星野リゾート 界 熱海
田井千尋 (入社8年目)
星野リゾート 界 熱海
田井千尋 (入社8年目)
江戸時代から続く老舗旅館の風情を今に残す、界 熱海。建物は海に向かってそそり立つ岩壁に建てられており、露天風呂から上がると、はるかに海と空を望む絶景のテラスに心奪われます。和室でいただく季節の会席料理は、美しさと美味しさの二重奏。夜は波の音が心地よい眠りへと誘います。この重厚な旅館の最上階にあるのが32畳の特別室。日本の、いや世界から招かれた賓客が愛したその部屋は、2016年「あたみ梅の間 特別室」として新たな息吹を加えられました。
伝統工芸である駿河竹千筋細工を用いた行燈や飾り障子には界 熱海とのコラボレーションでこれまでにない技法が取り入れられ、繊細かつ優美な梅のモチーフが。伝統工芸をアートとして、滞在しながらに間近で味わえる、本当に特別な部屋となったのです。
第二回目は、この界 熱海のご当地部屋「あたみ梅の間 特別室」の仕掛け人、田井千尋の旅館への愛と、伝統工芸にかけた情熱をお伝えします。
全国の「星野リゾート 界」で展開している「ご当地部屋」は、その地域の最大の魅力をしつらいに生かした夢のような部屋。皇室の財産だった熱海梅園にちなみ、界 熱海では、市のシンボルである「梅」がテーマになりました。
「梅で最初に思い浮かんだのは『夜の梅』。日本らしい情緒を表現した言葉です。街灯のない江戸時代、夜に梅は見えません。あるのは香りだけ。香りに気づいた通行人は、足を止め、手提灯を掲げる。すると、照らした場所にだけ、ちらちらと白い花弁が浮かび上がる。ああやはり梅だった、と見上げて思わず口元がほころぶーー この、そこはかとなく気づかせる梅のふるまい方と、立ち止まって気付いた人だけが得られる喜びを、このお部屋で表現できたらと思いました」。
→あたみ梅の間 特別室|星野リゾート 界 熱海
どんな風に部屋をつくるのか。これを担当した田井は、駿河の伝統工芸である駿河竹千筋細工とのコラボレーションをメインに据えたいと考えました。「繊細さと陰影が、お部屋のしつらいにも梅のテーマにも合うと一目で決めました。職人さんとの打ち合わせには、直接工房に伺ったり、LINEで写真を送ってもらったり、自分も描いた絵を送ったり水引で試作したり。やりとりは連日夜中まで続きました。『無理難題を投げっぱなしにする人は好きじゃない』と最初に言われていて、そこは大いに共感できたので、お互いに相手の理想と現実を思いながら進めていました。私の原案は「無理難題」だったのですが、一方向にしか曲がらないはずの竹で梅の5枚の花弁を描くために、やりとりの中で「ひねりこみ」と呼ぶ新しい技法を一緒に編み出し、職人さんが見事に形にしてくださいました。あまりに原案通りなので、逆に完成時には作品への感慨があまりなかったくらい(笑)。完成した喜びよりも、技術と人柄で応えてくれた職人さんへの、感謝と尊敬が大きかったです」。
入社以来、界を中心に5施設以上にて勤務。トレーナーや業務改善に明け暮れる。約1年前に界 熱海に着任。フロントを中心にサービスチームで働きながら、客室の魅力作りや業務改善にいそしむ。
界 熱海には、界 熱海になる前「蓬莱」だった時代の女将、古谷青游さんも働く。「ここに来る前から、いい旅館だと思っていて、女将さんにも学べることがあるといいなと思っていました。花をどうやって生けているのかとか、部屋のすべてのしつらいの違いとか。他の界はできるだけ障子の大きさなども統一されていますが、ここはそれが違うのが面白いところだと私は思うんです。間取りも景色も違う。それが日本の老舗旅館の素敵な姿かもしれない。そこに、現代的な快適さやビジュアルが生かせたらいいなと考えています」。
星野リゾートのスタッフは一人ひとりが調理、配膳、掃除となんでもできるマルチタスク。そのあるべき姿は女将さんのような存在なのかもしれません。田井は入社して数年後に調理師免許も取得。「何か一つのことを投げっぱなしにするのは好きじゃない。いろんなシチュエーションを見てそれぞれの関係性がわかってこそ、お客様と向き合えるんです」。
社長が、身近な人を変えようとして失敗したことがあるからです。テレビで、アメリカ留学で学んだ手法をそのまま導入しようとして大いに反対され挫折、トップダウンはやめたという一連の流れがあったというのを見て、この人についていけば安心だと思いました。また、星野リゾート自体の印象は、そのときも今も変わらず、圧倒的に面白くあろうとしている会社だと思います。
旅館なら、日本の情緒や長く愛されてきたいいものを結集させて、衣食住をトータルでコーディネートできる。しかも接客する過程や作り上げる過程で、お客様やチームメンバーから生のリアクションを得られるからやりっぱなしにならない。旅館は自分の求める「デザインのあるべき姿」そのものだったんです。それが正しいかを確かめるために働いています。
一つ目は、oodesignさんのFloating Vase/Rippleという商品です。波紋の形をした、水に浮かべる一輪挿しです。
二つ目はアイソレーションタンク。つまり、無重力・無感覚体験装置なのですが、1回では真価を味わえない可能性があるそうなので、2回つきあってくれる人を募集しています。
奈良、薬師寺です。薬師三尊像は「東洋美術の頂点」だと東洋美術を全部見ていないくせに、確信しました。何時間でもいられます。
旅行はおいしいものを食べたいとき。旅は外部刺激に飢えているとき。
よくばりなので、見たいもの食べたいものやりたいことをたっぷり挙げて全部実行できるような行程を練ります。こだわり屋なので、旅のキャッチコピーを決め、しおりも作ります。なのに結局当日のフィーリングで行程をどんどん変更する。という、周到に用意して、からの「いきあたりばったり」旅。
しおり
文:森 綾、撮影:ヒダキ トモコ、イラスト:山田 だり