<第5回>歩きたくなる温泉街への景観チャレンジ
1.「未来のための社会実験」を3年連続で開催
社会実験と連動しながら「長門湯本温泉観光まちづくりプロジェクト※」が進んだことは、温泉街再生への大きな弾みとなりました。2017年9月・2018年9月・2019年8月に社会実験は実施され、音信川でのイベント「おとずれリバーフェスタ」を中心にして、3つの大きな調査(1.河川空間の活用 2.交通再編による道路・空地空間活用 3.照明改善)が行われました。(※参照:「長門湯本温泉街と界 長門のあゆみ」第1回)
2017年の「おとずれリバーフェスタ」では、 かつて“置き座”と親しまれた川床を設置したり、将来の誘致を見据えて県内から飲食店や物づくりの事業者を集めたり、夜の温泉街を効果的にライトアップして散策を促したり。2018年開催では出店は50を数え、長い間、見られなかった若者や子供連れが温泉街を楽しむ姿が!住民も参加しながら、魅力と課題を共有する機会となりました。
2.刺激しあうことで生み出されてきたこと
イベントのアンケート結果や課題については、住民と行政とプロジェクトメンバーが何度も話し合い、次につなげる努力を重ねました。「なりたい温泉街の姿を形にした」社会実験の反響は大きく、「空き家を改築して店を開きたい」「広場でイベントをしたい」などの要望が出始めました。プロジェクト当初から進む景観などに関するルールづくりが、山場を迎えつつある時期でもありました。
ルールづくりは「そぞろ歩きが楽しい温泉街」を実現するためのものです。“長門湯本らしさ”に立ち返る5つのアプローチ「①谷あいの風情と伝統を守り育てる(全体景観の形成)」「②楽しく安心してそぞろ歩きできる温泉街をつくる(道路空間の活用)」「③川のせせらぎを楽しむ空間をつくる(河川空間の活用)」「④観光客と共に暮らしを楽しむ気持ちをまちに表現する(おもてなしの演出)」「⑤情緒ある心地よい夜間景観を演出する(夜間景観の演出)」で取り組みます。
3.「訪れたくなる風景」「散策する楽しさ」へ
そうして完成した「長門湯本温泉景観ガイドライン」は、景観に関するルールや方法をまとめたものです。2018年3月に策定されました。最初のページには、こう書かれています。「景観形成を一つのきっかけとし、『訪れたくなる風景』、『散策する楽しさ』を地域自ら作り出していくため、今暮らしている町並みを見つめ直してみましょう」。
住民はもちろん、今後の景観形成を現場で担う地元の大工や工務店に向けた説明会やワークショップを何度も開催し、ガイドラインの合意形成を図りました。意見交換には「○×の旗揚げ」を活用するなど、少数意見を共有して納得しあえる形を見つけました。景観を担当するプロジェクトメンバーの益尾孝祐さん(ますお・こうすけ/アルセッド建築研究所・愛知工業大学准教授)を中心に、市の職員も奔走しました。
声を荒らげる場面も、説明会では見られました。「派手な看板の何が悪い」「通りの駐車場は目障りか、汚いものは隠せと言うのか」「不便をしてまで観光客に来てもらわなくていい」。場の空気を変えたのは地区の長。思いをこう語りました。「それぞれお考えがあるでしょうが、私はこの街が好きだから子供達に残したい。未来に残すための前向きな決断。これが最後のチャンスかもしれません」。
4.「長門湯本らしさ」は大切な観光資源
説明会の記録は毎回、「長門湯本みらいプロジェクト」のサイトに掲載され、同時に瓦版をつくって全戸配布。行政側では「よろづ相談」という個別ヒアリングの窓口を設置しました。加えて時間をかけて全戸訪問を行うなどして「長門湯本温泉景観ガイドライン」の合意形成を図りました。策定後、長門市は「長門湯本地区」を景観形成重点地区に位置付けました。
長門湯本温泉景観ガイドラインは「最低限守るルール」と「推奨ルール」の2段階に分けられています。「最低限守るルール」には建物の色、看板、屋根形状、夜間照明をはじめ、今後新しく作るものなどに対しても明記され、「推奨ルール」には長門湯本らしさを高めるルールを掲載。2021年には温泉街に空き家活用の店舗が3店オープン。そぞろ歩きの拠点として、店主らは「おもてなし」にも力を入れます。「訪れたくなる風景」「散策する楽しさ」が感じられる長門湯本温泉への挑戦は続きます。
次回もお楽しみに。
~今月の立ち寄り~
湯上りの一杯!長門湯本発の「365+1 BEER」
ビール愛好家の有賀敬直・彩香さんご夫妻が手がけるクラフトビール醸造所。その場で提供するタップルームを併設し、長門湯本温泉発の地ビール「365+1BEER(サンロクロクビール)」などが楽しめる。まちの資料館として活躍した元薬局を夫婦自ら改装。2021年7月開業。営業時間は店のインスタで。
写真提供> 長門湯本温泉まち株式会社、長門市、益尾孝祐、木下清隆、のかたあきこ
「長門湯本温泉と界 長門あゆみ」これまでの連載記事はこちらからどうぞ。