メンタルヘルス
ツーリズム
小口孝司
おぐち・たかし 立教大学 現代心理学部 教授。博士(社会学)。東京大学大学院 社会学研究科博士課程修了後、昭和女子大学、千葉大学などを経て、現職。パデュー大学客員研究員、ジェームスクック大学客員教授などを務める。Journal of Travel & Tourism Marketingなどの国際学術誌の編集者、Asia Pacific Tourism Associationの日本代表等を務めている。専門は観光心理学、社会心理学、産業·組織心理学。主な著書に『観光の社会心理学』(北大路書房)、『よくわかる社会心理学』(ナツメ社)、『仕事のスキル―自分を活かし、職場を変える―』(北大路書房)等があり、『影響力の武器』(誠信書房)などの翻訳にも関わっている。
星野
小口先生の研究していらっしゃる「メンタルヘルスツーリズム」というのはどういうものなのですか。
小口
メンタルヘルスツーリズムは精神的健康を維持、向上することを目的とする旅行です。言ってみれば、“癒す旅”です。
星野
それはエビデンスがあるものなのですか。
小口
はい、旅行のメンタルへの効果は実証されているのです。
たとえばこんな実験をしました。通常の週末を過ごす方と1泊2日の旅行に参加の方の2群を作りました。旅行群は、旅館に泊まってもらって、さまざまな活動を行っていただきました。旅行に行く前、最中、行った後に調査したところ、旅行に行った群は旅行に行かなかった群よりも、コルチゾールというストレスホルモンが低くなっていたのです。
星野
ストレスホルモン!
小口
はい。ストレスが高まるとコルチゾールの値が高まるのです。たとえば今のような新型コロナウイルスの状況だとストレスが溜まっていて、コルチゾール値が高くなっている可能性があります。そのコルチゾール値が、旅行によって顕著に低くなったのです。
星野
何がストレスの低減に効いたのですか。
小口
何が効いているのかは、まだ特定できていません。タラソテラピー、農業体験などいろんなものを組み合わせて行ってもらいました。タラソテラピーが、ストレスの低減効果が大きかったため、非日常の体験が良いといえるかもしれません。
その後別の研究で、ある企業の方に、山梨にあるメンタルヘルスに特化したホテルに1日滞在していただきました。その際は、コルチゾールではなく、脈波(心拍)を測りました。心拍を解析すると、ストレスが高かった人は、旅行後(Post)は旅行前(Pre)よりもストレスが軽減されていました。
星野
旅行がストレスを軽減する。メンタルヘルスツーリズムを満たす要件というのはあるのですか。
小口
いくつかあると思うのですが、まずストレスの原因から心理的距離が遠くなること。仕事をしている日常から離れることでも、リフレッシュやリラックスできます。
たとえば上司からいろいろ言われて悩んでいた場合、日常の場所から離れてみると「なんだ。上司の言ってることってそんな大したことではないな」と思えたりする。そういう心理的距離をとるというのは大事だと思います。
星野
昔はそれを転地効果とか言ってましたね。
小口
そうですね、物理的距離によっても、心理的距離をとることができますね。
星野
両方とも必要ということですか。
小口
はい、物理的距離を取れば取るほど心理的距離は遠ざかると思います。しかし、疲労しているときには、長い物理的距離を取ることは難しくなりますね。
星野
そうなのですね。では、先ずは近くに移動して距離を取るのが効果的ですね。
星野
先生が心理学でメンタルヘルスツーリズムを研究しようというきっかけは何かあったのですか。
小口
以前、千葉大学に在籍していたときに千葉県から研究助成をいただいて、千葉県の観光を発展させるための基礎研究プロジェクトを行いました。当時、非常に小さな温泉地ながら、全国人気ベスト3に入るくらいの観光地がありました。熊本県の黒川温泉です。
何が人を惹きつけるのかが気になり、実際に行って、黒川温泉人気の立役者とされている後藤哲也さんにお話を伺いました。後藤さんは「黒川は人々の疲れを取るための仕掛けを作っている」とおっしゃったのです。つまり、メンタルヘルスを向上させる場所であったのです。具体的な仕掛けをお聞きすると、心理学を学ばれたわけではないのですが、期せずして心理学的手法を用いられていました。それがきっかけとなりました。
星野
どんなことをされたのですか。
小口
たとえば、気のおけない女性グループの会話をそっと聞いてみると、あれが素晴らしいとか、これは今一つとか率直な意見が聞けたようで、多くの改善のヒントとなったそうです。心理学のインタビュー調査を実施していたようなものです。
どのような景観が好まれるのか、どうすれば人が落ち着くと思うのか、などを考えていかれたようです。一つの具体例としては、街のガードレールを白から茶色に塗り替えたとのことでした。白だと目立つのですが、茶色ならばより自然な環境と感じられるのです。
星野
面白いですね。僕らも長野県で、当時の田中康夫知事と一緒に軽井沢のガードレールを全て木にしたのです。許可を取るのが大変だったのですが。でもずいぶん風景は変わりましたね。
小口
すばらしいですね。
星野
それから軽井沢の星野エリアは車道の横にある歩道をやめたんです。車道とは離した森の中に歩道専用の道を作りました。車の横を歩くストレスは相当あって、全然気分が違うんですよね。
鳥のさえずりやせせらぎが聞こえてくる、「ハルニレテラス」から「星野温泉 トンボの湯」へと続く遊歩道
小口
はい。そういう工夫を総合的にすることが重要なようですね。
星野
今まで僕は感覚的に「その取り組みって素敵じゃないですか」としか言えなかったのだけれど、今後、先生の研究でメンタルへの効果がどんどん実証されていきそうですね。
基本的にはメンタルヘルスという言葉から連想していた内容よりも、かなりストレスに関連する、ストレスを軽減するということに近いのですね。
それは旅する場所によっても変わってくるのでしょうか。
小口
たとえば自然の中だったら、水辺というのは効果があると分かっています。軽井沢のように池や川のあるところや、森のような緑に囲まれているのは効果があります。
星野
逆に地方にいる人たちが都会へ行く、というのはどうなのですか。たとえばアメリカなどは、休みの度に地方からニューヨークに行くとかシカゴに行くという人が多いんです。都市観光ですよね。これはメンタルヘルスツーリズムではないのかな?
小口
それはある程度心理的距離が離れるという意味ではメンタルヘルスツーリズムと言えると思います。
星野
それはストレスということでいうと、都会という空間で音楽を聞くというようなことがストレス解消に効果があると。
小口
地方の方にとってはそうだと思います。
星野
そうか、両方あるんだろうね。共通するのは、旅にはストレスを軽減する効果があるのだ、と。
都会ですごく疲れているときには自然のあるところへ、がいいのでしょうね。
星野
メンタルヘルスツーリズムについてはこれまでのお話でだいぶ分かりました。要するに、旅は疲労を回復すると。
旅には冒険心を満たすという目的もあると思うのですが、それはまた違う旅になるのですね。
小口
おっしゃるとおりです。メンタルヘルスツーリズムは疲労回復のほうで、冒険心を満たす旅はポジティブツーリズムということになります。
星野
ではポジティブツーリズムの概念を、わかりやすく説明してもらえますか。
小口
ポジティブツーリズムとは、個人の幸福感、能力、創造性などを向上させる旅行です。たとえば生産性が上がるとか、新たな考えが浮かぶとか、さらにはストレスに強くなるというと、わかりやすいでしょうか。言わば、“伸ばす旅”です。
個人の能力を伸ばすという意味で、旅が大きな効果を果たすことが実証されています。ですから、旅行は、遊興ではなく、目的をもったものともなるのです。
星野
能力を伸ばす!
小口
はい。ポテンシャル、能力を伸ばすという意味でも旅が役立つのです。
クリエイティビティ、ストレス耐性も上がります。ポジティブツーリズムを体験することで、困難な状況になったとき、自信になっていくのです。自己効力感というのですが。
星野
たとえばどんな旅の中身があればいいのでしょう。
小口
その一つとして、自分の能力を発揮できるような海外ボランティアに行って、貢献する。そうすると能力が上がって、意欲も向上する。実際、そういうことを始めている企業もあるのです。
星野
そのポジティブツーリズムに、われわれがどう積極的に関わっていけるかだな。星野リゾートはいろいろできるんじゃないかという気がするけど。
小口
宿を提供するだけではなく、地域の特性も加味した企業プログラムの開発もできますね。
日本人の場合、余暇で自分の能力を上げるような活動をするとストレスに強くなることが、私の研究室が行ったいくつかの研究で共通して示されています。何かについて自分が向上しているという気持ちを持つと、精神的にリフレッシュされて、回復し、創造性も上がるのです。
星野
何か仕事に関係ないことでもいいのですか。
小口
もちろん。たとえば「乗馬をする」というアクティビティがありますね。上達するとリフレッシュして、創造性が上がって、職業満足度が上がり、さらには人生満足度まで上がるのです。
星野
なるほど、自分の仕事に関係がないことでも、他のことで向上することによって仕事も向上すると。そういう意味でいえば、星野リゾートにはスキースクールがあります。
「星野リゾート トマムスキー場」には初心者から上級者まで多彩なレッスンでスキルアップをサポートする「スノーアカデミー(レッスン)」を用意
小口
できないこともできるようになる。自分はできるんだぞ、という感覚をもつことが大事なんです。
企業研修ってあるじゃないですか。1日缶詰になってセミナーを行うよりも、旅のプログラムを展開した方が、はるかに効果があるのではないかと思います。しかも費用は同じですから。
星野
確かにね。よくオフサイトミーティングというのがあって、大企業がマネジメントスタッフを集め、わざわざ本社から離れたところへ行って、3日も4日も滞在して会議をするのです。でも午後はフリータイムがあったり、夜は会食やパーティーがあったり。海外では、本社と近隣のレストランやバーを借りてやるよりはるかに効果があると言われています。
小口
それは視野が広くなるからだと思うんです。日常とは異なるところへ行って話すと、感じ方、考え方も変っていろんな発想ができるからでしょう。社員旅行が、最近、また少しずつ復活しています。昔とは形態が大きく変わってきて、企業にプラスに働くことが実感されているからだと思います。
星野
チームビルディングとかそういう考え方ですか。
小口
それもあります。北海道のある会社で、違う部署の人たちで6人以上のグループをつくって、特別有給で休暇と旅費をもらって旅行をするという制度があるのです。
星野
おもしろいですね。
小口
調査をしたのですが、特別な旅行休暇があり、社員を旅行に行かせている企業はそうでない企業より業績がいいし、定着率も高いのです。企業は利益の一部を社員のために還元することで、社員はストレスが減り、能力も向上するのです。それによって、企業はさらなる発展を遂げられるはずです。
さらに、旅行経験が多いほど、企業における人事評価も高いという研究結果も得られています。
星野
過去の形態が問題なのではなく、今のニーズにあわせた感覚が必要だということですね、社員旅行も。もともと歴史的に制度化されていたこともあるし、その形態の内容を変えていけばいいわけだから。
星野
未だに日本では「旅行に行ってる場合じゃないよ」と言われ、旅行に行く心理的なハードルがある。ストレスの高い人はメンタルヘルスツーリズムに、能力を向上させたい人にはポジティブツーリズムにと、ちゃんと旅行に行ってもらうことを企業に定着させたいですが。
小口
それにはいくつか方法があります。一つが従業員のストレスチェックです。
近年、常時50名以上いる事業場では、メンタルヘルスをチェックすることが義務付けられました。ところがストレスを解消する具体的な方法は明らかにされていません。メンタルヘルスツーリズムで回復、もしくはポジティブツーリズムで予防を、との道筋を示していけると、一つの解消法を定着させることができるでしょう。
ところが、企業の上層部の方々は、ハードな競争を勝ち抜いてきたので、非常にタフでバイタリティーにあふれている。だからストレスのたまった社員を旅に行かせようとすると「遊んでくるの?」という発想になってしまいがちです。
星野
たしかに。
小口
二つ目としては、旅行に行くことが嫌いな人が一定の割合でいることです。この人たちが旅行に前向きになるよう、働きかけなければいけないのです。
星野
全く旅行していない人っているからね。旅行のことが嫌いな人ってなんだろう。過去に非常に嫌な経験をしたのかもしれないね。
小口
私が思うに、修学旅行が良くないことが多いのではないでしょうか。
星野
旅行の原体験みたいな話でしょうか。
小口
私は星野さんと同じ長野県生まれで学年が一つ下の同世代なのですが、修学旅行は中学が京都、奈良をくるくる回っておしまい、高校も同じだったんですよ。高校のときは自由行動もありましたが、特に面白いとは感じませんでした。
星野
この業界に入って、修学旅行の話をあちこちで聞いていると、とにかく先生方の保守性が強くて。
いろんなことを提案しているのだけれど、予測がつかないことをさせたくないらしく、新しいところにも行きたがらない。ずーっと同じところへ行って、無事に終わらせたい感覚ですね。
小口
せっかくのチャンスを逃していますよね。もったいない。
星野
メンタルツーリズムの話をしていたら、修学旅行の批判になっちゃった(笑)。
小口
旅行は能力を伸ばすものだと思っているので。
ただ、修学旅行も観るから、体験するへ、少しずつ変わってきてはいます。中には、極めて意欲的なプログラムを行っている学校もあるのです。
たとえば、シンガポールに3泊4日で行かせて、現地の高校生の前でプレゼンさせるのです。そのためにはプレゼンの中身はもちろん、英語でのプレゼンの仕方も身につけないといけない。そして向こうの人たちと一緒に交流する。こうしたプログラムは、生徒の能力、意欲を非常に伸ばすと思います。
星野
すごく思い出にもなるし、成功体験にもなるでしょうね。
若者の旅行への参加率をあげるために、家族旅行や修学旅行改革も必要ですね。ひょっとすると、旅嫌いな人の中には家族旅行の最悪な思い出がある人もいるかもしれない(笑)。
小口
実は能力の向上というところで、家族旅行も大事なんです。小学生の子どもたちが家族旅行で海外に行くことでどれくらい能力が伸びるかを調べると、実際に、子どもたちの能力は伸びていました。それによって、親はリラックスできたという連鎖が生まれていたのです。
お子さまの年齢別のアクティビティが豊富でファミリーにも人気の「星野リゾート リゾナーレ熱海」
星野
学校教育の違いがあって、韓国のように家族旅行を教育の一環としてみている国もありますね。つまり、家族旅行を理由に学校を休むことに寛容なんです。韓国ではそれを推奨していて、その代わり、帰ってきたら旅行の内容を作文で提出させているようです。
小口
出国率が日本よりも韓国の方が遥かに高いのは、そうした制度が理由の一つかもしれませんね。
星野
北欧もそうかな。家族旅行で国内の観光地に行かせているのですね。実際にそこへ行ってみるってすごく重要じゃないですか。
日本でも、家族旅行がもっと重要視されるようになるといいですね。
星野
先生の研究も含め、サイエンティフィックな研究が普及してくれば、旅行の必要性がもっとはっきりしてきますね。
旅行が自分たちの生活の大事な一部だという感覚を持ってもらいたい。
このWithコロナ期に悩んでるのは「不要不急の外出は止めてください」と言われること。今の話の流れで言うと、旅行は不要不急なものではないですよね。
小口
旅行は必須なものだと思いますよ。
星野
それには参加していない人たち、参加しづらい人たちに目を向けることも必要ですね。
「旅行は贅沢だ」という発想をもつ人たちを取り残すわけにはいかないから。
小口
旅行に行くことに対する罪悪感という研究も行っています。他の人たちが仕事をしているのに私一人だけ行っていいのか、と。自分がいないことによって仕事に支障があるのではないか、などという罪悪感があるのです。
それはシステム的にも変えていかなければいかないし、能力が向上するのだという事実も伝えていかないといけない。 「旅に出ていなくなることもお互い様」という意識も入れないと、いつもその罪悪感によって抵抗が生じてしまいます。
星野
ストレスを軽減するとか、メンタルヘルスを保つというのは、けっこう重要なことじゃないですか。これまでバブル崩壊、リーマンショックとか大震災とかいろいろあったのですが、予想以上に観光需要は底堅いのですよ。意外に必要なものに位置付けられているのではないかと、直感的に思いますけど。
小口
お金があったらあなたは何をしたいですか、という質問をすると一番上に来るのが旅行なんです。
星野
それだけ旅行に行きたいというのは、なんとなく、ストレスとか、メンタルヘルスを実感しているということなのでしょうかね。
小口
おっしゃるとおりです。旅は多くの人にとって生きていく上で必須なものだと思います。
星野
今は新型コロナウイルスの影響で、ストレスは溜まってるし、ますます疲れは出ているし。ちょっと近くに旅行するのがメンタルヘルスには効果的だと思うのです。
小口
こういう時期だからこそ、旅の価値は高くなりますね。
星野
昔は、うちの温泉旅館に東京などから人が来るのは夏休みだけだったのですよ。それ以外の季節は地元の方たちが多かったですね。30分~1時間くらいの距離から来て、日頃食べない贅沢な料理を食べて温泉に入る。上げ膳据え膳で過ごしたいというニーズがあった。
小口
疲れが溜まっているときは近くで癒す、というストレスケアですね。
星野
そうですね。ですから疲れた時にはどんどん旅に出てもらいましょう。
小口
その場合でも、疲労しきっているときには、近くがいいのです。たとえば沖縄にある星野リゾートの「星のや竹富島」には行けないのですよ。
星野
どうしてですか。
小口
すごく疲れている人は長距離移動が難しいので、東京から100キロ圏内くらいの、星野リゾートでいうと「界 仙石原」や「リゾナーレ熱海」とか、東京近郊で癒すことになるでしょう。少し元気が出てきたら遠くに行って、竹富島に行って、もっと元気が出てきたらバリへ行く。そういう段階があるのです。
疲労の大きさと最適な旅の距離とは反比例すると考えています。
大涌谷温泉の露天風呂を全室に完備した「星野リゾート 界 仙石原」
星野
なるほど。ではすごく疲れきっている人には、近場の温泉がいいですね。県境をひとつ越えるくらいの。
実は今、30分~1時間位の移動で旅をするマイクロツーリズムに力を入れているところです。Withコロナの時代ですから、感染拡大せず、地元の魅力を発見しながら、新型コロナウイルス疲れを癒してもらう。
小口
それは生活において必須の旅と言えそうですね。
星野
まぁ、県境なんかなくてもいいと思うんだけど(笑)
星野
もうひとつ、これはメンタルヘルスツーリズムにもよくて、ポジティブツーリズムにもなるのではと思うのが、自然の中で、自分の好きな生活ができるリゾートテレワークという提案です。
実際に、星のや軽井沢で仕事をしている方もいらっしゃるのですよ。
仕事しながら長期滞在する方も多い「星のや軽井沢」
小口
意欲や創造性が高まりそうですね。
星野
僕はだいぶ前からそういう生活をしていて、スキー場のリフトの上でも仕事をしていましたからね。テクノロジーがそれを許してくれていて、ニュージーランドに滞在しながら日本の会議に参加できますしね。
今までは会議室にいかないと失礼だとか何をしてるんだとか言われた常識が、新型コロナウイルスのおかげで変わってしまう可能性があると。
ただ、テレワーク用の部屋は必要になってくると思います。家にいて、妻が僕より大きな声で会議に参加していますから(笑)、大きな部屋じゃなくて小さな個室が必要になってきているのですよ。
そういう意味では、部屋以外に、リモート会議ができる個室のような、声が外にもれない電話ボックスみたいなものが必要になってくるかもしれません。
各地で働きながらスキーする星野(写真はアルゼンチンのスキー場「Las Lenas」)
小口
星野リゾートのスタッフは、お客さんに積極的に関わっていくことをされているので、長期滞在の方にとっては非常に良いのではないかと思います。
星野
はい。顧客に合わせ、滞在の仕方に合わせて家具の移動をしようとか。食事も長期滞在の方には毎日同じところで食べるのは退屈なので、バリエーションを加える工夫とか。
もう一つ、重要なのは価格帯ですよね。どうしたら長期滞在をしていただけるような魅力的な価格設定をできるかも社内で議論をしています。
小口
いいですね。
星野
3密回避などは新型コロナウイルスが収束したら無くなるのではと思っているのですが、旅行先でのテレワークは、これをきっかけに残るんじゃないかと思ってます。観光需要を伸ばせるんじゃないかと。
仕事の前後で温泉入ったり、夕焼けを見てもらったりといろんなアクティビティができるから、毎日仕事をして、毎日ストレスを解消することもできるのです。仕事環境としても最高だと思うんですよ。
「星のや竹富島」南風(ぱいかじ)ワーケーション滞在。沖縄の原風景が残る竹富島にテレワークしながら1ヶ月暮らすように滞在するプラン。
小口
それはメンタルヘルスにもとても良さそうです。
星野
ありがとうございました。今の時代にこそ必要な旅の発想がどんどん生まれそうです。
構成: 森 綾 対談日: 2020年5月9日