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- 八ヶ岳、勝沼 甲州ワイン街道の旅
- REPORT.01 老舗ワイナリーで星を見上げ 甲州ならではのワインを満喫
- REPORT.02 ワインスイートルームに泊まり ワインリゾートのもてなしにたっぷり酔う
- REPORT.03 国産ワインが美味くなった理由を 考えつつ酔いしれる
国産ワインが美味くなった理由を
考えつつ酔いしれる
私たちが最後に訪ねたのは、グレイスワイナリーで有名な中央葡萄酒の第二の拠点、ミサワワイナリーだった。北杜市明野町にある広大な自社畑に隣接したワイナリーの入口近くには、甲州という名の番犬が待っていた。
日本を代表するぶどう品種の甲州。その甲州といえばグレイス、グレイスといえば甲州といわれている。社長の三澤茂計さんは、「甲州こそわが命」とまで言いきる人物らしい。茂計さんの娘で栽培醸造責任者を務める彩奈さんも負けじと甲州にこだわり、醸造法の違いで10種類ほどの甲州をラインナップにそろえている。営業部員の山田和宏さんの案内でそのうちの数種をテイスティングさせてもらったが、ドライな中にもたしかに微妙な違いがあって楽しめた。美味かった。
左)ミサワワイナリーでは、三澤農場、ワイン醸造見学、ティスティングセミナーが合わさった半日プレミアムツアーなどを開催(要予約)。右)予約なしでも建物内のワインショップやテイスティングカウンターで楽しめる。
三澤社長が甲州の垣根栽培に挑んだのは1992年だった。明野でも2005年から試み、現在、同社の甲州の垣根栽培は4ヘクタールにまで広がっている。そして挑戦から20年以上が過ぎて生まれた「キュヴェ三澤 明野甲州」は、英国のワイン雑誌『Decanter』が主催するワインコンクール2014でゴールドメダルに輝いた。
国産ワインの品質向上を如実に感じる甲州ブランドの白ワインに酔った私は、番犬の甲州に激しく吠えられながら帰途についた。海外の栽培法や醸造法に学び、その上で日本の風土に適合させるべく実践をくりかえして品質向上を実現してきた国産ワイン。その代表格であり発祥地のプライドもある甲州は、ワイン街道の起点にふさわしい土地だと睡魔に襲われながら私は思った。
酒をのめ、それこそ永遠の生命だ、
また青春の唯一の効果(しるし)だ。
花と酒、君も浮かれる春の季節に、
たのしめ一瞬を、それこそ眞の人生だ
『ルバイヤート』133
オマル・ハイヤームよ、偉大なる先人よ。あなたは、やっぱり、正しい。
参考文献
- ・『ルバイヤート』(オマル・ハイヤーム 小川亮作/訳 岩波書店)
- ・『日本ワイナリー訪問完全ガイド』(美術出版社)
- ※1 日夏耿之介(ひなつこうのすけ)
大正、昭和初期に活躍した詩人、文学者、翻訳家。明治23年(1890)生まれ。独特の美意識に貫かれた詩風は識者の間で高い評価を受け、自ら「ゴスィック・ローマン詩体」と称す。早稲田大学、青山学院大学教授を歴任後、郷里飯田で晩年を過ごす。
今回の旅で立ち寄った場所
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丸藤葡萄工業「ルバイヤートワイナリー」
明治23年創業、国産ワインコンクールで金賞を多数獲得している老舗ワイナリー。Cソーヴィニヨン、シャルドネ、プティ・ヴェルドなどの欧州品種、勝沼の伝統品種「甲州」などで辛口ワインを造っている。毎年4月に開催される「蔵コン」は人気のライブイベント。
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ほうとう処いしはら
丸藤葡萄工業の狩野さんに教えてもらったほうとう屋さん。旧家の石原家の古民家をそのまま店舗にした落ち着いた造り。広間から見る日本庭園の木々も美しい。ほうとうは自家製味噌と野菜たっぷりで素朴な味わい。
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真言宗知山派 ふどう寺 大善寺
真言宗の古刹であり、多くの文化遺産を伝える甲州を代表する寺院のひとつ。薬師堂厨子は国宝。祀られている薬師如来(重文)が薬壺の代わりに葡萄を持っていることから、ぶどう寺と呼ばれている。敷地内には宿坊もある。
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リゾナーレ 八ヶ岳
南アルプス連峰や八ヶ岳、富士山の雄大な自然に抱かれたワインリゾート。建築界の巨匠マリオ・ベリーニが手掛けた建物とワインスイートを始めさまざまなタイプの客室が魅力的。リストランテ「OTTO SETTE」、八ヶ岳ワインハウスなど、上質なリゾートライフを満喫できるサービスを提供している。
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ドメーヌ・ミエ・イケノ
八ヶ岳山麗にあるワイン畑&ワイナリー。フランスのモンペリエ大学で栽培・醸造を学んだ池野美映さんが除草剤や化学肥料を使わずに育てた美しい畑をもつドメーヌ。グラビティーフローシステムで造られた「Mie Ikeno」は透明感と凝縮された味わいを併せ持つ。通常、一般見学は受け付けてないが、リゾナーレ八ヶ岳と自社でのイベント時のみ見学可能。
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手打ちそば 紬山荘
八ヶ岳南麗、森の中に佇む古民家を改装した蕎麦処。八ヶ岳の伏流水を使用した十割蕎麦は薫り高く、のどごしがよい。蕎麦の他おつまみ、夜のコース料理など充実。ワインの種類も豊富だ。
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中央葡萄酒「ミサワワイナリー」
大正12年創業。勝沼と八ヶ岳明野にワイナリーを持つ。創業以来、畑作りと葡萄の自社栽培にこだわっている。プレミアムワイナリー見学、テイスティング施設も豊富で訪れる人のレベルにあった楽しみ方ができる。
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暖炉レストラン ターシャ
ミサワワイナリーの近くにある暖炉レストラン。甲州和牛・銘柄豚富士桜ポーク・地鶏を中心にお魚料理は八ヶ岳サーモンなど新鮮な食材を使用。暖炉の薪で長時間ローストしたお料理を提供している。
旅人のお二人
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長薗安浩
作家。1960年長崎県生まれ。「就職ジャーナル」編集長を経て「ダ・ヴィンチ」創刊編集長などを務め、2002年より執筆に専念。著書に『セシルのビジネス』(小学館)、『あたらしい図鑑』(ゴブリン書房)、『最後の七月』(理論社)、『夜はライオン』(偕成社)などがある。
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久間昌史
写真家。長崎県壱岐市生まれ。 写真家・故 管洋志氏に師事後フリーランスに。東京を拠点に料理、人物、風景等、ジャンルを問わず雑誌、広告で活動。「動く写真」をコンセプトにした動画撮影も好評。日本写真家協会(JPS)会員。