が好きだと自覚されたきっかけを覚えていますか?
さかなクン
はい! 小学2年生の時、クラスメイトの男の子が描いたタコの絵を見た瞬間ですね! ノートから飛び出てくるような、ものすっギョい勢いのタコを見て「こんな生き物がいるんだ! これは是非実物を見てみたい」と思いました。放課後、すぐに図書室に行って図鑑で調べたんです。
星野
おぉ、すぐに!
さかなクン
はい。そこでタコという名前を知って、しかも魚屋さんにいるというもわかったので、その足で図書室を出て魚屋さんに行きました。
星野
やっぱりすごいなあ。その友達の絵が一つのターニングポイントになったんですね。僕は長野県の出身で、長野には「野鳥の森」という場所があるんです。鳥も魚と同じで、すごく多様ですが、魚以外の生き物には詳しいですか?
さかなクン
ギョめんなさい! 鳥はちょっと…。お魚の天敵なので、ギョかんべん。
星野
確かに(笑)。うーん、でもその魚に対する興味はすごいですね。僕は、「国設軽井沢 野鳥の森」の近くには住んでいましたけど、野鳥にそこまで興味が持てなかったんですよ。大抵の子供はそうだと思います。子供の頃と同じくらい強い関心を今も魚に抱き続けているんですか?
さかなクン
はい! 関心は年々高まっています。お魚について調べれば調べるほど、面白いことやわからないことが増えていくんですね。
星野
ご家族の方の理解もあったんでしょうね。
さかなクン
はい! 今になって振り返れば、とても理解のある家族だったと思います。勉強そっちのけでお魚を観察したり、絵を描いたりしていたので、学校での成績はあまりよくなかったんですが、自由にさせてくれました。特に母は、家庭訪問で担任の先生に「もっと勉強させてください」言われたそうなのですが、「ウチの子はとにかく絵とお魚に夢中だから、それでいいんです」と言ってくれたみたいです。
星野
すごい。すばらしいお母さんですね。
さかなクン
ちゃんとした絵の先生に指導してもらうことも勧められたそうなのですが、母は「子供が描きたいように描かせてあげたい」と応援してくれました。すギョく伸び伸びと泳がせていただきました。
星野
(笑)。でも、とてもいい話ですね。親は普通、子供の能力をバランスよく伸ばそうとしますから。ちょっとバランスが悪くてもいいと言い切れるのはすごいことです。お母さんの考えのおかげで、さかなクンはお魚に集中してその才能を伸ばしたわけなんですね。
さかなクン
はい! そういった育ち方をしたこともあって、小さいころから、お魚とかかわる仕事につきたいと思っていたんですが、どの仕事を選べばいいのかわからなかったんです。とにかく片端からお魚に関するお仕事を学んでみよう!と、最初は、専門学校時代に水族館の飼育員の実習を、その次は寿司屋さんで働きました。
星野
その格好で寿司屋をやっていたら、お客さんもいっぱいくるでしょう(笑)。
さかなクン
ところが、職人にも向き不向きがあって・・・、すギョく丁寧に教えてもらったんですが、全くシャリが握れませんでした。「こんなに向いてない子もいるんだなぁ~」って大将に言われたくらいで。
星野
ははは(笑)
さかなクン
でも、そこの寿司屋さんの大将が素晴らしい方でお店の外壁に好きなだけお魚の絵を描いていいよ!と画材も揃えて時給までくださったんです。
星野
へえ~。そのお寿司屋さんは今も残ってるんですか?
さかなクン
十数年前にお店を畳んでしまいわれました。今はおすしの学校(東京すしアカデミー)の主任講師をされています。次はスーパーの鮮魚コーナーに行きまして。
星野
寿司はダメだったからですか(笑)
さかなクン
でも商品陳列や機械を使った清掃などが中々難しくて…。お魚のパッキングは得意だったんですが。それに、これはお寿司屋さんで働いてるときにも思ったことなのですが、扱われるお魚が大体種類が決まっているんです。
星野
確かにそうですね。
さかなクン
お魚屋さんで扱われるお魚は、およそ30種くらいです。でも、日本には4200種以上のお魚がいるわけで、自分はもっと色んなお魚を見て調べて描きたかったのです。
それで、今度は熱帯魚屋さん学んでみようと、働いてみました。
星野
なるほど。色んなお魚に会えますよね
さかなクン
世界中の様々なお魚に出会えるのですが、商売なので、1匹1匹次々と別れてしまうのが辛かったですね。熱帯魚って、水槽に入ったばかりの頃は傷があったり、状態が悪い時もあるので、一生懸命ケアするんです。ケアして、お魚が元気になっていくのを見るのはとても嬉しいのですが、元気になった途端、すぐ売れてしまいます。
一匹買われていくごとに、頭の中でドナドナが流れて…。
星野
それは商売的には嬉しいけど、さかなクン的には悲しいですね(苦笑)。
星野
さっき、日本には4200種の魚がいるとおっしゃいましたが、淡水魚はどれくらいいるんでしょう?
さかなクン
淡水魚はおよそ300種です。その中には、サケやニホンウナギのように海と川を行き来するようなお魚も含まれています。
星野
私共はもともと山のリゾートの経営からスタートしたので、海よりも日本の川の魚の方が身近ですね。大いに関心があります。海の魚と川の魚、一番大きな違いって何ですか?
さかなクン
はい。淡水と海水では浸透圧の違いがありますので! それぞれそれに適応する体の作りになっています。また、川は海と比べて、私たちが住んでいる場所に近いこともあって環境の大きな変化が起こりやすいです。環境が変わってしまったら、そこに暮らすお魚たちがみんないなくなってしまう危険があるんです。広い海に比べて川は範囲がせまいので、絶滅につながりやすいです。
星野
メダカも絶滅危惧種になりましたよね。日本は、淡水魚の種類って豊富なんですか? 僕らは全国各地にリゾートがあるので、色んな場所の淡水魚の情報を知りたいんですよ。
さかなクン
日本にはたくさんの淡水魚がくらしてますね。長野県のお魚といえばヤマメやイワナが有名ですけれど、みんな渓流魚です。イワナは川の源流にくらしていて、上流にはヤマメがいて…、中流や下流になると今度はコイの仲間が増えてきますね。日本の淡水魚には、サケの仲間やコイの仲間が多いです。特にサケの仲間は古くから日本の重要な食文化のでした。サケの仲間の多くは北海道や東北地方に分布しますが、九州にもいますし、西日本にはアマゴ、琵琶湖にはビワマスが住んでいます。
星野
実は、さかなクンに魚をテーマにした旅を考えてほしいんですよ。
さかなクン
とってもうれしいです!! 旅といえば、いとこがニュージーランドのオークランドに留学していた時期があって、お魚がいっぱいいるよ! とのおススメもあって、そこにホームステイさせていただいたことがあります。ニュージーランドのお魚を求めての一人旅は面白かったですね~♪
星野
それは楽しそうな一人旅ですね。日本とニュージーランドは魚の種類が全然違うんですか?
さかなクン
実は日本のお魚と似ているんですよ。ニュージーランドは半球が違いますが、日本と緯度が近いので、気候や海にくらすお魚も似ていてびっくり!!
星野
だから獲れる魚も似ていると。確かにそうですね。私も息子と一緒にニュージーランドで釣りをしたことがありますよ。息子が体長80センチ位のニジマスを一人で釣り上げて大喜びでしたね。
さかなクン
それはすごいでギョざいますね。市場にタイやシマアジ、ヒラマサなど日本でおなじみのお魚がたくさんいました。堤防で釣りをすると、マダイそっくりのゴウショウがたーくさん釣れてギョギョッとびっくり!! うれしかったです。
星野
ニジマスは私の故郷の軽井沢にもいますね。もっと「川魚」のフィッシングを楽しんだり、美味しく食べる事を楽しんでもらう試みも必要なのかもしれないですね。軽井沢のブレストンコート「ユカワタン」では、鮎や佐久の鯉など「川魚」の美味しさを前面に出した料理も提供していますが、各地でそういうことが必要なのかもしれない。
星野
さかなクンは「環礁」ってご存知ですか?
さかなクン
サンゴ礁の環礁ですか?
星野
はい。僕がいま仕事をしている島が、世界で2番目に大きい環礁を持っているんですよ。フレンチポリネシアのタヒチ島という場所なんですが、ここが凄くてね。紐みたいな形をした島で、幅が200mくらいしかないんですが、片側が外洋で、もう片側にラグーンがあるんです。現地の人たちに話を聞くと、そのラグーンが魚の宝庫らしいんです。。
さかなクン
ギョオ~!!!
星野
とても珍しい魚がいるらしいんですが、何かご存知ですか。
さかなクン
すいません。お写真を見てみないと…それにタヒチは行ったことがありません。以前社員旅行で、グアム島近くのジープ島に行ったことはギョざいます。
星野
あの辺りにはどういった魚がいるんですか?
さかなクン
はい。やっぱり、チョウチョウ類やスズメダイ類やベラ類といった、カラフルな熱帯魚でギョざいます。ジープ島はお魚を獲るのを法律で禁じられているので、シュノーケルで泳いでいてもお魚が全然逃げないんですよ。
星野
天然の熱帯魚と触れ合えるんですね。僕もタヒチで似たような体験をしました。日本でも熱帯魚は見れますが、外国から運んできてるわけですよね。現地に行って、野生の熱帯魚が泳いでいるのを見るのとはやっぱり違うんなぁと思いました。僕はリゾートでは、現地の生き物をできるだけ野生に近い状態で見せる工夫が必要だと思っています。「国設軽井沢 野鳥の森」をフィールドに活動している「森の案内人ピッキオ」もそうですし、それこそ、海外にもそういう場所はいっぱいあると思います。さっきおっしゃったシュノーケルなんかもそうですね。
さかなクン
はい! 水中展望塔も素晴らしいでギョざいます♪ 階段を下りていくと、海の中をす~いすいと泳ぐお魚の姿が窓からのぞけます♪
星野
人間の方が自然の海に入っていくのがいいですよね。
さかなクン
沖縄や伊豆には、海底を歩けるような設備もありますよね。
星野
写真で見たことがあります。ヘルメットをかぶって歩くんですよね。
さかなクン
はい。自分もチャレンジさせていただきました♪ 海底を歩きながら、様々なお魚に出会えて感動します!!
星野
話せるしね。
さかなクン
講習は受けますが、海底を歩くのに免許はいりません。ワクワクしますよ~♪
星野
確かにね。
さかなクン
お船の底がガラスになっているグラスボートとか、観光用の潜水艦もありますよね。
星野
うんうん。
さかなクン
そういった施設に行くことも含めて、旅は大好きです♪ 石垣島に日帰りでいったこともありますし。
星野
石垣島の魚って、やっぱり沖縄本島の魚とは種類が違いますか?
さかなクン
お魚もサンゴもとっても綺麗でギョざいますよ~♪
星野
沖縄から北海道まで含めると、日本はやっぱり魚種は多いですよね。
さかなクン
はい! とっても多いです。世界には約2万8000種のお魚がいると言われていますが、そのうち日本のお魚は4200種以上! 世界中のお魚の種類のおよそ1/7もいるのでギョざいます。
星野
ちなみにさかなクンが実際に観察したのは、何種類くらいですか?
さかなクン
日本のお魚ですと、1800種くらいです。でも実は東京湾だけでも700種類くらいの魚がいるんですよ。
星野
そうなんだ。いやー面白い。面白い。まだまだお魚の話は尽きないですね(笑)。ぜひタヒチ島にも遊びに来てくださいね。
さかなクン
ギョギョー!! うれしいです。いつかタヒチ島にうかがいたいです。よろしくお願いいたします。本日はありがとうギョざいました。
構成: 森 綾 撮影: 萩庭桂太