<第7回>「音信川うたあかり」で地域を照らし直す

1.温泉街全体に広がった、みすゞの灯り

冬の長門湯本温泉を盛り上げる「音信川(おとずれがわ)うたあかり2023」が、2023年1月19日〜2月19日(日没〜22時)に開催されます。これは温泉街を流れる音信川を舞台に、長門市出身の童謡詩人「金子みすゞ」の詩をテーマにした灯りのイベントです。年々、ライトアップエリアが拡大し、5回目の今年は温泉街の7か所が会場に。新スポットとして、みすゞのモザイク壁画(engawa YUMOTO横)、一ノ瀬エリア(だいご長屋前)が加わりました。

中心は竹林の階段・恩湯・雁木広場(幻燈輪舞〈げんとうロンド〉エリア)で、温泉街の玄関口となる駐車場から音信川までを結ぶ場です。みすゞの詩の朗読と音楽にあわせて影絵が踊る演出は見事で、作品の生命力を感じさせます。市内の幼保小中学校児童生徒約3000人が手作りしたあかり「みすゞのお庭エリア」(恩湯・芝生広場)や、川を照らす「おとずれ川エリア」、萩焼深川窯協力による萩焼ランプシェード「土あかりエリア」(恩湯前雁木広場)ほか魅力満載です。

2.ふるさとの魅力を再発見できる時間に

「うたあかり」は2019年2月、冬場の閑散期対策として始められました。音信川を照らす大型のあかりは地元開催のワークショップで作られたものです。長門湯本温泉まち株式会社の木村隼斗・エリアマネージャーは、近年の開催をこう話します。「とても手応えを感じています。それはフォトコンテストへのご参加が多く写真が撮りたくなるイベントであること、過去2回とも会期後半に向けて来訪者が増えており満足度の高さを裏付けていることがその理由です」。

今年は住民参加による〈うたあかりコンシェルジュ研修〉や金子みすゞ記念館による出張講座などを実施。木村さんは「市民の方がみすゞさん、そして地域のことを再認識するきっかけに、そして出来れば、旅する方にみすゞさんの世界観、長門の魅力を伝えられたら。宿泊しながら、ゆっくり味わってもらいたいです」と話します。オリジナル提灯を宿泊客に貸し出す旅館もあり、界 長門では山口県の伝統工芸・徳地和紙の提灯が、夜のそぞろ歩きのお供です。

3.「場所の声を聞く」地域の魅力を照らし直す

「音信川うたあかり」の総合演出を手がける長町志穂さん(株式会社LEM空間工房・代表取締役/写真右)は、温泉街の照明も監修する照明デザイナー。長門湯本温泉再生計画の初期からのメンバーです。「地元の方とお話しすると、まちの財産は音信川だとわかります。金子みすゞさんへの愛も感じます」と長町さん。「だからあかりの力で、その土地にもとからある古いものを照らし、魅力的に輝かせる」と言い、そのために「場所の声を聞く」ことを大切にすると話します。

竹林の階段や温泉街に連なる橋が、夕暮れとともに幻想的な姿で浮かび上がります。音信川の河川環境を活かした、川床・岩場・飛び石・橋梁・並木などを、眺めの連続として魅せる照明計画。ランドスケープデザインの特徴を活かす間接照明を主とし、温泉地の自然景観となる樹木へのライトアップを大きく取り入れ、温泉情緒あふれる「絵になる場所」をつくりだし、年間を通して旅する方を魅了しています。昨年、「長門湯本温泉観光まちづくり」は日本で最も価値のある照明デザインの賞「一般社団法人照明学会 2022年照明デザイン賞優秀賞」を受賞しています。

4.温泉地初、美的価値と省エネ両立の照明計画

長門湯本温泉ではエリア全域(約18ヘクタール)にわたる照明を自動プログラムで制御し、美的価値と省エネルギーの両立「SMART VILLAGE(スマートビレッジ)」を目指しています。これは日本の温泉地で初めての取り組み。時間帯によって明るさが変化することで、省エネとともに魅力の演出が可能とのこと。例えば「もみじの階段」(写真)はきれいに派手に光っている時間から、深夜に向けてほのかに淡く光っている時間へ変化。また蛍の時期に、蛍が放つ自然の灯りに寄り添って照明を「ライトダウン」できるのも全域制御のおかげです。

冬の長門湯本温泉を輝かせる夜間照明イベント「音信川うたあかり2023」へ、おでかけください。美祢(みね)線を走る特別列車「JRうたあかり号」の運行をはじめ、期間中約1か月間はイベントが盛りだくさん。温泉街商店での金子みすゞ特設コーナー、うたあかりコンシェルジュガイドツアー、金子みすゞ記念館学芸員出張講座、金子みすゞ記念館長・矢崎節夫さん講演など、詳細は特設ページ

~今月の立ち寄り~

心を耕す詩の世界「金子みすゞ記念館」

長門市仙崎出身の童謡詩人、金子みすゞさんの記念館。生誕100年の2003年に、20歳まで過ごした実家「金子文英堂」が復元され、記念館が建てられました。館内では遺稿集(レプリカ)や当時の雑誌、遺品などを展示。誰もが分かる言葉で、命の大切さや思い合う気持ちなどを詩に詠んだ、金子みすゞさんの世界に触れられる場所です。9時〜17時(入館は〜16時30分)、JR仙崎駅から徒歩約5分。(金子みすゞ記念館

写真提供> 木下清隆、長門湯本温泉まち株式会社、山口県観光連盟、のかたあきこ

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