通勤列車に、青森の「魂」を乗せて

冬の静寂を熱狂に変えた、わたしたちの泥臭い挑戦

静寂に包まれた冬の青森。

真っ白な雪原を走る「青い森鉄道株式会社(以降、青い森鉄道)」の車両の中に、まるで夏の熱気が閉じ込められたような空間があります。

地酒の香りが漂い、祭囃子が響き渡り、乗客の笑い声が絶えないその列車こそ、わたしたちが2016年から運行を続けている「酒のあで雪見列車」です。

今でこそ満席となったこの企画ですが、その歩みは、鉄道会社とホテルという、全く異なる「常識」を持つ者同士の共通の課題から生まれた無謀な夢から始まりました。

青森の冬を「熱く」したい—共通の課題から生まれた無謀な夢

かつて、冬の青森は観光客の足が遠のく「静かな季節」でした。

わたしたち青森屋も、お客様に青森らしい体験をもっと届けたいと願いながらも、冬ならではの旅行ニーズを満たす季節の体験の不足という大きな壁に直面していました。

それは、地域の足である青い森鉄道も同じでした。

通学や通勤という地元の生活路線としての役割をしっかりと果たしていましたが、冬の時期に観光で利用されるお客様は少なく、地域の大切なインフラをいかに維持し、盛り上げていくかという経営上の課題を抱えていたのです。

「この列車をまるごと貸し切って、観光列車にできないか。移動そのものを、忘れられない旅の思い出にしたい」

この提案は、そんな両社の停滞感を打ち破るための、いわば「一石二鳥」を狙った挑戦でした。

「できない理由」を一つずつ、泥臭く塗り替える

しかし、理想と現実はかけ離れていました。

鉄道会社にとって列車は「安全に、正確に、速く人を運ぶ」ためのもの。一方、わたしたちは「非日常の旅の感動」を提供したいホテル運営会社。この目線の違いが障壁となりました。

「ゴミや汚れの清掃はどうする」「ダイヤは細かく決まっていてこれまでイレギュラーで変更をしたことが無い」。

最初はこれまでやったことのない取り組みに対して「実現するための壁」が多く、不安の中での議論でした。

それでもわたしたち青森屋と青い森鉄道はどうやったらできるのか、従来の発想からの脱却を目指し、まずは鉄道会社の担当者や駅の方々を青森屋に来てもらうことに。

スタッフが祭囃子を演奏し、青森の文化を全力で伝える姿を実際に見てもらうことで、わたしたち青森屋が青い森鉄道と実現したいこと。来てくれるお客様に提供したいことのイメージをすり合わせ、「単なるイベントではなく、青森の文化を伝え、青森を愛してもらう体験を作り、一緒に青森を元気にしたい」という真剣な想いを共有したのです。

そこからは、まさに泥臭い共同作業でした。

揺れる車内での提供手順、そして提供物で出たゴミ捨てのオペレーション構築。運行ダイヤについても、何度も話し合いを重ね、一致点を探りました。

一歩進んでは壁に突き当たる、そんな粘り強い調整が半年以上続きました。

異様な雰囲気の中での初陣と、手応え

2016年、ついに運行開始!

しかし、初年度の参加者はわずか定員総数が約120名に対し、49名のみ。しかも当時は、2両編成のうち1両だけを貸し切り、もう1両には一般のお客様が乗っているという、今思えば「異様な雰囲気」でのスタートでした。

卒業式帰りの高校生たちで一般車両が満員になり、お祭り騒ぎのわたしたちの車両に学生たちが雪崩れ込んできたこともありました。駅のホームでお囃子を披露して、駅員さんに「アナウンスが聞こえない」とご迷惑をおかけしたことも。

しかし、転機が訪れました。

初年度の取り組みが全国放送の旅番組に取り上げられたのです。

「自分たちの列車が、全国の人を笑顔にしている」。これまでの不安が自信に変わる出来事でした。

その出来事の翌年からは、2両全ての貸切が実現し、青い森鉄道の方から「電車内に酒のあで雪見列車のポスターを掲示しましょう」とアイデアが出てくるようになったのです。

手ごたえを感じた瞬間でした。

5回も乗りたくなる、おせっかいでぬくもりのある接客

約1時間半を移動する車内では、料理やお酒を「提供して終わり」にせず、スタッフが会話のきっかけをつくりながら、青森の楽しみ方を一緒に広げていきます。

たとえば、料理をご提供する際に調理法や食材の背景をお伝えしたり、県内酒蔵の方をご招待した時は、その場で日本酒の味わい方やおすすめの飲み比べを紹介して、お客様との会話が自然と深まったり。

さらに、地域ならではの食べ方の「自慢」を交えたり、立ち寄り先の観光情報をお話ししたりと、少しおせっかいなくらいに寄り添うやりとりが、車内で生まれています。

そんな中で、耳の聞こえないお客様と筆談で心を通わせ、笑顔で「楽しかった」と言っていただけたこと。

1時間半を通して、最後にとびっきりの笑顔で帰っていかれたこと 。

九州などの遠方からわざわざ休みを取って、5回もリピートしてくださるような熱狂的なファンの方がいたりと。

書ききれないほどの、こうした一つひとつの中身の濃いやり取りが、この企画を育ててくれました。

次なる10年へ

2026年1月、列車は10周年を迎えました。

かつてスタッフが、不安と戦いながら情熱で作り上げたこの「1両」 。 その想いは今、自治体も巻き込み、青森の魅力を届けるさらに大きな物語へと進化しています。

わたしたちはこれからも、青森を愛する人々とともに、青森の魅力を発信し続けていきたいと思います。

青森屋

青森県・三沢市にある青森文化を体感する宿

「のれそれ(*青森の方言で目一杯の意味)青森 ~ひとものがたり~」をコンセプトに、青森の祭りや方言などの 文化を満喫できる温泉宿。約 22 万坪の敷地内には、池や古民家が点在する公園もあり、食事や多彩なアクティビティを楽しむことができます。