文・渡部里美さん(CLassism編集長)

地域とともに歩む―明日香村と星野リゾートの人材交流【前編】

明日香村役場の花谷 美咲さん(写真左)と星野リゾート社員の佐藤 友佳さん(写真右)が人材交流という形で、花谷さんが星野リゾートで、佐藤さんが明日香村で働くという、初めての取り組みをしました。どういうことをされ、今に経験が生きているのかを、お話しいただきました。

2016年協定締結、2年後人材交流が始まる

明日香村は明日香法で守られて開発が難しい中、星野リゾートと協力してやっていこうと始まったのが、第1回目の星野リゾートと明日香村との協定です。

渡部――今年ユネスコ世界文化遺産への登録が確定しました。そして、「星のや飛鳥」は来年オープンします。皆さんの期待値も高いと思います。今後明日香村はどう変わるかですね。まずは協定の一環である人材交流の話を聞かせてください。

花谷――私、最初の赴任地が沖縄の竹富島でした。人口300人ほどと聞いて、明日香村より少ない!と。(笑)いざ入ってみると、「星野リゾート」と島民の関係性がめちゃめちゃ美しい。共存共栄していて。島民にとっては当たり前だったことを発掘して、磨き上げて魅力として伝え、それで施設を運営して。お客さんは「星のやに泊まれてよかった。楽しかった」と言っている。島民は、「文化も守ってもらえて、本当に感謝しています」と言う。こういう施設が村にできたら住民がもっと明日香村を大事にしようと思えるだろうなと感じました。

佐藤――私は、ちょうど「道の駅飛鳥」ができる時で、観光の業務を担当しました。例えば石舞台古墳の記事を載せたいという時に内容の確認をしたり、宿泊人数の統計をとったりと、まさに星野リゾートでは経験できないことを知ることができました。

花谷――私は年齢が若いうちに他業種に行ってよかったと思います。まっさらな状態のほうがいろんなことを吸収してどっちの方向にも行けるのかなと思うので。行った時から考えたらもう8年。私たち、帰ってきてから結婚して今では、子どもがいます。 佐藤――そう、お互いにね。私も結婚して、今二人目がお腹にいますが、本当に人生が変わった。

花谷――私の場合は、明日香村で生まれ育って、大学を卒業してから1年間だけ一般企業に就職しました。サービス業って楽しいなとは感じていました。ある日、実家に帰ったら広報紙が置いてあって、そこに「役場の採用試験のご案内」があった。ご縁があって採用していただいて、観光を担当していた1年目に、星野リゾートとの人材交流の話が上がって。観光という面で体験したいと思ったのがきっかけです。

佐藤――周りからは花谷さんは適任に見えました。

渡部――佐藤さんは関東出身ですね。明日香村に興味はありましたか?

佐藤――実はあまり知らなくて、飛鳥時代の首都だったみたいな。大学の時に国際文化学部で、異文化交流とか、地域をどう盛り上げるか、地域活性化の勉強もあわせてしていて、星野リゾートに入った理由も、宿泊施設として地域の魅力を発掘して伝えることがポイントで。地元の人もそうだし、日本人もそうだし、海外の人にもいろんな伝え方で地域の魅力を伝えられるということが面白そうだなという思いで入ったんです。星野リゾートは、1軒建てる時もコンセプトを考えて地域性を考えてつくる。ここしかないと思って。

住んでこそ分かる地域の魅力

佐藤――いろんな業務に携われるというのもいいなと思って、明日香村も、こんな面白い仕事あるんだなと思いました。

花谷――どんなところに面白みを感じましたか?

佐藤――行政の立場で働けるって、またとない機会じゃないですか。明日香村はかつて首都だった場所だからこその「かけら」というか、昔すごい人が住んでいたというのがどこかしこから伝わってくる。それは明日香村でしかない魅力だと思うのです。地域を盛り上げるには、その場所に実際に住んでみないとその地域のよさはわからない。

花谷――佐藤さんって冒険者ですね。

星野リゾートも明日香村も世界を見据えている

渡部――森川村長に聞いたらユネスコの世界文化遺産にエントリーした時点で世界への発信を考えていたらしいです。

花谷――こんな小さな村で世界と言ったら笑われるかなと。日本国内でも明日香村のことをご存じない方もいらっしゃるでしょうし。でも、私は今、行政職員として働いていて、世界に目を向けていかないとだめだなと感じています。住民からしたら、「いやいや、明日香村なんて何もない」と思っているかもしれませんが、「知れば知るほどおもしろい」。そういうおもしろさが明日香村にはたくさんあります。そこをしっかりプロモーションしたいです。

奈良はこころで見るところ

渡部――明日香村には不思議がいっぱいありますね。

花谷――明日香村って、発掘や解明されているのは数%なのです。90%以上はまだ地下。私が歩いているこの場所も数十年後数百年後に「実はここはね」というストーリーが出てくるような場所と思うと、わくわくします。

佐藤――歴史の教科書で習ったものが覆されるようなことが起こる可能性がここにはある。奈良のキャッチフレーズが間違いなくそうだなと。「奈良はこころで見るところ」。明日香村のことを言っていると私は思うのです。奈良はゆっくり、時間に追われずに、思うままに心の想像力を働かせて回るのが本当にいい場所だと。来るたびに発見があるし、その奥深さは奈良だからこそ。特に明日香村は奈良時代よりも古い歴史があったわけで、それがロマンだし、私も初めて歴史っておもしろいなと思った。いかに今の自分とつながっているかというのが明日香村に来て体感できたのです。

飛鳥では1日をゆっくり贅沢に使ってほしい

渡部――明日香にはどんな人に来てほしいですか?

花谷――景観を守るために、こんな活動をしているというところをリスペクトしてくれる方がたくさん来てくれる地域になればいいな、と思います。 明日香村ではゆっくりと五感で感じてほしい。車で移動すると、もったいない。歩いたり、電動自転車で回ることで、風を感じる。季節の音も感じられる。都会だったら機械的な音とかお店の音が多いですから。

花谷――私、明日香村に帰ってきた時に、懐かしい感じがするのはなぜかなと思って。秋、駅を下りたら、鳥が鳴いたり虫が鳴いたり、キンモクセイの香りとか。あ、もうこんな季節かと思い、夕方にはヒグラシが鳴いて、これだなと思いました。心の洗濯じゃないですけど、ふだんの忙しい日常を忘れる。それが「星のや」のコンセプトにも近いところがあるのかなと思うんです。