「素人には無理だ」と言われても、諦めなかった。

函館の朝食激戦区に、昆布で挑んだ話

「春は昆布を推していこう」 ある日、総支配人の中村がそう言い放ったとき、私たちスタッフは少し面食らいました。

函館といえばイカといった海鮮。

それは私たち自身も疑っていなかった「常識」でした。でも中村の話を聞くうちに、私たちも早い段階で「これは面白いかもしれない」と思い始めていました。 そして会議を重ねるたびに、チーム全員で可能性を形にすることに必死になっていった。

そんな、私たちが想像もしていなかった長い旅のお話です。

函館は、朝食激戦区

そもそも函館は、全国でも屈指の「朝食激戦区」として知られ、函館にある多くのホテルがいくら・海鮮の食べ放題や北海道食材を贅沢に使ったブッフェで、多くのお客様を魅了してきました。函館に泊まる目的のひとつが「朝食」というお客様も少なくないほど、ホテル朝食のレベルが非常に高い街なんです。

私たちOMO5函館も、もちろんそのことはわかっていました。

でも海鮮の豪華さや食材の量で勝負はしない。では、私たちにしかできない朝食とは何か -その問いに対する中村の答えのひとつが、「昆布」だったんです。

豪華さではなく、「この街の本質」に触れる朝食を作る。宿泊客が函館を離れるとき、いくらや海鮮だけでなく昆布という新しい視点を持ち帰ってもらえる体験にする。それがOMO5函館の独自路線でした。

道の駅で総支配人に「見えたもの」

昆布への熱が生まれたきっかけを、中村はよくこう話します。「しかべ間歇泉公園の道の駅に行ったとき、昆布だらけだったんだよ。試飲して、お土産を見て、帰ってきてから函館の街を改めて見てみたら無人販売所にも昆布があって。今まで見えていなかったものが急に見え始めた感じがした」って。

その道の駅では、昆布小屋の見学にも連れて行ってもらったそうです。長い昆布を吊るすために設計された2階建ての建物で、階段がなくエレベーターだけで移動するという独特の構造。「無理やり連れ回されたよ(笑)」と中村は笑っていましたが、帰ってきた中村の目は明らかに違っていました。「あの小屋を見て、生産者の方々がどれだけ昆布と共に生きてきたかが、ようやく腑に落ちた気がした」と言っていました。

私たち地元スタッフにとって、昆布は正直「あって当たり前」なものでした。市場に行けば普通に売っているし、家では出汁として毎日使っている。でも中村の話を聞いて、初めて気づいたんです。「当たり前すぎて、私たちは何も見ていなかったんだ」って。

函館の昆布は生産量・生産額ともに日本一。北海道全体の生産量は全国の約9割を占め、そのうちの約3割が函館産です。道南・噴火湾の沿岸では、漁師さんの家の前に昆布を干す小屋があって、昆布が生活そのものになっている。でも函館市街で暮らしていると、その産地の情景はなかなか想像できない。

中村の話を聞くうちに、私たちもあっという間に昆布の魅力に引き込まれ、昆布の可能性にかけたいと思うようになっていきました。

何度も社内の承認が必要なほど大変な局面もありましたが、諦めずに粘り強く考え続けることができたのは、チーム全員がその思いを共有していたからだと思います。

海外スタッフの一言が、企画を動かした

企画が動き始めたころ、台湾出身スタッフのヨンイーさん(陳詠宜)がこんなアイデアを出してくれました。「3種類の出汁を飲み比べできたら面白いんじゃないですか」って。

日本人スタッフの私たちにとって、出汁は「飲み慣れたもの」です。でもヨンイーさんの目には、それが特別な体験に映りました。 この視点に中村は「外からの目線があって初めて、地元の魅力って見えるんだよな」と言っていたのを覚えています。 ヨンイーさんのアイデアが、昆布の魅力にも目覚める「”目覚め”のこんぶッフェ」の始まりを作ったんだと思います。

「自分たちで削れるようになろう」—おぼろ昆布削りが生まれるまで

企画を進めるなかで、朝食のライブパフォーマンスとしてお客様の目の前でおぼろ昆布削りをするというアイデアが生まれました。

きっかけは、私たちスタッフのひとりでした。

彼は昆布漁師のお孫さんで、幼い頃から昆布削りが身近にあり、なんと道具までご実家にあったんです。

「必要な道具もあるしこれを使って、スタッフ自身が削れるようになろう!」そんな軽い気持ちでスタートしました。

ところが、そんなに簡単ではなかったんです。

まずは、身近なところから。ということで、ホテルの近くにある昆布専門店に電話。すると、忙しいから、と断られてしまいました。 でも、そう簡単にはあきらめるわけにはいかず、直接足を運びましたが、やっぱり断られました。(笑)

さらには、取引先さんに相談して別の2店舗を紹介してもらいましたが、やはりいい返事はもらえなかった。

「一人前になるには、5年はかかるよ」

素人がすぐに削れるような技術ではなかったんです。

電話しても、訪問しても「無理です」—職人探しの苦労

それならば、発想を変えよう。

「すでに技術を持っている職人さんに、パフォーマンスとして削っていただけないか」 そこから職人探しも始まりました。

函館市内で開催されていた昆布展に足を運び、そこで知り合った漁業組合の方から、なんとか、昆布削り専用の刃物を製造する会社を教えてもらったんです。一縷の望みをかけて連絡を取ると返事は「…難しい」

あのとき私たちのチームの中には、正直「もうここまでかな」という空気になっていた人もいると思います。断られ続けたんですから。 でも…あきらめませんでした。

おぼろ昆布はそもそも手削りでしか作ることができない、非常に希少な技術です。その職人の技を、朝食の場でお客様に直接見ていただく。私たちがあきらめなかったのは、その体験そのものが、函館の昆布文化を伝える最良の方法だと私たちは確信していたからです。

営業担当の目が変わった、あの瞬間

最後に、お声がけをしたのが「かまだ商店」です。

応対してくださったのは、営業の方と製造部長さん。

最初、製造部長さんは「いま職人はひとりしかいないし、普段は別の仕事で稼働しているから毎日もっていかれちゃうのは厳しいなあ」と他の会社さんと同じように難色を示されていました。

ただ、そのとき私たちは、おふたりに向かって話し続けたんです。

「函館の昆布産業の誇りを、全国から来るお客様に伝えたい」

「職人の技を、朝食の場でお見せしたい」

その言葉を繰り返すうちに、営業担当の方の表情がだんだん変わっていくのがわかりました。

その時に「引退した職人さんとかいないですか?」と藁にもすがる思いで持ち掛けたところ、「いるけど5年くらい連絡とってないしどうだかね?」って。

隣で聞いていた私も、思わず「来た!」と思いました。粘り勝ちでした。

「人間ブルドーザー」との出会い

紹介していただいたのが、松坂さんです。

昆布削りの元熟練職人で、ご自身を「人間ブルドーザー」と名乗るほどパワフルな方。冬にタンクトップで除雪をするという逸話も、最初は冗談かと思いましたが、実際にお会いしたら全然冗談じゃなかった(笑)

「当たり前」の向こう側に、旅がある

2026年3月21日から始まった「目覚めのこんぶッフェ」では、人間ブルドーザー松坂さんなどの「かまだ商店」さんの職人によるおぼろ昆布削りの実演を、朝食会場の「手すき場」で毎日行います。

天井には全長9mの昆布オブジェが広がり、10品の昆布料理と3種の出汁飲み比べをお楽しみいただけます。私たちスタッフも全員が、昆布の魅力を語れるようになってお客様をお迎えします。

「あって当たり前」だと思っていたものが、旅行者・ゲストにとっては忘れられない体験になる。そしてその体験が、街の生産者の誇りを未来へつないでいく。中村の「昆布を推していこう」という宣言は、私たちスタッフ全員の言葉になりました。函館の朝、目が覚めたその瞬間に、昆布の奥深い魅力にも目覚めてほしい -「目覚めのこんぶッフェ」という名前には、そんな願いが込められています。

OMO5函館

百二十%ハコダテ

日本屈指の夜景や海鮮、朝市、異国情緒漂う町並みと魅力が揃うリピート必須の街。だからこそ楽々移動できるOMO専用バスが大活躍。源泉かけ流しの温泉に浸り、ファイヤープレイスの炎を眺めて湯涼み。5種の海鮮朝食を味わい、プロ御用達の市場でお土産選びをすれば100%の王道魅力にとどまらない、120%の大満足。