究極の気を遣わない旅
「おひとりさまホテル」の楽しみ方
マキヒロチ
第46回小学館新人コミック大賞入選。ビッグコミックスピリッツにてデビュー。『いつかティファニーで朝食を』では「朝食女子」というワードもブームに。代表作は他に、人生の岐路に立つ女性たちが新しい街で一歩を踏み出す姿を描く『それでも吉祥寺だけが住みたい街ですか?』、スケートボードに魅せられた女子の挫折と再生の日々を描いた『SKETCHY』(ともにヤンマガサード)、ホテルに魅せられ新しいライフスタイルを模索する人々を描く『おひとりさまホテル』(月刊コミックバンチ)。
星野
漫画『おひとりさまホテル』で「星のや富士」を取り上げてくださってありがとうございます。
マキヒロチさんの漫画『おひとりさまホテル』2巻に「星のや富士」が登場!
マキヒロチ
こちらこそ、創作のための取材としてインタビューをさせてもらったり、泊まらせてもらったり、星野リゾートさんにはお世話になっています。
星野
私自身が「おひとりさまホテル」をやったことがなくて、今日はひとり旅をする方の深層心理が知りたいんです。
マキヒロチ
そうなんですか!?逆に代表が「おひとりさまホテル」をしないのはどうしてですか?
星野
私はプライベートな旅は全部スキーに当てちゃっているので。冬場は常に、年間70日はスキーをしています。スキーはおひとりさまだと雪崩にあったら危険なので、必ず仲間と行きます。
マキヒロチ
なるほど(笑)。年間70日間もスキーに行かれるんですね!
対談は「星のや東京」の各フロアに設置された「お茶の間ラウンジ」にて行われた
星野
私たちはホテルをつくって運営していく上で、旅をする人たちのニーズを調査します。たとえば50代60代のご夫婦は、元気なうちにまだ行ったことない場所へ旅に行きたい。20代の若者たちは、友だちと気楽に過ごせる「居酒屋以上旅未満」の体験を求めている。極端なことを言えば、自分が住んでいるところから一駅二駅の距離でもちょっとした非日常な体験ができればいい。つまり、「どこに行くか」よりも「誰と行くか」を重視しているんです。家族旅行も一緒に過ごすことが大事ですよね。ところが、おひとりさまは誰と行くかは重要ではない。何がニーズの中心なのか、いまだにわかっていないんです。
マキヒロチ
私が「おひとりさまホテル」をするようになったのは、コロナ禍がきっかけです。それまでひとりでホテルに泊まるのは、出張先だったり、青春18きっぷで目的地に行った先だったり、ホテルを目的にすることはなかった。でも、コロナ禍で旅行ができなくなって、気分転換に仕事をしながら都内のホテルに泊まってみたら、すぐにハマりました。
星野
ハマったのはどの部分ですか?
マキヒロチ
やっぱり都内のホテルに泊まるのは贅沢中の贅沢じゃないですか。自宅ではない部屋で散らかしても掃除をしてくれて、ルームサービスを使えば料理も出てくる。その体験が気持ち良くて調べたら、こんなホテルもあるんだ!ここにもあそこにも泊まりたい!この会社のホテルをコンプリートしたい!と広がっていきました。
星野
おひとりさまの旅は、誰とどこに行くかよりも「どのホテルに泊まるか」が大事なんですね。
漫画の主人公たちと同じように「おひとりさまホテル」にハマっているマキヒロチさん
星野
でも、ルームサービスで料理が出てくるという点では、Uber Eatsという選択肢もありますよね。その違いは何なのでしょう?
マキヒロチ
やっぱり圧倒的な非日常感ですね。自宅でキッチンがあるのに料理をせずにUber Eatsを頼むのはなんだかうしろめたさがある。でもホテルに泊まると、旅行というものに料理を食べる行為がパッケージングされているから、うしろめたさを感じないんです。
「おひとりさま」の深層心理を解き明かそうとしている星野
星野
おもしろいですね。キッチンがある自宅の日常の延長線上にあるAirbnb(エアビー)ではなく、ホテルという非日常の空間に身を置くことに意味があると。でも、ひとりで行く必要性はどこにあるのでしょう?
マキヒロチ
漫画『おひとりさまホテル』は、ひとり時間の過ごし方を提案するメディア『おひとりさま。』を運営するマロちゃんと一緒につくっているんです。ふたりで共感するのが、おひとりさまの魅力は誰の目も気にしなくていいこと。思い立ったときにふらっと行きたいホテルの予約ができるし、部屋で脱ぎ散らかしても、ルームサービスで贅沢しても誰にも怒られない。
星野
一緒に行く人に気を遣わなくていいってことですね。私はこの歳になって、スキー仲間と一緒に行っても、ひとり部屋で脱ぎ散らかすし、相手のお財布事情も気にしなくなりました。ひとりだと思い立ったときに行けるのはいいですね。
マキヒロチ
日にちを事前に決めなきゃいけないのもそうなんですが、旅好きの友人を「このホテルに行こう!」と誘ったときに、「行ったことある!」と返されると気持ちが沈んじゃうんですよね。
星野
マキヒロチさん自身はホテルのリピートはされないんですか?
マキヒロチ
星のやでリピートしたのは「星のや富士」だけなんですけど、もっと手軽な価格帯のホテルであればリピートすることはあります。私が好きなホテルをリピートするのはいいんですが、一緒に行く相手とは初めてを共有して味わいたいと思っちゃうんですよね。
星野
なるほど(笑)。ひとりだったらそういう矛盾やわがままを誰にもとがめられない。おひとりさまは「究極の気を遣わない旅」なのかもしれないですね。
星野
「おひとりさまホテル」の理想の部屋はどういうものですか?
マキヒロチ
やっぱりツインベッドは使いづらいですね。ツインになってしまったら、お風呂に入る前にごろごろして汚すベッドと、お風呂に入ったあとにごろごろするキレイなベッドとして使い分けます。でも本音は2回転しても落っこちない広さのキングベッドがいいです。
星野
キングベッドがいい理由は大胆にごろごろできるからですか?
マキヒロチ
そうですね。今日は「星のや東京」に泊まらせてもらったんですが、理想のキングベッドで、あえて枕側に頭を置かず、枕と並行する向きで寝てみたんです(笑)。それがすっごくよくて。優雅な気持ちになれました。
「星のや東京」の客室
星野
不思議だなあ。
マキヒロチ
キングベッドは、こんな姿誰にも見せられないっていうことを、人目を気にせずさせてくれるんです。
星野
おひとりさまの深層心理がますますわからなくなってきた(笑)。キングベッド以外はどうですか?
おひとりさまの本音を飾らずに伝えてくれるマキヒロチさん
マキヒロチ
ベッドの前に「フットベンチ」があるといいですね。その正面にテレビがあったらテンションMAXになります。
星野
テレビはリビングではなく寝室にあったほうがいいんですね。ベンチは何に使うんですか?
マキヒロチ
ベンチは、部屋に戻ってきたときに「はあ〜疲れた」と座ったり、お風呂上がりにテレビを観ながらボディクリームを塗ったりします。ベンチの前にちょっとした机があって、テレビを観ながらルームサービスで食事ができたら最高ですね。
星野
テレビを観られるのがいいんですね。何を観られるんですか?
マキヒロチ
家ではほとんどテレビを観ないので、ホテルで観ることに特別感があるんです。観るのは地方のホテルであればローカルニュースとかですね。
おひとりさまが求む客室がだんだん見えてきた……?
星野
ほかに理想はありますか?
マキヒロチ
私は仕事をすることが多いので、PCが置ける高さの机があると嬉しいです。あとは、荷物をバンバン入れられるクローゼットがあれば。
星野
アメニティや冷蔵庫に入っていてほしいものはありますか?
マキヒロチ
オールインクルーシブでなければ特にないですね。強いて言えば、常温で置いてある水を冷蔵庫に入れておいてほしいくらい。以前、ある温泉街のホテルに泊まった際に、冷蔵庫の中に飴と醤油差しのみが入っていて、なんで?ってほっこり笑えました。
星野
そういうハプニング、考えさせる仕掛けはおもしろいですね。
マキヒロチ
思い出に残りますよね。星野リゾートさんはその点、アクティビティが充実しているから、ひとりでも思い出がつくりやすいです。
星野
アクティビティにはひとりでも参加されますか?
マキヒロチ
そうですね、ヨガはひとりでもよく参加しています。「星のや富士」では薪割りのアクティビティに参加しました。労働では?と思ったけど、実際にやってみたらすごく楽しかったです。
マキヒロチ
読者の方に向けて、代表がおすすめする星野リゾートの「おひとりさまホテル」を教えていただきたいです。
星野
ちなみに読者はどんな方々ですか?
マキヒロチ
30歳以上の女性が多いですかね。一度70歳の女性からお手紙をいただいたこともありますが。
星野
なるほど。女性のおひとりさまにおすすめなのは「星のや竹富島」ですね。実際に竹富島はオフシーズンの冬に女性のおひとりさまが多いんです。みなさん黄昏にいらっしゃる。
「星のや竹富島」の南風が吹く集落
マキヒロチ
わかります!私も毎年、冬に沖縄に行っています。寒くなると暖かい場所に行きたくなるんですよね。私が初めて「星のや」を体験したのも竹富島でした。
マキヒロチ
まだ泊まったことがないんです。来月沖縄に行くんですけど、別のホテルを予約しちゃった……
星野
ぜひ「星のや沖縄」にもいらしてください。オーシャンビューがキレイですし、ルームサービスがアップデートされているんです。「ギャザリングサービス」と言って、シェフが下ごしらえした料理を部屋の冷蔵庫までお届けして、最後の簡単な仕上げをご自身でやっていただくスタイルでして。土間ダイニングで気ままに、好きなタイミングで出来立てを召し上がっていただけます。
「星のや沖縄」のギャザリングサービス。客室で夕日を見ながら食事を楽しめる
マキヒロチ
それはおひとりさまにも魅力的ですね。ぜひ泊まってみたいです。星野リゾートさんはいろんなホテルブランドがありますが、「星のや」たる所以ってどこにあるんですか?
星野
「星のや」で一番重視しているのは圧倒的な非日常性。日常とのトランスファーの度合いにこだわっています。いかにラグジュアリーな世界観をつくりこめるかどうかが勝負になります。
星野
次に、おひとりさまにぜひお越しいただきたいのは「OMO7旭川」ですね。「OMO」は街を愛するスタッフ“OMOレンジャー”が地域の人と連携して仕掛けるホテルブランドなのですが、旭川は最初に誕生したOMOなので、歴史が長い分、地域の方々との関係性も濃密なんです。地域全体で旅を楽しむことができる。
「OMO7旭川」にある旅行者とローカルがつながる開かれた空間OMOベース
マキヒロチ
OMO7旭川ではどんな体験ができるんですか?
星野
例えば、旭川のラーメン有名店3軒を通常の半量ではしごできるガイドツアーがあります。通常の量だと1杯しか食べられないけど、半量なら3杯いけるでしょう?ほかにも旭川でヒットしているのが、ご当地スーパーを巡るツアー。観光土産を買うよりスーパーの方が魅力的なものもあるからとみなさんお買い物をなさる。店長も喜んで迎えてくれます。
マキヒロチ
わかります!「BEB5軽井沢」に泊まったあとに、長野のご当地スーパー「TSURUYA」に寄ったら、楽しくて豪快に9000円くらい買っちゃいました。
星野
ご当地スーパーは、都心にはないその土地ならではのものが売っているからおもしろいんですよ。北海道では「OMO3札幌すすきの」もおすすめです。「幸せな夜更かし」がコンセプトなんですが、地域と連携が取れてきてホテルのロビーに、繁華街にあるスナックが出張に来てくれているんです。おひとりさまで、話し相手がほしいと思ったらスナックのママとのおしゃべりが楽しめます。
「OMO3札幌すすきの」の夜更かしスナックOMO(おも)
マキヒロチ
ひとりでスナックへは行きにくいので、ホテルで気軽に体験できるのはいいですね。
星野
ママと仲良くなったらお店にも行っていただいてもいいですし。漫画『おひとりさまホテル』では「星のや富士」の富士山の景色が描かれていましたが、夜景などビューも気にされますか?
マキヒロチ
「星のや富士」を描くならあの壮大な景色は入れたいと思ったんですよね。夜景は、漫画でバーンと見開きで景色を描くと映えるんです。広がる景色は心に響くものがあると思います。
星野
その点、2024年夏にオープン予定の「OMO函館」(2024年2月詳細発表予定)は、夜景を楽しむことができます。駅の近くなんですが、五稜郭にもアクセスがよく、ロープウェイで函館山に登ることもできる。
マキヒロチ
それは楽しみです!OMOはその街の文化を堪能できるんですね。
星野
まさに!
星野
おひとりさまには、温泉旅館ブランド「界」もおすすめです。一番向いているのは山口県の長門湯本温泉にある「界 長門」かな。
マキヒロチ
行きました!
星野
さすがです。「界 長門」は長門市と一緒に旅館だけでなく温泉街をリノベーションすることも計画に入れていました。川床テラスがあって、ビールが飲めるバーやご当地グルメが食べられる食堂があり、これからピザ屋もオープンする予定で、温泉街が充実してきています。
マキヒロチ
ひとりでゆっくり温泉旅館に行くのもいいですよね。
星野
石川県の山代温泉「界 加賀」もいいですよ、温泉街に風情があって。伝統的な加賀獅子舞を毎晩披露していますし、金継ぎ工房があります。
マキヒロチ
割れた器を金継ぎして、心のヒビも修復して(笑)
星野
温泉街にひとりでいくのはいいかもしれない。以前「界 津軽」におひとりで泊まった方が、同行者がいらっしゃる際は旅館の温泉だけを愉しむらしいのですが、大鰐温泉の外湯を巡ったそうです。旅館の温泉と違って、地元の人たちが津軽弁で話していて、何を言っているのかわからないけれど非日常体験になったとおっしゃっていました。
星野
私がスキー以外でひとりで行くなら、ワイキキにある「サーフジャック ハワイ」に長期滞在したいですね。
マキヒロチ
行きました!プールでひたすらぼーっとして過ごしました。星野リゾートさんが手掛けていると知らなくて。日本全国、海外も含め、本当に手広いですよね。
星野
2026年春に開業予定の「星のや奈良監獄」もおひとりさまに向いているかもしれない。監獄なので(笑)。明治時代に建築された赤れんが造りの建物で、通路やドアはそのまま、9つの独房をつないだ部屋に泊まっていただけます。囚人が逃げないように窓は高いところにあって空が見える。レストランの個室は5平米の独房になります。
マキヒロチ
奈良監獄は「星のや」なんですね。
星野
「星のや」以外やりようがなかったですね。明治時代の建物を修復・改装するのでお金もかかりますし、監獄でラグジュアリーな体験をしていただくことに価値があると思うので。
「部屋着はボーダーの囚人服で、ご予約は懲役3日ですねとご案内するのもいいかもしれない(笑)。とことん世界観をつくっていきます」と星野
マキヒロチ
すごい!めちゃくちゃ楽しみです。星野リゾートさんはブランドや場所に紐づくホテル体験が多彩で、コンプリートしたいと思わせてくれる魅力があります。漫画でもまた描きたいです。
星野
スキー旅はどうでしょう?おひとりさまには向かないけれど。
マキヒロチ
星野リゾートさんのスキーリゾートでおすすめはどこですか?
星野
福島の「ネコマ マウンテン」ですね。磐梯山系の猫魔ヶ岳の2つのスキー場を再生し、リフトでつなげて運営しています。東京から3時間で行けて、33のコースがあり、パウダースノーで、雄大なパノラマビューが美しい。アウトドア文脈では、谷川岳ロープウェイの運営も始めて近年山小屋改革にも乗り出しています。日本の山小屋は雑魚寝が多いので。
マキヒロチ
谷川岳も星野リゾートさんだったんですね!知りませんでした。登山も好きなので、ありがたいです。
星野
意外な側面を知りました。登山もおひとりさまですか?
マキヒロチ
登山もスキーと同じでひとりだと危ないので、山仲間と行きます。百名山を少しずつ登っています。
マキヒロチ
代表はホテルに滞在するときどんなアイテムを持っていきますか?
星野
車で行けて荷物に制限がないときは、エスプレッソマシーンを持っていきます。エスプレッソマシーンでカフェラテをつくって飲むのが大事なルーティーンなので。合わせて九谷焼や越前焼のマグカップを持って行く。ホテルにある器は味気ないものが多いので、お気に入りのマグカップを一つ持って行くだけで部屋の質が上がっていいんですよ。ただ、新幹線や飛行機で行くときは外します。
マキヒロチ
エスプレッソマシーンは外した方がいいですね(笑)。私は現地でレンタカーを手配するのが面倒なので、東京から大阪くらいまでの距離であれば車で行って、余分な荷物も積んじゃいます。
お互いの旅のこだわりを共有し、盛り上がるふたり
星野
車のメリットは余分な荷物を持っていけることですよね。でも、ひとりで運転は大変じゃないですか?
マキヒロチ
眠らないように歌いながら運転をしていているんですが、気楽です。ホテルの部屋で、ひとりで滞在するときはどう過ごされています?
星野
私は基本スキー旅行なので、朝が早いんです。早めに眠り、朝からスキーをして、午後はデスクで仕事をする。1週間も滞在していると部屋中にものが広がっています。ベッドの上から俯瞰して見るとものが探しやすいんですよ。で、帰る日はチェックアウトの1時間半前から広がったものを5分間眺めてどうパッキングするか作戦を立てるんです。まずはスキー板にシャワーを浴びさせるところから……
マキヒロチ
洗うっていう表現ではないんですね(笑)。ものを広げて眺めるのは、やってみたい!ひとりでホテルの部屋を使うときは脱ぎ散らかしていいんですよね。それが贅沢だから。Instagramのホテルステイの投稿で、みなさんキレイに部屋を使っているのを見ると、部屋が汚い私はダメなんじゃないかって思っちゃうけど、散らかしていい!ってことを、声を大にして言いたいです。
インスタ映えも誰の目も気にしない「おひとりさまホテル」の醍醐味を教えてくれるマキヒロチさん
星野
「おひとりさまホテル」はどれくらい行かれているんですか?
マキヒロチ
漫画の取材で月に1回は必ず泊まっているので、年間12回は行っていますね。漫画の準備期間が2年ほどあってその間、50を超えるホテルに泊まりました。
星野
そんなに取材に行かれているんですね!漫画家のキャリアはどう歩んでこられたんですか?
マキヒロチ
もともと少女漫画志望で、小学校6年生の頃に『りぼん』に応募して、中学生で5万円とか10万円の賞を取れるようになりました。少女漫画ってデビューが早いんです。そこから編集者に少女漫画は向いてないんじゃないかと言われて、青年誌に切り替えて、19歳でデビューしました。
デビュー以来、マキヒロチさんは幅広いジャンルの漫画を描き続けている
星野
中学生で賞を取ったのがすごい。何歳から漫画を描き始めたのですか?
マキヒロチ
もともと絵を描くのは好きだったんですが、専門のペンで初めて漫画を描いたのは小学校4年生です。
星野
漫画は、絵が上手いだけでなく、ストーリーの発想も求められますよね。
マキヒロチ
母曰く、私は泣いている女ばかりを描いていた。泣いている顔を描きたいから、この女がどうしたら泣くか、ストーリーを逆算して考えていました。母と祖母と雑誌をつくろう!と、ノートに祖母が「節分物語」という農民とゴミの話を、母が双子のはちゃめちゃコメディを、私が泣く女の漫画を描いて、連載していました(笑)。
星野
親子三世代で連載雑誌をつくっていた!そこから19歳で本当にデビューされたんですね。
「好きなことがあるっていいですね」と感心する星野に対して「代表のスキーほどではないです」と返すマキヒロチさん
マキヒロチ
デビューしてすぐに連載はできなかったので、他の漫画家先生のところでアシスタントをして、読み切りを描いていました。30歳でヒット作『いつかティファニーで朝食を』が生まれました。
星野
大事な作品ですね。
マキヒロチ
はい。『いつかティファニーで朝食を』は聖地巡礼をする人が増えて「朝食女子」と呼ばれるようになりました。今度は漫画『おひとりさまホテル』で社会現象を起こしたいんですよね。
星野
いいですね!ぜひ一緒に『おひとりさまホテル』を盛り上げていきましょう!
「星のや東京」の客室にて
構成・原稿 : 徳 瑠里香 撮影 : 米山 典子 対談日 : 2023年11月16日