<第11回>オソト天国にある「まちの中庭」が常に美しい訳

1.「みんなで使い、みんなで手入れをする」

長門湯本では、温泉街の中心にある河川や道路は「まちの中庭」と捉え、「みんなで使い、みんなで手入れをする」という考えのもとで活用しています。この考えを実行するのが「長門湯本オソト活用協議会」です。公共空間の美観維持と活用を目的に2018年発足。地元事業会員と正会員約25名とサポーターが在籍します。

定例活動は月1回の会議、植栽管理、清掃作業をはじめ、ベンチ・プランターの整備、川床設置業者による警報発令時等緊急時対応があり、その数は年50以上。「長門湯本はいつ訪れてもきれい」との声をよく聞きますが、それはこうした活動によるもの。「公共空間の恩恵を受ける者、清掃は当たり前」と話す地元事業者は多く、また参加を促す地道な取り組みも功を奏しているのでしょう。

2.公民連携で景観インフラを点検する!

2022年9月には公民合同による景観インフラの年次点検が行われました。長門市からは、江原市長をはじめ観光政策課、都市建設課など複数の部署から担当者が参加。温泉街からは、長門湯本オソト活用協議会の白石会長、長門湯本温泉景観協定運営委員会の赤川会長、湯本まちづくり協議会の荒川会長(当時)、長門湯本温泉まち株式会社の木村エリアマネージャーが参加しました。

合同点検では新しく整備された「竹林の階段」や「紅葉の階段」、飛び石、ベンチ、夜間照明などの施設だけでなく、長年親しまれている音信川沿いの遊歩道や足湯などもしっかり点検。作業は5時間におよび、緑化、脱色アスファルトの修繕、鹿による食害対策を含め、様々な課題を公民で共有しながら、専門委員会の年次修繕計画策定につなげました。

3.道路協力団体としての「長門湯本オソト活用協議会」

長門湯本オソト活用協議会は2020年、「道路協力団体」に認定されています。国土交通省のHPに道路協力団体の説明がこうあります。「道路管理者と連携して業務を行う団体として法律上位置づけられた団体。活動のために必要な道路占用等がより柔軟に行えるようになるため、オープンカフェや物販施設等の占用を通じた道路における収益活動が行いやすくなります」。認定後、関係者は活動から得られた収益を用いて、温泉街の美観維持と向上に励んでいます。

「日本一そぞろ歩きが楽しい温泉街」を目指して、長門湯本温泉では公共空間を最大限に活用する「オソト天国」をテーマにする温泉街リノベーションが行われました。そのため「まちの中庭」としてある河川や道路の利活用は最も重要で、計画の初期から入念に考えられ、段階を経て実現に向かう取り組みが行われました。3度に及ぶ社会実験(「長門湯本温泉と界 長門のあゆみ」第5回参照)はそれを象徴するもので、長門湯本オソト活用協議会の発足もそうです。

4.地域で河川と道路を利活用する全国初の仕組み

谷あいの小さな温泉街ゆえ、そぞろ歩きには狭小な歩行空間ほか課題が山積みでした。温泉街を通過するだけの車の存在、慢性的な路上駐車・・。プロジェクトメンバーで交通再編のプロである片岸将広さんを中心に、社会実験やワークショップを行いながら、「ひと中心の道路交通環境への挑戦」は続きました。それらを経ての現在の道路活用です。川床などの河川活用は特区のプロセスを踏んでいます(「長門湯本温泉と界 長門のあゆみ」第8回参照)。道路と河川の利活用を地域で一体的に担う仕組みは全国初で、注目を集める理由のひとつです。

自然の恩恵を受けて成り立つ温泉地、そして川沿いの公共空間「オソト天国」。歩きたい温泉地への面的再生例として、全国からの視察が今なお絶えません。とはいえ想定外は次々起こり、公民みなさんの活動量は増すばかり。例えば先日の大雨被害ではJR美祢線の線路が流され、全線が長期の運休に。それでも長門湯本温泉では、地域・公民が一体となった清掃活動がすでに行われ、川沿いに穏やかな姿が戻っています。この夏の電車旅は代用バスをご活用ください。直行バスやレンタカーなどのご利用もぜひ。夏こそ本領発揮の長門湯本温泉へどうぞ!!

~今月の立ち寄り~

夏の風物詩「納涼盆踊り大会」

長門湯本温泉「納涼盆踊り大会」が2023年8月11日(18時〜21時)に開催されます(11日が雨の場合は12日に順延、問い合わせは、長門湯本温泉旅館協同組合☎0837-25-3611)。50年以上の歴史を持つ祭りで、川沿いには赤白の提灯がずらりと並び、橋にはやぐらが立ち、浴衣や法被姿の人で賑わいます。

当日は市内10以上の団体による盆踊り、灯篭流し、花火や出店などが楽しみです。夜の温泉街を優しく彩る灯篭は老人会による手作り。音信川を幻想的に流れゆく様を眺めつつ、のんびりと風雅な夏時間をお過ごしください。

写真提供> 長門湯本温泉まち株式会社、のかたあきこ

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