棚田を眺めながら穏やかな時間を過ごす「界 由布院」

こんにちは、漫画家&文筆家の「やすこーん」です。由布院は由布岳の麓に広がる人気の温泉地。その山側にある「界 由布院」は、街から少し離れた静けさの中に佇む宿です。今回はこちらにお世話になります。

やすこーん

漫画家&文筆家

駅弁、駅そば、お酒、温泉を楽しむ「鉄道ひとり旅」が好き。 温泉ソムリエマスターで食べた駅弁の数は2500個以上。テレビやラジオでも活躍中。 最新刊は「ひとりで楽しむ鉄道旅 駅弁めぐり篇」(玄光社) 「イラストで読む!鉄道知識と旅の基本 鉄道イロハ」 (イカロス出版)yascorn.com

設計・デザインは隈研吾氏が担当

急坂をタクシーで登っていくと、右手に迫力ある由布岳が見えてきました。由布岳は、見る角度によって、様々に表情が変わります。そんな景色に見とれつつ、10分ほどで到着したのは竹に囲まれた「界 由布院」。うぐいすが鳴く声だけが響き渡る、静かな時間が流れています。

なんと「界 由布院」の建築デザインは、建築家の隈研吾さんが設計しています。丸竹がずらっと並んだエントランスからして、隈研吾さんらしさが溢れていますね。 こちらの建物のコンセプトが、「上質な農家」。さらに農家の空間である「たたき」「板間」「座敷」を現しているとのこと。どういうことなのか、考えつつ入ってみます。

フロントへと続く空間は、まるで土間のよう。そう感じて聞いてみると、まさにここは「たたき」を表現しているとのことでした。「たたき」とは、農家の玄関などにある土間空間のこと。 そして土間に続くのが農家の台所。その位置にはフロントカウンター、そしてまさに台所らしく「かまど」のオブジェが設置されていました。蓋を開けてみると、お米がちゃんと入っています。遊び心が楽しいです。

その先は界でおなじみ、「トラベルライブラリー」。こちらの床は竹のフローリングが敷き詰められている「板間」です。照明は和紙で出来た軽やかなデザイン。 鳥みたい、と思ったら、こちらの照明も隈研吾さんオリジナルデザインで、蝶を表現したそう。ちょっと惜しかったです。

建物を抜けると目の前に広がるのが見事な「棚田テラス」。ここは隈研吾さん言うところの「座敷」です。眼下に見える棚田は夏なら緑が映え、さぞかしきれいなのだろうな、と想像します。 私が訪れた時期は冬ですが、冬も水が張られ、空が映り込んでいました。夕陽は山の向こうに沈みますが、わずかに陽が映り、それも美しかったです。

客室はすべてご当地部屋「蛍かごの間」

今回の私の部屋は、坂を下り、くぬぎ林に面した「蛍かごの間」(くぬぎ離れ)。全45室の客室は、すべてご当地部屋の「蛍かごの間」です。

入ってまず目を惹くのがこのピクチャーウィンドウ。白っぽい木肌の額縁に切り取られた空間が見事です。 日田杉を使用した床は、素足で歩くとよりその柔らかな素材感を楽しめました。

部屋にも木の温もりが感じられます。ベッド側に吊るされた螺旋形の照明は、「蛍かご照明」。「蛍かご」というのは、かごに蛍を飼い、簡易的な照明として使われるものだとか。風流ですね。それを模したこの照明は、蛍のように点滅します。

部屋には露天風呂が備わっていました。お湯は24時間流しっぱなしの贅沢な温泉です。泉質は弱アルカリ性の単純温泉。メタケイ酸を多く含むやわらかいお湯で、長く浸かっていられます。 この日の外気は冷たかったのですが、温泉に入っていると、芯から温められて寒さを感じなくなりました。

野山の恵みを堪能する会席料理

食事は半個室の食事処で「山のももんじ鍋会席」をいただきました。「ももんじ」とは、獣肉のことだそう。今回は、猪肉などが出てくるようです。ジビエも大好きなので、楽しみです。

最初に頼んだお酒は、「よなよなエール」の生ビール。こちらの製造元は、星野リゾート代表の星野さんが設立したことで有名ですね。いつも缶で飲んでいますが、生ビールをいただくのは初めて。サクサクとした食感の先付け「猪と椎茸の最中パテ」にも合いました。

煮物椀の南京のすり流しが出てから、いつも楽しみにしている宝楽盛りが登場。 高さの違う竹のような台に、まぐろ、真鯛、鰆、太刀魚の小皿が並び、目を惹きます。旬の魚はどれもおいしい。一口サイズの八寸では、フォアグラと干し柿という意外な組み合わせが気に入りました。

そして揚げ物から、いよいよメインの「山のももんじ鍋」へ。こちらは鹿の出汁を使い、生姜ひと欠片と黒胡椒を入れたお鍋。そこに猪肉、豚肉、鶏肉をくぐらせ、かぼすポン酢やかぼす塩を付けていただきます。 どんな味なのか想像つかず、おそるおそる食べてみたところ……これはおいしい! 出汁もお肉も全く臭みがなく、猪肉はやわらか。今まで食べた猪肉のイメージが払拭されました。

ここで、大分で有名な「かぼす酒」をロックで注文。思ったとおり、お鍋と非常によく合います。こういうペアリングに成功する度に、地のものは、その土地のお酒と合わせるのが一番、としみじみ感じます。

最後は鍋に蕎麦を入れて締めます。お蕎麦は3分茹でるため、砂時計が手渡されました。砂時計を使うなんてひさしぶり。お蕎麦で締めるというのも、私が今まで訪れた「界」では初めてだったので、新鮮です。大満足な夕食でした。

棚田の冬灯りを眺めながら「やつがいセット」をいただく

暗くなった外に出てみると、100本の中津和傘が棚田を照らし、見事な景色を作り出しています。それを眺めながら「棚田冬灯りやつがい」を体験しました。

「やつがい」というのは、大分県の方言で、晩酌を意味します。 用意されたのは、大分の日本酒「くにさき」や麦焼酎「とっぱい」、おつまみはお米にちなんだ「せんべいディップ」。クリームチーズや生ハム、あんバターにいちごなどをせんべいに乗せ、いただきます。晩酌にちょうどよい一品でした。

温泉で目覚め「わら綯い」を体験する

翌朝は、起きてまず大浴場へ。内風呂は熱湯とぬる湯があり、露天風呂は目の前が棚田のような造りで開放的。その先に由布岳がちょこっと頭を出しているのが見えました。 清々しい空気の中、体が目覚めていくのが気持ちよいです。湯船の横には桜の木もありました。

翌朝の朝食は、洋食と和食が選べました。これも私が宿泊した「界」では初めてです。いつも和食をいただいているので、今回は洋食を選びました。 ベイクドエッグは、中にいろいろな具材が入り、風味豊か。カポナータやおでんポトフがとてもおいしく、パン3種もぺろりと食べてしまいました。

食後はご当地楽「原風景を感じる、わら綯い体験」へ。「わら綯い」は由布院の農閑期に行われる手仕事だそう。これでお守りを作ります。わらを手でより合わせて作っていくことから、お祈りのような形となり、それに水引などの飾りを付けて仕上げます。うまくできた! と思いましたが、見本と比べるとまだまだでした。

チェックアウト後、由布院駅までは、送迎バスを使いました。来る時はタクシーでしたが、タイミングが合えば、「界 由布院」と由布院駅間を走る送迎バスを利用するのが便利です。 今度は左手に由布岳を眺めながら、山に向かって「また来るね」とつぶやき、宿を後にしました。

ご紹介した温泉宿

界 由布院

棚田暦で憩う宿

由布岳に見守られるように建つ宿は、日本の原風景とも称される棚田をランドスケープとして望みます。稲作の暦を追う風景は四季を映し、心身が緩む滞在となります。由布岳を望む大浴場など、開放的な空間で寛ぐひとときをお過ごしください。