私たちが、あえて「手書き」にこだわり続ける理由

金沢片町の「美食沼」へと誘う、ご近所マップに込めた私たちの体温

ようこそ、金沢・片町へ。

私たち「OMO5金沢片町」のスタッフが、毎日ゲストをお迎えするこの場所は、全国的にも珍しいほどディープで、そして愛おしい「食の街」です。
そんな街の人たちが、少し誇らしげに教えてくれる言葉があります。

「片町の店を1日1軒回っても、全部行くには10年はかかるよ」

格子戸の向こうに凛とした空気が流れる老舗割烹から、看板すら出ていない隠れ家のようなバー、そして迷路のように入り組んだ路地にひっそりと佇む名店まで。
そこには、観光客が王道スポットを巡るだけでは決して触れることのできない、食文化が地層のように積み重なっています。

そんな、底知れない魅力を持つ「金沢片町の美食沼」の入り口として、私たちはロビーに大きな「ご近所マップ」を置いています。
実はこのマップ、今の形になるまでには、ある一人のスタッフの情熱と、それを受け継いできた私たちの物語があるんです。

効率化の先に見失いかけた「街の温度」

物語の始まりは、2022年5月の開業時に遡ります。
当時のマップは、今のものとは全く違う姿でした。全国の他のOMOで使われているスタイルと同じで、きれいに整えられた情報が載ったカードをマグネットで貼り出す、とても機能的でスマートなもので、これは、お客様にとって読みやすさ、見やすさを追求した形でした。

でも、そのマップを見て、当時の総支配人がこう言ったんです。

「金沢は、人の思いや歴史がぎゅっと詰まった街だ。見やすさも大事だけど、デジタルが当たり前の時代だからこそ、この街の『体温』や『手触り』をそのまま伝えないと。片町の本当の熱量は伝わらないんじゃないかな」

この一言から、私たちの挑戦が始まりました。
効率を重視するのではなく、あえて手間暇をかけること。金沢の街の歴史や四季折々の街の景色を、私たちの「手」で表現する。

「夜な夜なチョキチョキ」

半分目をこすりながら、眠気と戦いながら、それでも坂井さんの手は止まりませんでした。

「このお店のマスターの優しい笑顔を伝えるには、この色のペンがいい」

「このおでんの湯気まで感じてもらうには、この紙をこう切ろう」

春には満開の桜を、梅雨には瑞々しい雨の風情を、夏には涼しげなガラス細工のような演出を。シーズンが変わるたびに、巨大なマップはまるで生き物のように姿を変えていきました。

桜が咲き始めれば、3日に1回は情報を書き換える。そんな熱い更新が、マップに「体温」を宿していったのです。

「片町」という名のディープな迷宮へ

坂井さんがそこまで情熱を傾けたのは、何より彼女自身がこの北陸随一のグルメタウン「片町」の圧倒的なファンだったからです。

一歩路地へ入れば、そこには昭和の残り香と、新しい感性が混ざり合った独特の熱気が漂っています。

色褪せたネオン看板が並び、重厚な扉の向こうからは笑い声が漏れてくる。

初めて訪れる人にとっては、正直に言って「どの扉を開けるのが正解なのか、一番勇気がいる場所」かもしれません。

「お店の前まで行って、やっぱり怖くて引き返して。でも気になって、また戻って……。そんな風に、お店の前を3周ほど歩いてしまう。そんな経験、片町では日常茶飯事なんです」

坂井さんはそう笑って振り返ります。

でも、その「3周した先」にある扉を思い切って開けたとき、そこには想像もしなかった温かい世界が広がっています。

例えば、彼女が愛してやまない「びあだるBJ」さん。

狭い階段を上がった先にあるその店は、一見すると常連さん以外お断りのような雰囲気。

でも一歩中に入れば、マスターの柔らかな笑顔と、こだわり抜かれたビールの深い味が待っています。

坂井さんは、そこでマスターが語る「片町の歴史」や「料理への想い」を、一文字一文字こぼさないようにメモし、それをマップのポップへと落とし込みました。

「複数のレストランを営んできた、ビールに対するこだわりが強いマスターがいらっしゃいます」

「初めて出会うお客さんとのつながりをマスターが作ってくれます」。

実際にその椅子に座り、店主と酒を酌み交わした彼女にしか書けない言葉が、ゲストの「不安」を「期待」へと変えていきました。

継承される想い、そして進化

そして、片町のディープな魅力を深掘りしていた坂井さんは、この金沢で経験したことを活かす次なるステップとして、千葉・浦安にある1955 東京ベイへの異動しました。 そのバトンを受け取ったのが堀さんです。

堀さんは初めて坂井さんのマップを間近で見たとき、そこには、単なる観光案内ではない、一人の人間が街に対して注いだ膨大なエネルギーを感じたと言います。

それは、文字の一つひとつ、切り絵の角度一つひとつに、彼女の「街への思い」が詰まっていました。

「この熱量を、絶やしてはいけない」

そう強く感じた一方で、宿泊ゲストのニーズは刻一刻と変化しています。

ゲストからは「手書きは素敵だけど、スマホで情報を持ち出せたらもっと便利なのに」というお声もいただくようになりました。

私たちは、マップのデザインを一新するタイミングで、何度も何度も話し合いました。

「効率を求めて、全てをデジタルに戻すべきか。それとも、この『非効率な体温』を信じ続けるべきか」

私たちの出した答えは、その両方を高い次元で融合させることでした。

見やすさを追求し、英語表記を加え、QRコードからGoogleマップへ飛べる利便性も取り入れました。

でも、その便利さの「芯」にあるのは、今も私たちの「手書きのメッセージ」です。

そして、坂井さんが築いてくれたこのマップに、私自身の「足で見つけた感動」も加えていきました。

その一つが、「酒と食遊人 みなと」さんです。 温かな灯りと活気につつまれた店内、金沢ならではの美味しい海鮮料理と地酒との至福のペアリング。どんなときも変わらぬ笑顔で迎え入れてくれる接客に触れるたび、「この街に移り住んで良かった」と心から実感します。

坂井さんの想いを継承しながら、今の私たちが心から「伝えたい!」と思う新しい情報を吹き込んでいく。そうすることで、マップは今も鮮度を保ち続けています。

私たちと一緒に「美食沼」へ

今、ロビーにあるご近所マップは、九谷焼や金沢漆器といった伝統工芸品とともに、より美しく、より多層的に彩られています。

どうか近くに寄って、じっくりと見てみてください。

そこには今も、私たちスタッフが実際に片町の路地を歩き、暖簾をくぐり、心から「美味しい!」「大好きだ!」と感じた「生の声」が、手書きの文字として躍っています。

私たちは、皆さんに金沢を「有名な観光地をなぞって帰るだけの場所」にしてほしくないんです。

片町の細い路地で迷い、3周した末に勇気を出して扉を開ける。そこで出会う店主の笑顔や、一口食べた瞬間に「金沢に来てよかった」と思わせてくれるような地酒の味。

そんな、深くて温かい「金沢片町の美食沼」に、どっぷりと、肩まで浸かってほしいのです。

10年かけても回り切れないこの街の、最初の一歩。

坂井さんが灯した情熱は、今も私たちの心の中で、そしてこの一枚のマップの中で、皆さんの足元を優しく、力強く照らしています。

「今日は、どの扉を開けてみようかな」 そう思ったら、ぜひマップの前にいる私たちに声をかけてください。ガイドブックには絶対に載っていない、私たちの「大好き」を、精一杯の体温を込めてお伝えします。

皆さんがこの街の虜になり、いつの間にか「美食沼」から抜け出せなくなっている……そんな姿を見送れる日を、私たちは楽しみに待っています。

OMO5金沢片町

あっぱれ!味のかたまち

江戸時代から続く華やかな工芸品に彩られた文化が今も生活の中に息づいている金沢。この町一番のグルメタウン片町に建つホテルは、歩いて美味探索ができる絶好の立地です。ダルマをかたどった九谷焼アートも楽しいラウンジで加賀特有のお茶を味わい、片町食事の余韻に浸れば、思わず「あっぱれ!」と心がときめきます。