<第9回>観光地経営に必要な仕組みと財源とは?
1.民間主体のエリアマネジメント法人
長門湯本温泉に2020年3月、エリアマネジメント法人「長門湯本温泉まち株式会社」が誕生しました。「オソト天国」として再生した水辺の温泉街を活用して、地域や人材の魅力を引き出し、「稼げる温泉まちづくり」を目指す組織です。ビジョン策定から温泉街の整備を経て、継続的な観光地経営へ、再生計画が新たなフェーズに移行した瞬間です。エリアマネージャーにはプロジェクトの古株である木村隼斗さんが就任しました。(写真は調印式)。
「情報発信はじめ、デスティネーションマネージメント機能、いわゆるDMO(観光地域づくり法人)の役割もある」と木村さん。エリアマネジメント構想は「長門湯本温泉観光まちづくり計画」策定時(2016年8月)からあり、プロジェクトリーダーの泉英明さんは「エリアの価値向上に持続的に取り組める、地域目線の民間主体が必要と考えた」と話します。発足まで何度も議論が重ねられました。
2.入湯税の嵩上げ分で地域に再投資
エリアマネジメントの原資は、入湯税の嵩上げ分(超過課税)。長門湯本温泉では、2020年4月より入湯税150円が300円にアップ(対象は大字深川湯本地内の長門市景観条例第7条1項に基づき、景観形成重点地区に指定された区域の鉱泉浴場)。入湯税引き上げなどの条例改正が長門市議会で2019年12月、可決されました。増額分を新設の基金(長門湯本温泉みらい振興基金)に積み立て、公益性の高い事業や景観づくりなどに投資する仕組みがスタートしています。
温泉の利用者から徴収する入湯税(地方税)は「1人1日150円」が標準とされ、全国の9割以上が150円、残りは20円〜500円です。入湯税の多くが鉱泉源の保護・管理施設の整備に使われ、新たな観光事業への費用捻出は難しく、超過課税を採用する自治体が、北海道釧路市や大分県別府市ほか増えています。温泉地への旅行者はレジャー目的が多く、税を負担できる力があると考えられ、そのことで観光を起点にした地域活性化の好循環が生み出せると期待されます。
3.合意から反対要望書の撤回まで
入湯税増額については、公民がプロセスを踏みながら調査や議論、検討を慎重に重ねました。例えば、過去の入湯税について金額や使途の調査、湯本温泉旅館協同組合や市内他エリアの旅館、先行自治体へのヒアリング。県との協議や長門湯本温泉観光まちづくり推進会議での説明など。これらを経て2019年7月に要望書が、旅館組合から長門市と市議会議長宛てに提出されています。(写真はプロジェクトを支えた長門市役所経済観光部成長戦略推進課〈当時〉のみなさん、左から田村富昭理事、中原美可子さん、山根章徳さん、松岡裕史さん)。
プロセスを踏むも2019年11月、入湯税反対の要望書が温泉街全11軒の旅館中5軒から出ています。理由は「150円増は高すぎる、段階的な引き上げを」「よその地域と料金勝負で負ける」「増税分が長門湯本のために使われるか心配」ほか。関係者は話し合いを繰り返し、その必要性を理解しあい、要望書撤回へ。入湯税の使途に関しては今後、公開の評価委員会で透明性を確保する仕組みをつくることなどを含めて合意形成を得て、条例改正となっています。
4.基金の設置と外部評価委員会の役割
長門市のホームページでは入湯税の使途について、こう説明があります。「長門市では、鉱泉源の保護や観光情報の発信、クルーズ船の誘致など、主に観光振興事業に入湯税を活用しています。長門湯本温泉の税額改定部分は、『長門市長門湯本温泉みらい振興基金』に積み立て、長門湯本温泉のまちなみ景観整備やイベント実施など、温泉街の魅力づくりに活用していきます。(2019年12月)」
入湯税の使途について、旅行者等に対する透明性が確保されるよう、引き上げ分を積み立てる「長門湯本温泉みらい振興基金」を2019年12月に設置。エリアマネジメント法人が担う事業および市による景観インフラの維持管理の計画と実績については、外部評価委員会である「長門湯本温泉みらい振興評価委員会」による検証や評価を行いながら、一歩ずつ地道に新しい観光地経営が進められています。(本テーマ次回に続きます)
~今月の立ち寄り~
「瓦そば 柳屋」で写真映えする郷土料理を
界 長門の川向かい、「だいご長屋」1階にある山口県の郷土料理「瓦そば」の専門店。熱々の瓦の上に盛り付けられた風味豊かな茶そば、錦糸卵、牛肉、刻みネギなどを、甘口の特製つゆで味わいます。写真は「瓦そばとしらす飯セット」。
瓦そばは箱詰めのテイクアウトも用意。焼きたてのみたらし団子は、そぞろ歩きのお供にぜひ。テーブル席のほかテラス席があり、美祢線が走るのどかな風景も楽しみです。
11時〜LO18時30分、火曜・第3水曜休、☎080・9185・3070
写真提供> 木下清隆、のかたあきこ
「長門湯本温泉と界 長門あゆみ」これまでの連載記事はこちらからどうぞ。