文・渡部里美さん(CLasism編集長)

「京都に次ぐ歴史拠点」へ――星野佳路代表が語る、滞在型観光と地域活性化

明日香村プロジェクトについて

渡部――代表はいつごろから明日香村への計画を意識なさったのですか?

星野――既に10年は経つと思います。森川村長と初めてお会いしたときから星野リゾートと明日香村で協力して観光の質を変えて強くしていこうという話をしていました。もともと明日香村には貴重な歴史資源があり、世界文化遺産にも登録されました。ところが、まだまだ日帰りの観光客が多いエリアで地域経済への貢献が限定的であることが課題で。そこから滞在型観光への転換を目指していこうというのが命題でした。

星野――例えば、アメリカ合衆国には合衆国発祥に関わる町ウィリアムズバーグ*という町があり、歴史観光都市として非常に有名な観光資源になっています。そこに比べれば明日香村の価値は未だ伝わっておらず過小評価されています。星野リゾートが明日香村に関わることで、オーバーツーリズムを避けつつ、地域経済にプラスとなる質の高い観光地形成が可能であると私は思っています。

*ウィリアムズバーグは、バージニア州ハンプトン・ローズ大都市圏の構成都市。市内には旧英領バージニア植民地地域を再現したコロニアル・ウィリアムズバーグがある。イギリス植民地時代の1699年から1780年までバージニア植民地の首都として機能し、ウィリアムズバーグ議事堂が置かれた。後にアメリカ独立戦争に繋がることになるバージニア植民地の政局の中心であった。

今後の課題は滞在期間と二次交通

渡部――明日香村に建設予定の「星のや飛鳥」について、具体的になっているところについて教えてください。

星野――「星のや飛鳥」は地域の自然や棚田の風景、瓦屋根や低層住宅など明日香法*に基づく村の原風景と調和するデザインを重視しています。もちろん、飛鳥時代当時の建物を無理に模倣することは避けましたが、歴史的な風情を感じさせる建築を目指しています。

渡部――周辺にはいくつかの観光スポットがありますが、そこへのアクセスなどはサービスとして考えているのですか?

星野――飛鳥宮跡や飛鳥寺跡、石舞台古墳、高松塚古墳、キトラ古墳など、世界遺産「飛鳥・藤原の宮都」の構成資産の多くは明日香村にあります。村内のスポットを巡るには、時間が必要です。ゆっくり見てもらいたいので宿泊が不可欠だと思います。できれば2〜3泊滞在していただき、歴史資産の魅力を存分に知って欲しい。

星野――初めて古墳群を観光するための施設を見たとき、日本が相当力を入れてつくりあげたものだと感じました。星野リゾートとしては、その素晴らしさを感じてもらいながら滞在することをサポートする役割を担いたいと思っています。交通手段についてはホテルが全て提供するのではなく、地元経済のビジネスチャンスとして様々なアクセス手段が発展することが望ましいと思います。

*明日香法:正式名称は「明日香村における歴史的風土の保存及び生活環境の整備等に関する特別措置法」。村全域に厳しい建築・開発規制が課せられており、景観を守りながらの地域づくりが求められます。

「星のや飛鳥」の施設の規模、そして宿泊していただきたいお客様の層は?

渡部――そこでお聞きしたいのは、施設の概要とターゲットです。

星野――新しい施設は35室で構成され、滞在型のリゾート施設としてつくりこんでいます。リゾートのテーマはマインドフルネスと設定しており、明日香村の観光目的ではない方々にも十分に楽しんでいただけるように設計しています。国内顧客とインバウンド顧客の比率は半々になるように、日本人顧客を重視しています。サービス品質の維持や日本料理の基準を管理するためにも、評価が厳しく、文化的にも意識の高い国内のお客様は不可欠ですね。

渡部――奈良は特に夜の食事や飲みどころなどが少ないので有名で、ほとんどのお客様が泊まらず京都や大阪に帰る。

星野――それを解消するためにも、明日香村における夜の食事環境の整備は重要です。軽井沢が別荘地として発展した歴史を思い起こすと、最初は課題でしたが、宿泊客が増えることで飲食サービスが発展していきました。別荘客が年間通じた滞在になっていくと、質の高いシェフを呼び込むことができ、人気レストランが増えていった例があります。

星野――京都や大阪に近いという明日香村の地理的利点を活かし、すでにそれらの都市を訪れている観光客に対しては、プラス1泊2泊を提案する戦略も有効です。

西暦592年から始まった飛鳥時代は、日本初の本格的な都が誕生した時代です。ここに残された貴重な歴史的資源を守りながら、地域経済にプラスになる持続可能な観光を育てていくことに貢献していきたいと考えています。