文・渡部里美さん(CLassism編集長)

地域とともに歩む―明日香村と星野リゾートの人材交流【後編】

前回に続き、明日香村役場の花谷 美咲さん(写真左)と星野リゾート社員の佐藤 友佳さん(写真右)が人材交流という形で、花谷さんが星野リゾートで、佐藤さんが明日香村で働くという取り組みから得たことをお聞きします。お二人が、どのようなことを感じ、それがどう生かしてきたかを伝えていただきました。

奈良県に宿泊してほしい

花谷――奈良県内にもホテルはだいぶ増えました。一時期、奈良県が47都道府県で最下位か2番目ぐらいの宿泊施設の少なさだった。2025年時点では、43位。宿泊が増えると観光消費額も上がっていくけど、京都に比べると桁が違う。

佐藤――奈良市だけじゃなくて、飛鳥とか吉野とかに南下してもらわないといけないですね。だからこそ中南部地域にホテルができるって、大きな意義があります。

花谷――明日香村は明日香法で全村が規制されているので、2階建て以上はつくれません。

佐藤――そう思うと、よくぞ星野リゾートに声をかけてくださいました。

星野リゾートのお客さんって、いい人ばっかり

花谷――星野リゾートに勤務して感激したのは「ここに来るお客さんって、気持ちのいい人ばっかり」だということです。スタッフもお客様とのコミュニケーションをすごく大切にされている。しかもマルチタスクで、アイコンタクトもできる。お客様に寄り添いながらサービスができて、それが苦にならなかったところにもつながっているのかな。

佐藤――花谷さんの持っている素質とやりたいことと、星野リゾートの方向性とフィットした。「旅館メソッド」と私たちは言っているのですけど、お客様の言われたことをやるのではなく茶道の世界と一緒で、お客様が何を求めているか、こちらから提供できることは何かを考える。もしかしたらお客様に言われたとおりにやるのが正解じゃないかもしれない。

花谷――「お客様が、家族とか友達、身内だとしたら、どうしてあげたらいいと思いますか」と言われたのがすごく印象的で。お客様はみんな友達とか家族と思うという考え方は、帰ってから明日香村の観光にも役立つ。どうしたらもっと限られた時間を楽しんでもらえるか、どうしたらもっと便利になるかなと。そこは気づかせてもらった。

人材交流は、繋がりの深みを増します

渡部――こういう交流は今後もあったほうがいいと思いますか?

花谷――交流はあったほうがいいと思います。地域、役所、星野リゾートそれぞれが絡まりあう経験になる。巻き込まれたいと思っている住民もいるでしょうし。地域一体となってというのが大事と思うので。でも、人材交流中は、自分自身の立ち位置に悩むこともあったので、折りにふれ役場に戻ってきたほうがよいかとは思います。星野リゾートでは「役場の人」と言われるし、役場では「星野リゾートへ行っている人」と言われる。自分は何者なのかと感じたこともありました。

花谷――大変なところも多いけど乗り越えていくことで、今後に生きてくると私は信じています。10年20年ずっと「星のや」がこの地域にあり続ければ、「星のや」が来てくれてよかったねと地域の人が思うし、星野リゾートは「星のや」を明日香村につくってよかったなと思ってもらえる。そんな関係をつくっていく役割を果たせるといいなと。

佐藤――今回のような人材交流で、星野リゾート側から見える役割は、まさしく今進めている開業準備から開業、開業後にかけてだと思うのです。この繋がりがお客様に還元できるのはここからのフレームなので、その中で人材交流していたからスムーズだったよねとか、より深い魅力が見えたよねとか、成果が見えてくるものはあると思って。

一番の収穫は、官民両方の視点を得られたこと

渡部――星野リゾートはまだまだ施設をつくるでしょう。チャンスはいくらでもありますね。

佐藤――可能性としてはそうですよね。私たち次第ですね。責任重大です。私にとって一番の収穫は、官民両方の視点を得られたことだと思っています。出向中は役場の職員として働けて、村の方々や事業者の方々など、多くの方とフラットにお話しできたのは、「星野リゾート社員の私」では経験できなかったのではないかと感じます。

佐藤――私は学生のころから地域活性化に興味をもっていたのですが、「誰が笑顔になるのか?」と問い続けることを今でも大事にしています。役場で働いていると、様々な立場から多くの意見に触れることができて、この「誰が」の部分をより鮮明に想像できるようになったと感じます。そして、行政の立場では、一部の観光資源にフォーカスして情報発信するのが難しい中で、民間企業として、そして宿泊施設の立場だからこそ、地域でできることがあるなと実感しました。