
2025年、13周年を迎える星のや竹富島。開業から今日に至るまで、スタッフと島の方々はどんな道を歩んできたのか。 それぞれの思いも伺いながら、これまでの歩みと未来への展望をまとめました。
#01
沖縄の原風景が残るウツグミの島を訪ねて

石垣島から高速船に揺られて10分ほどで竹富島へ
琉球赤瓦の屋根に、琉球石灰岩を積んだ石垣。珊瑚の白砂を敷き詰めた道。沖縄といえば思い浮かぶ風景に出合えるのが、八重山諸島にある竹富島。周囲9kmほど、人口約330名の小さな島ですが、沖縄の原風景のような景観を残し、国の重要伝統的建造物群保存地区にも選定されています。 珊瑚礁が隆起してできた竹富島には山や川がありません。厳しい自然環境の中、島の人々は「ウツグミ(一致協力)」の精神で暮らしを営み、島特有の食文化や織物などの手仕事といった独自の文化を築き上げていきました。 また、自然への感謝と祈りから神々への信仰が厚く、年間で約20もの祭事を実施。中でも「種子取祭(タナドゥイ)」は、狂言や舞踊など数多くの伝統芸能が奉納される、島最大の祭りとして賑わいます。 島では先人から受け継いだ伝統文化と美しい自然環境を守るため、1986年に「売らない・汚さない・乱さない・壊さない・活かす」という5項目を基本理念とした「竹富島憲章」を制定。2019年からは観光客を対象に任意で一人300円の入島料を導入し、協力金を島の環境保全活動などに充てています。
◇島の歴史と文化を尊重し、島と共生するリゾートの誕生

「星のや竹富島」。客室の他、ラウンジやダイニング、プール、見晴台、スパ棟を備え、非日常の体験を提供
島の東に広がる「星のや竹富島」が開業したのは2012年6月のこと。開業の約7年前から島の人々との対話を重ね、「島が大事にすることは、星のや竹富島も守る」という約束のもと、島と共生するリゾートとして誕生しました。 約2万坪の敷地には、島の伝統的な建築基準を踏襲して築かれた48室の客室が点在。琉球石灰岩の石垣が赤瓦屋根の木造平屋を守るように囲み、南向きの縁側からは幸せを運ぶといわれる南風(パイカジ)が心地よく吹き抜けます。 島の伝統文化に触れるアクティビティや島特有の食文化を取り入れた食事など、単なる旅先での宿泊で終わらず、島人になって暮らしているような心地になれるのも星のや竹富島の魅力。 開業から13年を迎える2025年の今では、竹富島の風景にすっかり溶け込み、島ともに時を重ねています。
#02
竹富島で暮らすということ。「星のや竹富島」スタッフからの島便り
星のや竹富島には石垣島などからの通勤の他、自ら希望して竹富島に住んでいるスタッフもいます。 島には東(アイノタ)、西(インノタ)、仲筋(ナージ)の3つの集落があり、星野リゾートの社員寮も各集落にある他、一軒家を借りるスタッフもいるそう。開業当初はわずかだった島在住のスタッフも年々増加。島で執り行われる祭事をはじめ集会や清掃など、島の様々な取り組みにも積極的に参加しています。 独自の文化が息づく竹富島での生活とは、どのようなものなのでしょうか? 島で暮らすスタッフに、日々の生活や島への思いをうかがいました。
◇企画 小山隼人さん
2016年に入社した小山さんは、自ら望んで星のや竹富島へ。以来、島の魅力を生かした様々な企画を担当。島の人々との連携、スタッフ間の連携の要である「プロジェクトチーム」の運営、また島特有の畑文化や農作物を継承する「畑プロジェクト」のリーダーとして活動しています。

「竹富島は町並みなど有形のものに目がいきやすいですが、それを残してきたのは無形の人の心。景色を楽しむだけでなく島の人々の精神に触れてほしいですし、そのような滞在を叶えます」と小山さん
東京出身で離島の環境に憧れていたという小山さん。2016年10月から1年ほど竹富島に住んだ後、結婚を機に石垣島に転居。2023年3月からは再び竹富島で暮らしています。 「島の伝統的な建築基準で建てられた一軒家に家族で住んでいます。島には不動産会社がありませんので、物件は知人のツテで紹介してもらいました。 日常生活では、集落の集会や清掃など様々な活動にも参加しています。出勤前の早朝、息子とコンドイ浜を散歩したりするのですが、ビーチが綺麗なのは島の方々がビーチクリーンを行っているからです。竹富島の自然環境や景観は島の方々が掃除や草取り、ごみの処理など一致協力して行っているからこそ維持されているということを、島に住んで実感するようになりました。私自身、島民として島の活動に携われることを誇りに思っています」
小山さんは2017年にスタートした「畑プロジェクト」をはじめ、数多くの企画を通じて島の人々との連携を図ってきました。携わった人々からは島での暮らしに必要なことだけでなく、人として生きる上で大事なことを教えてもらったそうで、これからはその恩返しをしていきたいと語ります。
島の畑文化を継承し、次世代へ託す「星のや竹富島」畑プロジェクトの今「竹富島独自の伝統や文化は、これまで島の人々によって守られ、受け継がれてきました。ですが人口の減少で、それらを維持することが難しくなってきています。特に若い世代の人口減少は竹富島に限らず日本全体が直面している問題であって、竹富島はその縮図だと感じます。 竹富島には高等学校がないため、小中併置校卒業後はほとんどが島から巣立っていきます。島を離れた子どもたちが帰ってきてくれるような土台づくり、島外の若い人たちが興味を持ってくれるような魅力づくりができれば。島とともに歩む「星のや竹富島」だからこそできる、島の未来に向けた取り組みを進めていきたいですね」
◇広報・サービスチーム 與那城日南楽さん
那覇市出身の與那城さんが観光業を目指したのは、高校時代の経験から。国際通りで観光客によく道を聞かれ、案内すると喜んでもらえたことから観光の仕事に興味を持ったといいます。大阪の大学で観光学を学び、2022年10月、星野リゾートに入社。星のや竹富島での勤務を希望し、同年12月から竹富島で生活しています。

與那城さんは竹富島に来てから、雨が好きになったそう。「島特有の建物の造りからか、雨音がゆっくりと響くような綺麗な音で、つい聞き入ってしまいます」
那覇市出身の與那城さんですが、離島での生活は思った以上にギャップがあったと言います。 「まず景観が沖縄本島とまったく異なります。言葉も方言が違うため最初はわかりませんでしたが、島の方々と接していくうちに理解できるようになりました」

約600年の歴史を誇る「種子取祭」では狂言や舞踊など様々な伝統芸能を奉納
與那城さんが島で暮らして一番心が動いたのが、島最大の祭り「種子取祭」でのこと。2023年の催行では来客に飲み物やお弁当などを振舞う給仕を務めたそう。 「島で暮らす私を島の方々が覚えてくださったからこそ、給仕を任せていただけたのだと思います。島の一員として認められたみたいでうれしかったですね」 祭事に参加したことで新しいつながりができたと語る與那城さん。島の人々との交流が、とても楽しいと言います。 「春分から梅雨入りまでの「うりずん」の季節に、島民だけが許されているアーサーやモズク採りに連れていっていただきました。他にも料理上手な方にジーマミ豆腐やさたくんこう(サーターアンダギー)を教わったりしています」

海へと延びる西桟橋。夕焼けに染まる空と海が織りなす光景は必見
島で一番好きな場所は、夕日の観賞スポットとして知られる西桟橋だそう。 「日没後のマジックアワーは空がピンクだったり紫だったりと、毎日見ていても飽きません。竹富島では赤い空が次第に暗さを増す様子を「アコークロー」と言うのですが、言葉にできない美しさです。 竹富島は星空保護区に認定されているほど、星がとても綺麗に見えるんです。夜、桟橋に寝転んで満天の星や天の川を見上げていると、自分が竹富島に住んでいることを実感します。この絶景は島民と島に泊まった方の特権ですね」 竹富島が大好きで、「異動してください」と言われない限りは島にいたいと笑う與那城さん。 「島には魅力的な方がたくさんいらっしゃいますので、ゲストの皆様にアクティビティなどを通じてご紹介したいですね。島の方々にもゲストの皆様にも『よかったな』と思っていただけるよう、これからも励んでいきたいです」
◇広報 倉持薫さん
海外への興味から大学時代は英語を専攻し、アメリカで仕事に就いていたという倉持さん。星野リゾートには2022年11月に入社。最初の勤務地が星のや竹富島で、2023年12月からは広報を担当しています。

倉持さんが島で好きな場所は2つ。「1つは夕方のコンドイ浜。波も穏やかで夕日が綺麗です。もう1つはミシャシミチ。朝は蝶が舞って、天国のような光景に出合えます」
倉持さんは、前述の與那城さんと同じ東集落の寮で生活しています。 「星野リゾートに入社したのは、地域の方々と関わり、その土地の魅力をゲストの皆様にお伝えするという仕事に惹かれたからです。沖縄の文化にも興味がありましたので、竹富島での勤務は期待が大きかったですね。島に来た頃は緊張もありましたが、今では地域の方が皆顔見知りという、これまでにない環境で暮らすのが楽しいです」
仕事でも日常生活においても、島の人々との交流を深めていった倉持さん。中でも給仕を任された2023年の種子取祭は忘れられない体験だったと言います。 「実際に島民として参加したことで、島における祭事の重要性をあらためて実感しました。ひとつの祭事を行うために何週間も前から準備や練習を重ね、当日も役割を分担して進めていきます。島の方々が一致協力する姿は、裏方として携わったからこそ知ることができました。 種子取祭の給仕は裏方とはいえ、お客様の前に出る仕事。島に住んで1年での給仕は大役ですので、少しは信頼していただけているのかもとうれしい反面、しっかりやり遂げねばと気持ちが引き締まりました。当日は八重山の伝統的な絣布の着物を着たのですが、とても動きやすくて無事に給仕を終えることができました」 倉持さんは日々ゲストと接する中で気づいたことがあるそう。 「島の暮らしを知りたいというお客様がたくさんいらっしゃいます。地元の方のおすすめを教えてほしいという声も多いですね。私が島に住んでいるからこそ分かることをお伝えすると、とても喜んでくださいます」 星のや竹富島の魅力、そして竹富島の魅力を広く伝えていきたいという倉持さん。得意分野の英語を生かした広報活動にも意欲的です。 「国内はもちろん海外へも、今以上に情報発信していきたいですね。世界の人々に『沖縄にすごいリゾートがある!』と認知していただけるよう、私ならではの広報活動を目指したいです」
◇サービスチーム(※取材時) 河合千尋さん
河合さんは星野リゾートが提唱する、観光事業者だけでなく地域コミュニティや旅行者も一体となり、それぞれがメリットを得ることを目指す「ステークホルダーツーリズム」に共感。2023年に新卒入社し、最初の勤務地が星のや竹富島でした。

「最終便が出た後のコンドイ浜は静かで、波の音や生き物の動く音が聞こえてきます。浜にいた子どもたちと鬼ごっこしたこともありますよ」と笑顔の河合さん
河合さんが竹富島に住み始めて一番印象的だったのは、島の人々と神様とのつながりの強さだそう。 「集落ごとに月例会があるのですが、まず全員で神様に二礼二拍手一礼してから始まります。祭事も月に1、2回執り行われますので、島の方々の神様への思いを日々感じますね。 初めは島の集まりに参加しても少し距離を感じましたが、今では気軽に声をかけていただけます。狭いコミュニティだからこそ生まれる温かさを実感しますね」

島の環境保全について学ぶ「ふれあいまいふなーツアー」では、海岸の漂着ごみなどを回収するビーチクリーンを実施
島に住んだことで、河合さんがゲストへのサービスにつながったと感じているのが、「ふれあいまいふなーツアー」。生活に欠かせない水をテーマに、竹富島の歴史や自然環境への理解を深めるアクティビティで、井戸巡りやビーチクリーンなども行います。 「島で暮らしているからこそわかることがたくさんあります。例えば、今日お休みの店が多いのは最近まで祭事があったからとか、集落が綺麗なのは半年に1回行われる「清掃点検」の後だからとか。島の背景をふまえて参加者の皆様にお伝えできるので、ツアーで語る引き出しには自信があります。 島での生活で気づいたこと、島の方々から学んだことを、今後もゲストの皆様へのサービスに生かしていきたいですね」
◇総支配人 磯部竜さん
磯部さんは2015年、星野リゾートに入社。「界 日光」、「界 鬼怒川」、「OMO5熊本」でキャリアを重ね、2023年12月、星のや竹富島の総支配人に着任しました。

島の景色を残したくてカメラを買ったという磯部さん。好きな場所は日帰りの観光客がいない夕方や朝のカイジ浜で、ブランコに乗って本を読むことも
磯部さんの星のや竹富島勤務は、船の遅延で荷物が届かないという離島ならではのハプニングからスタート。1週間石垣島に滞在した後、東の集落の寮で竹富島での生活が始まりました。 「島の住人として理解を深めて行くことが大事と、毎月行われる集落ごとの集会に参加しています。皆さんの発言や交流を肌身に感じて、島の方々によって受け継がれてきた伝統文化の濃密さ、そして祭事を軸とした時間の流れを実感するようになりました」 島に住んでいるからこそ、ゲストへのサービスに生かせる発見も多いと言います。 「ゲストの皆様が星のや竹富島に期待しているのは、島の方々が語る話や、島特有の文化を取り入れたアクティビティなど、島の魅力に触れられるコンテンツです。新しい企画を検討する際には、島で暮らしているからこそ発想できる、島の現状をふまえた提案を心がけています」

刻々と表情を変える夕暮れの美しさは、宿泊するからこそ出合える絶景
総支配人として日々取り組む磯部さんが、星のや竹富島の今後の課題として挙げたのが「連泊」。 「竹富島に訪れる観光客の多くは日帰りです。でも、美しい夕暮れや星空、朝の静かな風景は宿泊しないと見ることができません。連泊して暮らすように滞在することで旅の満足度が高まり、竹富島への理解も深まります。 そして連泊すれば、島での食事バリエーションを楽しむお客様もいらっしゃいます。それには島の方々のご協力は欠かせません。食事やアクティビティなど様々な場面での連携を図り、島の観光や経済にも貢献できる仕組みを考えていきたいと思います。 竹富島ならではの独自の観光経済の基盤を創り、持続させていくこと。島の魅力度を上げることで、ひいては島民の人口の維持にもつなげられるような試みを、今後もスタッフ全員でチャレンジしていきたいですね」
#03
島民と向き合う2つの取り組み。「プロジェクトチーム」と「集落の日」
◇島民のニーズを把握し、独自のコンテンツを生み出す「プロジェクトチーム」
島と共生するリゾートとして開業した星のや竹富島。運営に欠かせない島の人々との連携、そしてスタッフ間の連携の要となっているのが「プロジェクトチーム」です。 チームメンバーは島の文化や祭事などを学ぶ中で、島民の様々な要望に耳を傾け、竹富島ならではのツアーやアクティビティを企画。単なるリレーションの構築にとどまらず、島の人々のニーズを把握し、星のや竹富島のコンテンツとしてゲストに提供することで、島の文化や環境を守りつつビジネスとしての貢献を目指しています。 島文化の演出を担当するスタッフが企画を考える上で心掛けているのは、「島の人々と一緒に作る」こと。島民からの意見や要望を取り入れる一方、島の魅力発信につながると思う企画があれば、スタッフから島民に積極的にアプローチすることも。 スタッフ自身が肌で感じた魅力を形にしたツアーやアクティビティは、星のや竹富島だからこそ叶うコンテンツとして、ゲストに高い人気を得ています。 チームの活動内容はメンバー以外のスタッフにもメール等で共有。得た情報を共通認識とすることで、星のや竹富島全体のサービス向上に生かしています。
また島の人々に好評なのが、毎月発行している「星のや通信」。星のや竹富島で取り組んでいることやスタッフの思い、島の祭事や文化などを写真と記事で紹介したのもので、島の人々からは記事の感想をはじめ、新しいスタッフの顔や名前が覚えられてうれしいという声も。 星のや竹富島の活動や思いをコンスタントに伝えることが、島民との関係性を築く一端となっています。

各集落の月例会で配布している「星のや通信」。竹富島と島の人々へのスタッフの思いが満載
島民とスタッフとの良好な関係性は、ゲストにとっても旅の楽しみが広がります。 記念日、アクティビティ、休息などゲストが星のや竹富島を訪れる理由は様々ですが、多くのゲストにとって観光スポットや定番グルメにとどまらず、島の伝統文化や歴史に触れ、島の人々とも交流できる滞在は大きな魅力です。 観光事業者・地域コミュニティ・旅行者が観光産業の輪に加わり、3者がメリットを得ることを目指す「ステークホルダーツーリズム」を提唱する星野リゾート。 プロジェクトチームでは星のや竹富島という枠を超え、島全体での人と人との触れ合いをゲストに提供することで、他では味わえない滞在を叶えることを目標としています。
◇島の人々へ感謝を込めて。スタッフの思いをのせた「集落の日」
星のや竹富島で開業月の6月に開催する「集落の日」は、島の人々を招いて日頃の感謝の気持ちを伝える恒例イベント。八重山の食文化をフレンチの技法でアレンジした島民のための特別ランチを用意し、島の小中学生が星のや竹富島のサービスを学んで実践する「サービス体験プログラム」など、多彩な催し物が行われます。 スタッフにとって、集落の日は開業時の思いを忘れないため、そして島の人々との絆を深めるための大切な日。島の人々へ、日々の感謝と島への思いを伝えるべく、今年も準備が進められています。
#04
島民から見た「星のや竹富島」とは? 取り組みやスタッフに思うこと
星のや竹富島による様々な取り組みは、島の方々にはどのように映っているのでしょうか? 竹富島で生まれ育ち、島の産業に携わるお二方にお話をうかがいました。
◇「新田観光」 代表・「ユーグレナ竹富エビ養殖株式会社」 代表取締役 新田長男(にったながお)さん
新田さんは、竹富島の運営を担う自治組織「竹富公民館」の館長。星のや竹富島スタッフの祭事への参加をはじめ、島での様々な活動をサポートするなど、スタッフにとって心強い存在だそう。 星のや竹富島では、新田さんが代表を務める「新田観光」による水牛車散歩を通年実施。また、竹富エビ養殖場からはディナーでゲストにふるまう車エビを仕入れるなど、交流は多岐にわたります。

「付き合いの長いスタッフは、気心の知れた存在。何かあると連絡して手伝ってもらっていますよ」と新田さん
新田さんは、島に住むスタッフが増えていることは喜ばしいと話します。 「竹富島には年間約20の祭事がありますが、常に人手が足りませんので、星のや竹富島のスタッフが島に住んで祭事に参加してくれるのはありがたいですね」 今は竹富島の観光業者の中にも島に住まない人が多いと語る新田さん。人出不足は、祭事だけでなく日々の暮らしにも負担が大きいと言います。 「島の人は朝起きたら、庭や家の前の道を掃除するのが日課。近年は空地が増え、その分も掃除すると余計時間がかかります。さらに島に住まない業者や観光客が増えるほど、目に見えない仕事も多くなる。ですから、島に住むスタッフが増えるのは助かります。 台風の時もそう。船が出ないので、折れた枝や海岸の漂着ゴミを片付けることは、島民しかできませんから」 新田さんは、星のや竹富島の活動に刺激を受けることも多いそう。島の畑文化を継承するため、星のや竹富島の畑で粟や麦などの農作物を育てている「畑プロジェクト」も、そのひとつだと言います。 「竹富島は土がほとんどなく、島民は生産性の低い土地で自分たちが食べる分だけ作って生活していた時代がありました。そのため島を出る人が増えて過疎化が進みましたが、観光地として脚光を浴び、今は島の産業の7~8割が観光業で成り立っています。 観光面の維持は重要ですが、一過性のブームで終わらないよう、自然を守りつつSDGsにも取り組む必要があります。星のや竹富島では自分たちの畑で作物を育てて提供していますが、今後は島民にもその活動を広げて、島で消費する程度の収量は作りたいですね」 「農作物の生産は、最終的に神事・祭事の維持につながる」と新田さん。 「かつて神事では島で採れた農作物を御供するのが常でした。今は他島産でまかなっていますが、多くは作られてないので、島での生産も考えていかないと。このままでは神事・祭事などの精神文化がおろそかになり、自然を守る余裕さえなくなります。 自然よりも先に崩れるのが人間の心。伝統を守るためにも、粟や麦を作って神様に御供できるようにならないと」 畑プロジェクトの影響を受け、農作物の生産に取り組み始めた人もいるそう。 「いずれは粟や麦畑を、神様の御供を作る場として観光客の見えるところに設けたいですね。島の文化の紹介にもなりますし、観光と祭事をつなげることで継続性も高まります。今後も星のや竹富島と連携して取り組んでいきたいですね」
◇「海風 Shukaji 竹富島」 上勢頭輝(うえせどあきら)さん
沖縄本島でのカヤックガイドを経て竹富島に戻り、沖縄に伝わる伝統木造帆船「サバニ」を復活させた上勢頭さん。かつて竹富島でも漁、稲作の米の輸送などに使われていたサバニと海洋文化を伝えるべく、ツアーを行っています。 星のや竹富島では、2017年からプライベートサバニツアーを実施。担当スタッフとの定期的なミーティングを通じて、星のや竹富島の魅力づくりなどにも協力されています。

「竹富島のことを造られた景色とかテーマパークのように思っている人が多いですが、今に至るまでの歴史や文化を知ってほしい。自分に関していえば、先人からの「知恵」という部分を伝えたい」と上勢頭さん
星のや竹富島では当初、季節限定だったサバニツアー。シーズン問わず乗りたいというゲストの声が多く、今は通年実施されている人気のアクティビティです。 サバニツアーに参加するゲストは竹富島に興味を持っている人が多いと、上勢頭さんは語ります。 「島の歴史や伝統文化について知りたいという方が多いですね。若い方でも、島の様々な文化やその背景など、ちゃんと説明すると面白がってくれます。 島の話をもっと聞きたいという方もいて、毎年来てくれたり、年に何回も来てくれたりするリピーターもいます。そういった方々が満足してくれるようなツアーを作っていかないと。星のや竹富島でも、サバニツアー以外のお客様にも島のことを伝えてほしいですね」 星のや竹富島の魅力づくりにも協力を惜しまない上勢頭さん。2025年の今夏実施予定の滞在プラン「なちゆくい島時間」は、夏の島民の暮らしにならって暑い時はゆったりと過ごしつつ、涼しくなった夕方にはプライベートサバニ体験も楽しめるもので、スタッフが上勢頭さんとの会話から発想を得たそう。

心地よい南風が室内を吹き抜ける客室でリラックス

茜色の空と海、水平線へ沈む夕日を眺める「夕暮れプライベートサバニ」で贅沢なひととき
「星のや竹富島には地元企業として根付いてほしい」と、上勢頭さんは期待を寄せます。 「星野リゾートは企業としては大手なので、ここに就職すれば安心だという場所になってほしいですが、島の若い子たちにはまだ浸透していない部分もあります。星のや竹富島の職場体験に参加した島の子たちもいますが、まだ学生だったりするので、この先5年から10年後くらいに見えてくるものなのかなと思っています。 星のや竹富島があるから、就職先があるからというUターンの子が出てきて、初めてひとつの形かなと。島に帰ってきて働きたいと思える場所になってほしいですね」
#05
これまでも、これからも。島民とともに目指す島の未来
「ウツグミの島に楽土」をコンセプトに掲げ、島の人々と連携してきた星のや竹富島。 「竹富島の一番の魅力は、人」。 星のや竹富島のスタッフは皆、口を揃えてそう語ります。 「島の人々は皆、一度会ったらまた会いたくなる人ばかり」だと。そして独自性豊かな伝統文化、美しい自然環境という竹富島の魅力は、目に見えないところで島の人々が日々守り続けているからこそ受け継がれているのだと。 「島のため、島の人々のために何ができるか。そして星のや竹富島の魅力づくり、ゲストへのサービスにどうつなげるか」。 そんなスタッフの思いに島の人々も向き合い、時には議論も交える忌憚のない交流が、両者の信頼感を深め、持続可能性を高めているように感じました。 観光業を軸に広がる島の産業に惹かれた子どもたちが島に戻り、畑では神事に供える粟や麦が実るー。 数年後には、そんな島の未来に出会えるのかもしれません。 独自の文化、美しい自然という竹富島の変わらない魅力。 そしてスタッフと島民、さらにはゲストも交えたリレーションが島にもたらす価値。 島とともに歩み続ける星のや竹富島での滞在を通して、ウツグミの島の今を体感し、続く未来へと思いを馳せてみてはいかがでしょうか。