インテリアとしてアートが楽しめるご当地部屋
「一歩も外に出かけずに、ひたすらお風呂と部屋で弛緩したい」。話すことでストレスを発散するのは、女性が生まれ持ったDNAだと思います(私調べ)。お湯に浸かりながらしゃべり、部屋でもしゃべれる同性こそが温泉の旅友にふさわしいと考える私。今回はその中で最も気を使わない相手である娘を誘いました。
社会人2年目で、大人の階段を登り始めたのはいいものの、毎日の通勤に疲れ、人づきあいに疲れ、さらに営業のノルマに疲れ果て、見ていてなんだか余裕がないのです。帰宅してもご飯を食べて部屋に直行。朝もギリギリまで寝ており、毎日バタバタと慌ただしく不機嫌な顔で出かけていく姿を見ていると、母のテンションもダダ下がり。これは温泉にでも誘ってじっくり話を聞こうじゃないかと、この旅を思い立ちました。
箱根湯本駅から箱根登山鉄道に乗り換え、初のスイッチバックに早くも感動する娘。強羅駅からタクシーで向かうと、道の途中にあるのは別荘や温泉宿ばかり。途中に見えたポーラ美術館に「次は美術館巡りもしたいな」と呟きながら「界 仙石原」に到着。
入り口からは長いエスカレーターに乗って、ディズニーランドのアトラクションに向かうようなワクワク感。でもその先にあったのは、静けさ漂うロビー。中央の杉の原木は箱根の歴史や時間の積み重ねを表現したもの。その装飾を囲むようにレセプション、ショップ、後にご当地楽を楽しむ「アトリエライブラリー」がぐるりと並んでいます。
「界 仙石原」のコンセプトは「アート心が湧きたつアトリエ温泉旅館」。実は開業前、スロベニア、イタリア、ドイツ、中国など国内外のアーティスト12名が宿泊し、箱根の自然や文化を存分に体験し、そこから得たインスピレーションをもとに作品を制作したのだそう。
私が泊まった202号室にはサンフランシスコ生まれの日本人、田中紗樹さんが手がけたアクリル画が飾られていました。田中さんがこの客室で感じた“静(せい)”そして芦ノ湖の風や空の色から感じた思いを“動(どう)”として、この絵に表現されたそう。生命感と躍動感を感じるタッチと明るい色使いがシックな部屋に素晴らしいアクセント。眺めているだけで楽しい気分になりました。
部屋からの自然あふれる絶景を眺め、娘も「うわ、久しぶりの非日常!うれしいよ〜」と一言。この言葉が聞けただけでやっぱりきてよかった……。
ベッドとリビングスペースの間には小田原のガラス作家ipada(イパダ)の濱舘寛さんと村木未緒さんのガラスのランプシェードが置かれているのですが、日が落ちてくるとライトの灯りふわりに幻想的な雰囲気を演出します。
そして「界 仙石原」は全室のテラスに露天風呂がついています。大きな温泉の開放感もいいのですが、部屋にあると気負うことなく温泉にはいれるのが最高。しかも湯船からの絶景! 荷物を片付けていたら、早速娘が温泉に入り始めました。
なんと湯船の中に色鉛筆のスタンドが浮き、お湯に浸かりながらデッサンができるという驚きの演出。次に温泉に入ろうとしたところ、娘が早速外の景色を描いたデッサンが残っていてびっくり。その絵から彼女の心のゆとりが感じられ、絵を見て思わずほっこり。

