星野リゾート ここだけ話
#03 奥入瀬渓流ホテル
奥入瀬渓流ホテルが情熱をかけた、前代未聞のプロジェクト「おいらせコケバス」誕生裏話
奥入瀬渓流ホテルが情熱をかけた、
前代未聞のプロジェクト
「おいらせコケバス」誕生裏話
前代未聞のプロジェクト
「おいらせコケバス」誕生裏話
「十和田八幡平(とわだはちまんたい)国立公園」内を流れる奥入瀬渓流は、日本で約1800種類あるコケのうち約300種類以上が生息するコケの聖地。そんな奥入瀬渓流沿いに立つ「星野リゾート 奥入瀬渓流ホテル」では、コケを観光資源と捉え、2013年から「苔さんぽ」をはじめとする様々なコンテンツを提供してきました。
そして2024年8月、外から見ても中から見てもコケづくしのユニークなシャトルバス「おいらせコケバス」が誕生。前代未聞のプロジェクトはいかにして生まれたのか、その知られざる制作裏話をご紹介します。
■より多くの人に届ける挑戦
奥入瀬渓流ホテルでは2013年より、コケを通して自然の魅力を感じてほしいという思いで、ネイチャーツアー「苔さんぽ」や、本物のコケを設えた「苔スイートルーム」など、様々なコンテンツを提供してきました。その活動は注目を浴び、世間に広く認知されるようになりました。
1枚目:奥入瀬渓流、2枚目:苔さんぽ、3枚目:苔スイートルーム
しかしその一方で、コケに関わるコンテンツには、体験できる人数が限られるという課題を抱えていました。ほとんどのコケは、大きさわずか数センチほど。コケの魅力を伝えようにも、一度に伝えられる人数やツアーの催行回数には限界がありました。1日最大約400名の宿泊者のうち、参加できるのは数名程度。コケが宿泊のきっかけになっているのに、ほとんどのお客様はコケを楽しめないというのが現状でした。
この課題を何とかしたいと人一倍頭を抱えていたのが、奥入瀬渓流の自然を案内するネイチャーガイドスタッフ「渓流コンシェルジュ」として活躍する小林 信輔(こばやし のぶすけ)でした。
2015年から9年間、奥入瀬渓流のガイドを行ってきた小林 信輔
奥入瀬渓流は多様な植物と動物、環境が作用しあって、美しい景観を作っています。自然のひとつひとつの組み合わせは、ゆっくりと立ち止まり、観察して初めて気づくもの。自然をこよなく愛する小林には、それらの魅力をもっと丁寧にしっかりとお客様に伝えたいという強い思いがありました。
しかし、ガイドをするには専門性の高い知識が必要とされるため、人材のリソースに限りがあります。丁寧にガイドすることを考えれば、参加人数も限られます。また、ツアーという形にすることでお客様の参加へのハードルが高くなるかもしれない。あらゆる課題を解決するには「何となくコケに興味があるお客様が、もっと気軽に楽しめるコンテンツ」が必要でした。
そこで着目したのが、1日あたり150名以上が利用する宿泊者限定の「シャトルバス」でした。
■前代未聞のプロジェクトに挑戦
奥入瀬渓流を一気に歩くと、片道約5時間の時間がかかります。そこで奥入瀬渓流ホテルでは、お客様の渓流散策をサポートするべく、ホテルと奥入瀬渓流の中流エリアを往復する無料のシャトルバスを運行しています。
当然、利用するのは奥入瀬渓流のコケをはじめとする自然に関心を持つお客様。1日150名以上が利用するこのシャトルバス自体にコケを楽しめる仕組みを盛り込めば、多くのお客様にその魅力をしっかり丁寧に届けられるのではないか、と考えました。
バスで移動しながら自然とコケの魅力に触れることができるので、ツアーよりも気軽に参加してもらえます。さらに、スタッフの専門的な知識も不要です。バスを降りた先には300種類以上もの本物のコケの世界が待っている。きっと奥入瀬渓流の自然を深く楽しむきっかけになってくれるに違いない。
こうして、コケ×バスという前代未聞のプロジェクトが始まりました。
■心躍るコケ柄ラッピング
当初は車体に、コケが胞子を飛ばす際に発生する「胞子体」という器官を約1mの巨大なオブジェにして取り付ける予定でした。しかし、道路交通法により車体に付属物をつけることは安全上どうしても難しいため断念。
様々なアイディアを出し合った結果、外装には拡大したコケをデザインすることに。本物のコケの写真を10倍に拡大プリントして貼りつけ、森に溶け込むようなユニークなデザインが生まれました。本来コケは非常に小さく、しゃがんだりルーペを使ったりしなければ繊細な表情を見ることはできませんが、バスに乗る前からその可愛らしさを肉眼で楽しむことができます。バスを見つけた瞬間から、心踊る仕様です。
■こだわりぬいたコケのデザイン
次に車内には、本物のコケを導入することを検討しました。しかしながら、1日に大人数が乗り降りする車内ではコケが劣化してしまう可能性が非常に高いため、断念せざるを得ませんでした。
小林は、本物のコケを使用せずとも、そのデザインの本質を伝える手段を模索しました。そしてたどり着いたのが、奥入瀬渓流に生息する様々なコケを立体的なデザインやオブジェでリアルに表現することでした。本物のコケを使用できないという制約の中で、小林はルーペを通してこそ気づくコケの細かな美しさを表現することにこだわり、協力業者との打ち合わせを重ねました。
1~2枚目:タマゴケのオブジェ、3枚目:本物のタマゴケの胞子体
中でも特にこだわったのが、コケの胞子体。コケの種類によって様々なデザインをもつ胞子体は、成熟度合いによってその形も変化します。そこで、コケの中でも特に胞子体のデザインが特徴的で奥入瀬渓流を代表するコケでもある「タマゴケ」の、未成熟の状態としっかりと成熟した状態の2種類のオブジェを作成し、車内の壁に設えました。
「立ち止まらなければ気づかない、自然の美しさ、繊細さに気づいてほしい」。そんな小林の熱い思いが、タマゴケのオブジェに込められています。
こうして、外から見ても、中から見てもコケづくしの、他に類を見ないユニークなシャトルバス「おいらせコケバス」が完成しました。
■「苔の日」にあわせたお披露目
2024年8月10日。「苔の日」にあわせ、地元の中学生とその家族を招待し、奥入瀬渓流ホテルが取り組んできた苔にまつわるコンテンツ体験を通して、地域の自然への理解を深めるイベントを実施しました。そこで、「おいらせコケバス」もお披露目することにしました。
バスを初めて目にした中学生たちは、口々に「すごい!」「かわい〜!」と声を上げ、家族や友人とともに写真を撮影し始めました。
コケの装飾を楽しむ純粋な姿に、小林は嬉しさをかみしめていました。
■多くの人にコケの魅力を
無事に初運行を終え、本格的にデビューを果たした「おいらせコケバス」。走行開始から一カ月で、すでに約2,000人ものお客様に乗車いただき、コケの世界を楽しんでいただいています。
一人でも多くのお客様に、コケの魅力をお届けしたい。 「おいらせコケバス」だけでなく、これからもさまざまなコンテンツを通し、奥入瀬渓流ホテルはその思いを叶えていきます。
奥入瀬渓流ホテル
奥入瀬渓流沿いに建つ唯一のリゾートホテル。渓流が目の前に広がる露天風呂や岡本太郎作の巨大暖炉が印象的なロビーが癒しの空間を醸し出します。「渓流スローライフ」をコンセプトに心から満たされる滞在を演出します。