-
無形文化財でもある八戸酒造の蔵を見学後、カウンターで社長の奥様手製の漬物とともに
「陸奥八仙」の試飲をさせてもらった -
次に向かったのは銘酒「八仙」や「男山」で有名な蔵元、八戸酒造だった。わざわざ駒井社長に南部仕込みの工程を丁寧に案内してもらい、その上でできたての「八仙」を試飲させてもらった。
「バッカみたいに美味いですね!」
我ながら失礼な絶賛だと思うが、豊かな魚貝類をつまんでいい酒を呑めば、もうだめだ。ぬるっと喉を滑りおちた途端、くわっとひろがって熱い花びらを散らす美酒の魅力を伝えたいのだが、ソムリエよろしく凝ったレトリックなど考えられず、感じるままに言葉が飛び出ていく。社長はにこやかに「美味いでしょ」とうなずき、私と同じペースで杯を重ねていった。
酒蔵から出ても外はまだ明るかった。残雪をぬけてくる風が気持ちよく、酔いさましに私たちは海へ向かった。 ↙
-
八戸港の先、「七子八珍」にもあった鮫がそのまま地名となった鮫町にある蕪島(かぶしま)。ここの蕪嶋神社に足を運んでみて、驚いた。遠くから見たときには群生している植物かと思った白い点々が、実はすべてウミネコだったのだ。神社の石段の周囲だけでなく島のいたるところにウミネコがいて、私が近づいてもまったく逃げない。境内にあった案内板によれば、この島全体がウミネコの繁殖地として国の天然記念物に指定されているとのこと。2月末からはじまる繁殖期になると、約4万羽のウミネコが周囲800m、高さ17mしかない蕪島を覆いつくすらしい。
鮫漁港近くにあるウミネコの別天地、蕪島。ここでしか目にできない絶景に酔いがさめた私は、太平洋を遠望しつつこの土地の海との長い関係を思った。南北からくる海流の恩恵を食して古代より人が住みつづけてきた証は、八戸市周辺で発見されている数多くの縄文期の遺跡でもあきらかだ。「七子八珍」すべてではないにしろ、貝塚に残る多様な魚貝とそれらを獲るために進歩していった道具の数々……今も昔も、青森には古代、さらにいえば野性の息吹がはっきりと息づいている。 -
蕪島を埋めつくすウミネコたち。この旅の道中のあちこちで
白鳥や鴨などの渡り鳥を見ることができた
-
「みちのく祭りや」で解禁最終日の生のホッキ貝の丼、せんべい汁など郷土色いっぱいの料理をいただいく。館内には三大まつりの本物の山車が飾られていた
-
宿泊する三沢市の青森屋で古牧温泉の源泉につかり、しっとりした肌に上機嫌になった私は、夕食をとる「みちのく祭りや」へ移動した。そこで八戸せんべい汁とホッキ丼を食し、また「八仙」を呑みつつステージに目をやった。青森屋の従業員による"青森体感ショー"がはじまるというのだ。
素人がやるのだからと、さほど期待はしていなかった。法被(はっぴ)姿に着替えた若い従業員がそれぞれに楽器をもってあらわれ、まずは「五所川原立倭武多」を演奏しはじめた。横笛の音が館内に響いてほどなく、私はひきこまれた。手振り鉦、担ぎ太鼓、締め太鼓が鳴り響くたびに血がさわいだ。演目が「弘前ねぷた」にかわり、さらに「八戸三社大祭」へ進むころには酒を呑むのも忘れて見入った。小太鼓、大太鼓の音が妙に快い。澱んだ血流が太鼓にうながされて動きを速めているのか、体がむずむずしてきて今にも動きだしそう。最後の「青森ねぶた」がはじまると、武者をかたどった大きな灯籠の躍動に疲れているはずの体が共鳴。小一時間ながら、まさに青森の祭りを体感したのだった。