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- 八ヶ岳、勝沼 甲州ワイン街道の旅
- REPORT.01 老舗ワイナリーで星を見上げ 甲州ならではのワインを満喫
- REPORT.02 ワインスイートルームに泊まり ワインリゾートのもてなしにたっぷり酔う
- REPORT.03 国産ワインが美味くなった理由を 考えつつ酔いしれる
ワインスイートルームに泊まり
ワインリゾートのもてなしにたっぷり酔う
丸藤葡萄酒工業にほど近い、ぶどう畑に囲まれた「いしはら」で名物の手打ちほうとうを食べた私たちは、ぶどう寺として知られる大善寺を参拝。約1300年前に行基が作ったとされる左手にぶどうをもった薬師如来は、勝沼とぶどうの長い歴史を象徴していた。
この勝沼から長野にかけては「ワイン街道」と呼ばれている。大善寺を後にした私たちは、街道のほぼ中間点に位置する小淵沢へ移動。日本初のワインリゾートであるリゾナーレ八ヶ岳に早めにチェックインした。
私が案内されたのは、全館に一室しかないワインスイートルームだった。部屋専用のワインセラーには地元のワインが各種用意され、ワインにあうつまみもそろっている。私は早速テラスに設けられた露天風呂で汗を流し、白ワインを飲んですぐそこに迫る八ヶ岳を眺め、二階のベッドで仮眠をとった。
左上)滞在したワインスイートルームにはグラスとワインだけでなく、持ち帰り可能なワイングッズやおつまみ、特製サングリアなどワインの楽しみが詰まっている。チェイサーのミネラルウォーターも国外産の珍しいものを用意してくれている。右上)オットセッテの政井料理長の料理は見た目もさることならが、塩梅が絶妙。すばらしかった。左下)八ヶ岳ワインハウスではワイン街道沿いの24種類のワインが最新のワインサーバーでテイスティングできる。右下)オットセッテのセラーは奥行12メートル、2500本のワインがある。誠実で穏やかなソムリエ井上さんとの会話にも心癒される。
夕食をとるために向かったのは館内のイタリア料理リストランテ、OTTO SETTE(オットセッテ)。予約していたVino e Cucinaは、メニューにある各料理にそれぞれ地元のワインが添えられて出てくる。その数は10種におよび、国産ワインと料理の相性を知るにふさわしいコースとなっている。ルバイヤートのロゼ2003も登場し、イカ墨の風味を効かした「お米とスカンピを使ったフリット」の味を際立たせる。私は、同店のソムリエである井上信太郎さんの説明を聞きつつ食べては飲み、飲んでは食べてその抜群の組みあわせを体感。同時に、国産ワインが海外でも通用することを実感した。
ワイン街道沿いで生産される24種のワインの利き酒ができると聞き、翌朝、私は朝食をとらずに館内の八ヶ岳ワインハウスに向かった。自動販売機で各地のワインを専用グラスで受けてハムやパンをつまみに飲み、3杯もあけたところで私の腹は満たされた。
この日私が向かったのは、昨晩の料理にも2種類のワインが出てきていたドメーヌ ミエ・イケノ。「ドメーヌ」とは全ワインを自社畑産のぶどうで造ることを意味するのだが、この約3ヘクタールのワイナリーを運営するのは、元々は雑誌の編集をやっていた池野美映さんだ。
小淵沢の傾斜地に整備された垣根栽培のぶどう畑に立つと、八ヶ岳だけでなく南アルプスもすぐ近くに感じる。ふり向けば秩父山系も見え、そこにいるだけで気分がなだらなかになっていく。そんなことを口にすると、「よく富士山も見えますよ」と池野さん。きっと気のいい土地なのだろう。
左)専門家にも美しく清潔な畑と評判の高い池野さんの畑。普段は一般見学はできないが、年に数回リゾナーレ八ヶ岳とワイナリー主催でのイベントが行われる。右)丘の斜面を利用した地上1階、地下2階の醸造所の建物。この高低差が「グラビティ・フロ・システム」を可能にしている。随所にこだわりと新しさと清潔感が
そもそも編集者だった池野さんがワイン作りに進んだのは、地域文化と自然と食に興味を抱いていたからだという。この3つのテーマが重なりあったところにワインがあり、それならば好きなブルゴーニュ・ワインの地で学ぼうと渡仏したのだ。大学で3年間学び、そのままブルゴーニュの大規模なワイナリーで働く選択もあったが、「日本が好きだから」と生まれた小諸にもどり、周辺を巡って耕作放棄地だった現在の土地にワイナリーを興した。ぶとう栽培に適した気候風土であったからというのと、「山を見ると落ちつくから」というのが選んだ理由だった。
そして2007年、整地を終えた池野さんはついにぶどうの樹を植えた。化学肥料や除草剤、殺虫剤は用いず、昔から馬の産地として名高い小淵沢にふさわしく馬糞を肥料とした。翌年、翌々年と拡大していった畑には今、メルロー、シャルドネ、ピノ・アールの3種がしっかり育っている。池野さんはブルゴーニュで知った重力を活用する「グラビティ・フロ・システム」で収穫したぶどうを醸造。圧搾機械やポンプを使わないこの手法で、より自然に近いワインをめざしている。
「きのう、2013年の赤を樽に入れたんですよ」
池野さんの話を聞き、私は昨晩食べた牛肉のローストの味を思いだした。赤ワインのソースをからめたその肉に井上さんが合わせたのは、ミエ・イケノ ピノ・ノワール2012だった。まといつく肉の旨味をひきたてるキレのある赤の風味が口中によみがえり、私はたっぷり生唾を飲みこんだ。